弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

普通解雇であっても、弁明の機会を付与していないことが、解雇無効を導く根拠とされた例

1.問題行為を理由とする普通解雇に弁明の機会付与は必要か?

 懲戒解雇を行うにあたっては、弁明の機会付与など適正な手続を踏むことが必要だと理解されています。例えば、水町勇一郎『詳解 労働法』〔東京大学出版会、第3版、令5〕600頁には、次のような記述があります。

「懲戒処分を行うにあたっては適正な手続を踏むことが必要である。労働協約や就業規則上,労働組合との協議や懲戒委員会(賞罰委員会)の開催等の手続を経ることが規定されている場合には,その手続を経ずになされた懲戒処分は原則として無効となる。懲戒委員会等では,事実関係を具体的に明らかにしたうえで,懲戒事由該当性や懲戒処分の必要性・相当性を具体的に検討することが求められる。これらの手続のなかで最も重要なのは,労働者(被処分者)に弁明の機会を与えることである。被処分者に懲戒事由を告知して弁明の機会を与えることは,就業規則等にその旨の規定がない場合でも,事実関係が明白で疑いの余地がないなど特段の事情がない限り,懲戒処分の有効要件であると解される」

 これは飽くまでも一つの有力な学説であり、裁判実務上、必ずしも手続違反だけで懲戒解雇が無効になっているわけではありません。しかし、少なくとも懲戒解雇にあたり弁明の機会付与等の手続が不要だと言い切る見解は見たことがありません。

 しかし、普通解雇となると話が違ってきます。規律違反行為や問題行動を理由とする場合であったとしても、必ずしも弁明の機会付与が必要と理解されているわけではありません。

 このような状況のもと、近時公刊された判例集に、普通解雇でありながら、弁明の機会付与がないことを指摘したうえで解雇無効の結論を導いている裁判例が掲載されていました。昨日もご紹介した、大阪地判令7.3.14 学校法人明治学院事件です。

2.学校法人明治学院事件

 本件で被告になったのは、大学等の教育期間を設置、運営している学校法人です。

 原告になったのは、被告との間で、令和2年4月1日~令和3年3月31日までを契約期間とし、特別ティーチング・アシスタント(特別TA)として勤務していた方です。春学期は火曜日と金曜日に、秋学期は火曜日に勤務することになっていました。

 原告の方は、

「令和2年9月7日、D空港からE空港に向かう航空機に搭乗した際、客室乗務員からマスクの着用を求められたが、これを拒否したことに端を発して、他の乗客らとの間で口論となり、さらに客室乗務員との間でもトラブルとなり、上記航空機の機長は、上記航空機をF空港に臨時着陸させた」(本件事件)

として、令和3年1月19日、威力業務妨害、傷害、航空法違反で逮捕されました(ただし、裁判官は勾留の必要性を否定して原告を釈放)。

 その翌日・令和3年1月20日、被告は、原告の解雇を通知しました(本件解雇)。

 このような事実関係のもと、原告の方は、解雇は無効なもので不法行為を構成すると主張し、被告に対して損害賠償を請求する訴訟を提起しました。

 この事件の裁判所は、次のとおり述べて、解雇は無効だと判示しました(ただし、損害賠償請求は否定)。

(裁判所の判断)

「本件解雇は、有期雇用契約の契約期間満了前の解雇であるから、『やむを得ない事由』がある場合でなければすることができない(労働契約法17条1項)。有期雇用契約の要件である『やむを得ない事由』は、無期雇用契約の解雇の要件である「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」よりも厳格に解するのが相当である。」

「以下、本件解雇につき、『やむを得ない事由』が認められるか検討する。」

「被告は、本件解雇に係る通知書において、解雇の理由として、〔1〕本件逮捕当日の業務を理由の説明なく放棄したこと、〔2〕本件逮捕等に伴う身柄拘束等により業務を遂行することが困難であることを挙げている・・・。」

「この点、上記〔1〕については、確かに、被告において、特別TAに不測のトラブル等が発生した場合、特別TAは原則としてコーディネーターに報告し、その指示に従い対応するというルールがあるところ・・・、原告は本件逮捕時にコーディネーターに連絡していないが・・・、他方で、原告は同僚の特別TAに勤務の交代を依頼し、その承諾を得ていること・・・に照らせば、原告が業務を放棄したと評価することはできないし、労契法17条の『やむを得ない事由』を根拠付ける事由であるとは認められない。」

「また、上記〔2〕については、原告は本件逮捕の3日後である令和3年1月22日に身柄を釈放されており、次の勤務予定日(同月26日)の4日前に身柄を釈放されていること・・・に照らせば、身柄拘束により業務を遂行することが困難であったとはいえず、労契法17条の『やむを得ない事由』を根拠付ける事由であるとは認められない。」

「被告は、本件解雇の理由として、上記〔1〕、〔2〕のほか、〔3〕本件逮捕の被疑事実の内容等の重大性や〔4〕原告に業務を担当させることによる学生に対する影響を挙げる。」

「なお、原告は、本件解雇当時、被告は上記〔3〕、〔4〕を解雇の理由として挙げておらず、認識していなかったから、本件解雇の理由にならない旨主張するけれども、本件解雇は懲戒解雇ではなく普通解雇であるから、解雇当時に存在した事由であれば、解雇の有効性の判断において考慮することができるというべきである。」

「よって、原告の上記主張は採用できない。」

「上記〔3〕について、本件解雇時は未だ捜査段階であり、原告の行為の内容及び刑事責任の有無、程度は未確定であったが、その後、刑事裁判において、本件逮捕に係る被疑事実のうち、威力業務妨害及び航空法違反の罪は認定されたものの、傷害については暴行の限度で認定された・・・。本件においても、傷害を認めるに足りる証拠はない。」

「そして、原告が刑事裁判で認定された行為に及んだことを前提としても、私生活上の非行であること、上記行為の内容は決して軽視できるものではないが、客室乗務員に対する暴行の程度は大きいものではないこと、被告は、遅くとも令和2年10月頃には原告が本件事件の被疑者であることを認識していたにもかかわらず、原告に対する事実確認をしないまま、原告を特別TAとして勤務させ続けており・・・、その間原告が学生との関係等で特段の問題を起こしたことはうかがわれないこと、それにもかかわらず、被告は、本件逮捕後、原告と面談して事実確認をする等原告に対する弁明の機会を与えないまま、本件逮捕の翌日に本件解雇に及んでおり・・・、手続上の問題があること、原告の被告における立場(週1日勤務の有期雇用労働者)などを考慮すると、上記〔3〕について、労契法17条の『やむを得ない事由』を根拠付ける事由であるとまでは認められない。

「上記〔4〕について、本件事件及び本件逮捕は、全国的に報道され、新型コロナウイルス感染症の流行下における航空機内でのマスク拒否を発端とするものであったこともあり、社会的な耳目を集めたことから、原告が引き続き特別TAとして学生に対応することによる学生に対する影響や社会的な批判を考慮する必要があったとしても、原告が学生と接触する業務は令和4年1月26日の1日しか残っていなかった・・・のであるから、原告に同業務を担当させず、有給休暇の取得を促すなどの対応が可能であったといえるし、学生と接触することのない秋学期振り返り研修に参加することは可能であったといえる。」

「以上によれば、上記〔4〕について、労契法17条の『やむを得ない事由』を根拠付ける事由であるとは認められない。」

「以上のとおりであるから、本件解雇は、労契法17条の『やむを得ない事由』があるとは認められず、無効である。」

3.弁明の機会付与が必要とされた

 上述のとおり、裁判所は本件解雇の法的性質を普通解雇と位置付けつつ、弁明の機会付与がされていないことなどを根拠に、その効力を否定しました。

 普通解雇でありながら弁明の機会付与がないことを問題にする裁判例は、下記のとおり近時散見されるようになっていますが、

普通解雇であっても、疑念を明示的に説明した上でその言い分を聴取するなどの手続を経ていないことなどから解雇の社会通念上の相当性が否定された例 - 弁護士 師子角允彬のブログ

服務規律違反を理由とする普通解雇と弁明の機会付与 - 弁護士 師子角允彬のブログ

懲戒解雇でなくても弁明の機会付与は必要?-能力不足を理由とする普通解雇の可否を判断するにあたり、手続的相当性(弁明の機会の欠如等)が問題視された例 - 弁護士 師子角允彬のブログ

本件は、こうした流れに一例を加えるものとして、実務上参考になります。