1.派遣労働者への雇止め
派遣労働者への雇止めの可否が問題になった事件に、最二小決平21.3.27労働判例991-14 伊予銀行・いよぎんスタッフサービス事件があります。
これは、
「派遣法は、派遣労働者の雇用の安定だけでなく、常用代替防止、すなわち派遣先の常用労働者の雇用の安定をも立法目的とし、派遣期間の制限規定をおくなどして両目的の調和を図っているところ、同一労働者の同一事業所への派遣を長期間継続することによって派遣労働者の雇用の安定を図ることは、常用代替防止の観点から同法の予定するところではないといわなければならない・・・。そうすると、上記のような原告の雇用継続に対する期待は、派遣法の趣旨に照らして、合理性を有さず、保護すべきものとはいえないと解される。」
と判示した松山地判平15.5.22労働判例863-5、高松高判平18.5.18労働判例921-33の判断を是認した判例です。
派遣労働者であるからといって、直ちに雇止め法理(労働契約法19条)の適用が否定されるわけではありません。しかし、上述のとおり、派遣労働者の雇用継続に対する期待を合理的ではないとした判例があるため、実務上、派遣労働者に対して雇止め法理が適用される場面は、限定的に理解される傾向にありました。
こうした状況の中、派遣類似の労働者に雇止め法理を適用したうえ、その効力を否定した裁判例が近時公刊された判例集に掲載されていました。東京地判令3.7.6労働経済判例速報2465-31 スタッフマーケティング事件です。
2.スタッフマーケティング事件
本件で被告になったのは、労働者派遣事業等を目的とする株式会社です。
原告になったのは、被告との間で有期労働契約を締結し、家電量販店におけるダイソン株式会社の家電製品の販売促進等を業務内容としていた方です。
労働契約上、原告の就業先は、株式会社ベストプロジェクトで、作業場所はビックカメラC店本館とされていました。
これだけを見ると、原告・被告間の労働契約は、労働者派遣契約にも見えます。しかし、本件労働契約は「労働者派遣契約として締結されたものではない」とされています。各会社は、ダイソンがベストプロジェクトに販売促進業務を委託し、これをベストプロジェクトが更に被告に再委託していたという関係にありました。
本件労働契約は5回に渡り更新されました。しかし、勤務態度が不良であることなどを理由に、被告は6回目の更新を拒否しました。これを受けて、原告が雇止めは無効であると主張して、地位確認等を求める訴えを提起したのが本件です。
裁判所は、次のとおり述べて、雇止め法理を適用したうえ、その効力を否定しました。
(裁判所の判断)
・本件労働契約の更新に対する合理的期待について
「本件雇止めまでに本件労働契約が5回にわたり更新されていることは当事者間に争いがない。被告は、本件労働契約に係る業務(家電量販店における販売促進業務)について、時季ごとの一時的な需要に応じて人員の増減を要するものであることを主張するが、かかる主張を基礎付ける具体的事実の主張立証はない。そうすると、原告において、本件労働契約の期間満了時(令和元年12月末日)に、本件労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があると認められる(労働契約法19条2号)。」
「これに対し、被告は、原告の勤務態度に問題があることを度々注意指導しており、原告において本件労働契約が更新されない可能性があることを十分理解していた旨を主張するが、かかる事実を認めるに足りる証拠はない・・・。」
「また、被告は、原告がビックカメラC店での勤務に否定的であり異動を希望していた旨を主張するが、当該事実を前提としても、原告は被告との雇用関係が存続することを前提に勤務場所等の変更を希望していたものというべきであるから、本件労働契約の更新に対する期待の合理性を何ら左右するものではない。」
・本件雇止めの客観的合理性・社会的相当性について
「被告は、原告が出勤の打刻を失念することが頻繁にあった旨を主張するが、証拠・・・によれば、原告の打刻忘れはいずれも令和元年5月までのことであり、その後、本件労働契約が2回更新されていることに照らすと、当該事実が本件雇止めの客観的合理性・社会的相当性を基礎付けるものとはいえない。」
「また、被告は、原告が、〔1〕被告から休日に業務連絡の電子メールを受信したことについて激高し、「休みの日にメールしてくるんじゃねえ。」と連絡を拒絶したこと、〔2〕ベストプロジェクトの従業員(D)が他社の従業員に協力を要請したことについて、不平不満を強硬に主張したこと、〔3〕商品販売に関する指示に従わず、そのことを注意されると記憶にないなどと大声で叫んだこと、〔4〕ダイソン本社で行われた研修の際、ベストプロジェクトの従業員(E)が他社の従業員に原告の時給が高額であると発言したとして、Eがどこにいるのかと大声でわめいたことを主張するが、原告がかかる感情的な言動に及んだ事実を認めるに足りる証拠はない。」
「さらに、被告は、原告が自らの勤務態度や知識不足等について繰り返し指導を受けたにもかかわらず改善がみられなかったと主張し、その証拠としてベストプロジェクトや被告の従業員が送信した電子メール・・・を提出するが、これらのうち乙第1号証・第2号証については、そもそも原告の勤務態度等に問題がある旨が指摘された事実を認めることができず、乙第7号証・第8号証によれば、ダイソンの会議等において原告の接客方法が問題視された事実が認められるものの、それを踏まえて原告に対し指導がなされた状況や指導を受けた原告の対応に関する証拠はなく、原告が勤務態度等について指導を受けたにもかかわらず改善がみられなかった事実を認めることはできない。」
「そうすると、本件雇止めは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないものというべきである(労働契約法19条柱書)。」
3.派遣と大差ないように思われるが・・・
被告は本件労働契約が労働者派遣契約であるとは主張しませんでした。想像ですが、労働者派遣契約と主張してしまうと、別途、偽装請負ではないかという論点を提示されることを懸念したからであるかも知れません。
実体が労働者派遣であるものの、被告側がこれを否認しそうな事案では、労働者派遣契約であることを前提とした主張は敢えてせず、雇止めという切り口から攻めて行くことも考えられそうです。