弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

どのように点数化されるのかが不明で、制度的に恣意性が排除されることが担保されているものとはいえないなどとして年俸額の改定が無効とされた例

1.年俸額の改定

 年俸制で働いている労働者は、査定や評価によって次年度の年俸を決められることがあります。査定や評価によっては、年俸額は減額されることもありますが、

「減給措置が適法になされるためには,①能力・成果の評価と賃金決定の方法が就業規則等で制度化されて労働契約の内容となっており,かつ,②その評価と賃金額の決定が違法な差別や権利濫用など強行法規違反にならない態様で行われたことが必要になる」

と理解されています(水町勇一郎『詳解 労働法』〔東京大学出版会、第3版、令5〕648頁参照)。

 ここで言う就業規則等で制度化された仕組みは、合理的なものでなければならず(労働契約法7条参照)、公正な内容であることが求められます。

 それでは、使用者による年俸の改定を無効とするような不公正な制度とは、どのような仕組みを言うのでしょうか。東京地判令7.6.5労働判例ジャーナル164-36フォーエムライト事件は、この問題を考えるにあたり、参考になる判断を示しています。

2.フォーエムライト事件

 本件で被告(反訴原告)になったのは、パーソナルコンピュータのパッケージソフトの開発販売、コンピュータソフトウェアの開発受託等を目的とする株式会社です。

 原告になったのは、被告との間で期間の定めのない雇用契約を締結した公認会計士の方です。元々、原告の年俸額は800万円とされていましたが、被告によってこれが650万円へと改定されました(本件賃金減額〔1〕)。

 その後、退職勧奨、主事補から一般職への降格、年俸額の減額(減額後の年俸480万円、本件賃金減額〔2〕、転勤命令、営業職への職種変更命令を経て、原告の方は適応障害に罹患し、休職、休職期間満了による自然退職へと至りました。

 このような経過のもと、原告の方は、本件賃金減額〔1〕の無効を理由に差額賃金を請求するとともに、一連の措置が不法行為に該当するとして、慰謝料等の支払を求める訴えを提起したのが本訴事件です。

 被告が提起した反訴事件は、立替払いを行った社会保険料等の支払を、原告に対して求めるものです。

 冒頭に掲げたテーマとの関係で注目したいのは、本件賃金減額〔1〕の無効を理由とする差額賃金請求に関する判断です。

 裁判所は、次のとおり述べて、本件賃金減額〔1〕の効力を否定しました。

(裁判所の判断)

「本件雇用契約上、原告の給与は年俸制であるところ、原告は本件賃金減額〔1〕に応じていないから、被告が原告の年俸額を一方的に決定する権限を有するかが問題となる。」

「本件雇用契約にかかる雇用契約書・・・には、『給与の改定は、原則として7月と1月に実施する。ただし、改定が実施されない場合は上記年俸を継続して適用する。』(以下『本件給与改定合意』という。)とされているほかに、同書面及び本件就業規則上も、年俸額決定のための成果・業績評価基準、年俸額決定手続、減額の限界の有無等具体的な定めが置かれていない。

「賃金が労働条件の中でも最も重要なものの一つであり、このような労働条件は、労働者及び使用者が対等の立場で合意して決めるべき事項であること(労働契約法3条、労働基準法15条、89条参照)に照らすと、本件給与改定合意は、原告と被告が客観的で合理的な年俸額の決定方法を合意した場合に、これに従って、被告に原告の年俸額を決定する権限を付与することを合意したものと解するのが相当である。」

「前記認定事実によれば、被告は、力量基準レベル・・・に基づいて各従業員の力量・成果を各グループ長が査定し、100点を最高点として評価点を付け、従業員を順位付けし、かかる人事評価の序列と年収(諸手当、賞与等を加えたもの)が可能な限り一致するよう均衡を図り、給与額を決定するという方法をとっていたものである。力量基準レベル・・・は、求められる力量が3段階で示されたものであり、査定する際の考慮要素は示されているものの、これがどのように評価されて点数化されるのかは明らかでなく、また、どのような場合に、どの程度の金額が減額されるのかといった客観的な基準が示されたものでもない。

被告は、原告について、その査定の序列と原告の年収の乖離が激しいとして、原告の年収を減額しているが、序列とそれに見合う年収の乖離率といった基準があるとも認められないし、そもそもその序列は新入社員を含めた全社員を一律に並べるというものであって・・・、そのような序列と原告の年収の乖離を見るということ自体の合理性も疑問がある。

さらに、減額の限界も設定されておらず、減額の幅が大きくなりすぎないよう被告において事実上配慮して給与額を決定するというのであり・・・、制度的に恣意性が排除されることが担保されているものともいえない。

そうすると、原告と被告との間で、客観的で合理的な年俸額の決定方法が合意されているとはいえないから、本件給与改定合意をもって被告が原告の年俸額を一方的に決定する権限を有しているとは認められない。

したがって、原告の同意なくされた本件賃金減額〔1〕は無効である。

「また、本件賃金減額〔1〕は、年俸を800万円から650万円とし、減額の幅は18.75%に及び、労働基準法91条が定める減給の制裁についての限界をも大きく超えるものであることからしても、無効であるというべきである。」

3.年俸額の改定が無効とされた

 以上のとおり、裁判所は、制度的に恣意性が排除されていることが担保されているものとはいえないなどとして、年俸額の改定の効力を否定しました。

 裁判所の判断内容を見ると当然だと思われる方もいるのではないかと思いますが、どのような根拠に基づいて点数がつけられているのか良く分からない制度は、実務上それなりの頻度で見られます。

 裁判所の判断は、恣意的な年俸額の減額に対抗して行くにあたり、実務上参考になります。