1.1か月単位の変形労働時間制
労働基準法32条の2第1項は、
「使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、又は就業規則その他これに準ずるものにより、一箇月以内の一定の期間を平均し一週間当たりの労働時間が前条第一項の労働時間を超えない定めをしたときは、同条の規定にかかわらず、その定めにより、特定された週において同項の労働時間又は特定された日において同条第二項の労働時間を超えて、労働させることができる」
と規定しています。これを「1か月単位の変形労働時間制」といいます。
「前条第一項の労働時間」とは法定労働時間のことです。
それでは、変形労働時間制の適用を受ける労働者に法定労働時間を超えるシフトをはめ込んだ場合、それは「前条第一項の労働時間を超えない定め」ということができるのでしょうか? 上限時間を超えない部分が法定労働時間、上限時間を超える部分は残業時間という区分けのもと、「前条第一項の労働時間を超えない定め」をしているわけではないとの論理が通用する余地はないのでしょうか?
また、シフト表には休憩時間が明記されていないこともあります。この場合に「シフトには休憩時間が含まれていない」として、休憩時間を控除すれば帳尻が合うなどと主張ことは許されないのでしょうか?
近時公刊された判例集に、これらの問題を考えるうえで参考になる裁判例が掲載されていました。東京地判令7.9.10 グッドヌードルイノベーション事件です。
2.グッドヌードルイノベーション事件
本件で被告になったのは、ラーメン店を営む株式会社です。
原告になったのは、被告との間で有期労働契約を締結し、1か月単位変形労働時間制のもと、店舗業務や本社業務に従事していた方です。未払割増賃金や付加金等を求める訴えを提起したのが本件です。被告が上限を超えたシフトを割り当てられたり、休憩時間の記載のないシフト表を交付したりしていたことから、こうした扱いが「前条第一項の労働時間を超えない定め」と認められるのか否かが問題になりました。
本件の被告は、次のような主張を展開しました。
(被告の主張)
「原告は、1週平均の所定労働時間が40時間又は44時間を大幅に超え、休憩時間の記載もなく、1日どの程度の労働時間となるのかが全く不明な勤務シフトを被告が示していた旨主張する。」
「しかしながら、当該シフトについては、『所定労働時間は1ヶ月を平均し、1週間あたり週法定労働時間を超えない範囲とします。』との就業規則等41条1項の定めに照らせば、シフトのうち、起算日から時系列に沿って数え上げて1週間当たり週法定労働時間に達するまでの部分が所定労働時間で、当該範囲を超える部分が残業時間であると特定することが自然かつ合理的である。」
「また、休憩時間の点についても、就業規則等において、「始業・終業の時刻、休憩時間は、勤務シフト表にて決定します。」(41条1項)、「休憩時間とは、食事・喫煙時間等、社員が業務を離れてから、業務へ戻るまでの時間をいいます。」(同条8項)と定められていることや、雇用契約書において、休憩時間は原則として90分と定められていることなどを踏まえると、シフト表においては、合計90分の休憩時間を任意の時間帯に取得するという方針で決定されていたものと解するのが自然かつ合理的である。」
しかし、裁判所は、次のとおり述べて被告の主張を排斥し、1か月単位変形労働時間制の効力を否定しました。
(裁判所の判断)
「変形労働時間制は,変形期間中の週平均労働時間が法定労働時間の範囲内であることを要するところ、前記・・・のとおり、令和3年2月以降、原告の労働時間について、週40時間の上限規制が適用されるから、週44時間の上限規制を前提とする変形労働時間制を適用する余地はない。また、被告においては、原告のシフトとして、週平均44時間を大幅に超えるシフト表が作成されており、例えば、令和2年11月についてみると、原告について、シフト表上の労働時間は合計225.5時間(そのほか1日講習あり)となっている(なお、当該シフト表上、休憩時間は明記されていないから、全て労働時間を定めたものとみざるを得ない。・・・)。これらのことからすれば、被告における変形労働時間制は、原告との関係では、『一箇月以内の一定の期間を平均し一週間当たりの労働時間が前条第一項の労働時間を超えない定め』(労基法32条の2第1項)をしたものとは認められず、無効である。」
「これに対し、被告は、シフトについては、就業規則等41条1項に照らせば、シフトのうち、起算日から時系列に沿って数え上げて1週間当たり週法定労働時間に達するまでの部分が所定労働時間で、当該範囲を超える部分が残業時間であると特定することが自然かつ合理的である旨主張する。」
「しかしながら、シフト表上は、所定労働時間と残業時間が何ら区別されていないところ・・・、このようなシフト表からは、起算日から時系列に沿って数え上げて1週間当たり週法定労働時間に達するまでの部分が所定労働時間で、当該範囲を超える部分が残業時間であると特定することはできず、被告の主張は理由がない。」
3.残業時間だ・休憩時間が含まれていない、の主張は通らなかった
以上のとおり、上限時間を超過するシフト表の交付について、
上限時間を超える部分は残業時間だ、
休憩時間が考慮されていない、
といった被告使用者側の主張は排斥されました。
変形労働時間制は問題が多い制度で、その有効性をめぐる紛争が頻発しています。
裁判所の判断は、変形労働時間制の効力を争ってゆくにあたり、実務上参考になります。