1.アカデミックハラスメント
大学等の教育・研究の場で生じるハラスメントを、アカデミックハラスメント(アカハラ)といいます。
多くの大学はアカデミックハラスメントをハラスメント防止規程等で禁止しています。しかし、セクシュアルハラスメントやパワーハラスメントとは異なり法令上の概念ではなく、その意味内容は各大学が整備している定義規定によって異なります。
ただ、単なる厳格な指導までに該当することがないように、アカデミックハラスメントの成立する範囲には、一定の限定が付されているのが普通です。そのため、単発の言動が、直ちにアカデミックハラスメント(ないし不法行為)に該当する例は、それほど多くはありません。パワハラの成否を判断するにあたり「頻度・継続性」が考慮要素とされていることからも類推されるように(注)、アカハラの成否を判断するにあたっても一定の頻度や継続性は、当然、その成否を論じるうえでの考慮要素となります。
(注)https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000584512.pdf
しかし、強烈な言動がとられていれば、頻度や継続性を問うまでもなく、一発でアウトとされることもあります。近時公刊された判例集にも、1回の叱責でも学生に対する不法行為の成立が認められた裁判例が掲載されていました。名古屋高判令7.4.25労働判例ジャーナル163-30学校法人東海学園事件です。
2.学校法人東海大学事件
本件は大学院生が原告となって、指導教官から人格や尊厳を侵害する不当な叱責を受けたなどと主張し、指導教官Bと学校法人に対して損害賠償を請求した事件です。
一審が原告の請求を一部認容したところ、原告側・被告側の双方から控訴がありました。二審も双方の控訴を棄却し、原審を維持しているのですが、被告とされた指導教官Bの言動について、次のような判断を示しました。
(裁判所の判断)
「1審被告らは、本件叱責については、1審原告が令和4年5月14日午前の本件演習を欠席することがあらかじめ1審被告Bに伝わっていなかったことから指導として行われたものであること、1審原告は本件叱責を受けても冷静に行動していて畏縮などしておらず、積極的に食い下がっているなどしていることからすれば精神的な打撃は大きいとは考えられないこと、叱責の回数も1回にとどまることなどからすれば、本件叱責は学生に対する指導として許容される範囲内のものであって不法行為に当たらない旨主張する。」
「しかし、前記引用に係る原判決認定事実・・・によれば、1審被告Bは、1審原告が同月14日は欠席する旨を1週間前に伝えたと何度も説明しようと試みるも、全く言い分を聞こうともせず、休む前日に連絡をしないのが悪いなどと一方的に1審原告に非があるものと決めつけて頭ごなしに叱責したものである。そして、その表現も過度に乱暴であって、1審原告が研究室に謝罪に来なければ教室で叱責しようと思っていたが、それをすれば1審原告は恥をかいて本件大学院を辞めることになっただろうなどといった退学を示唆する趣旨の発言もあり、上記叱責は教員の学生に対する指導として相当な範囲を逸脱しているといわざるを得ない。」
「また、1審原告が何度も説明しようと試みていることや1審被告Bから出ていけと言われて退室しなかったことなどをもって1審原告が冷静に行動していたなどということはできず、『おまえは猿だよ。人間らしいことやってみろ。それ拭け。』などと述べて1審被告Bがこぼしたコーヒーを拭かせるなど1審原告の人格や尊厳を傷つける侮辱的な言動も含まれるのであって、叱責の回数が1回であることを考慮しても、1審原告が受けた精神的打撃は大きいものであったと認められる。」
「したがって、本件叱責が不法行為に当たることは明らかであり、1審被告らの上記主張は採用することはできない。」
3.流石に一回でも看過し難いだろう
流石に学生を猿呼ばわりして叱責するのは、最早、正当な指導の域を逸脱していると言うほかありません。
このようにうっかりとは言えないような侮辱行為、人格毀損行為がなされている場合、一回の指導でも、違法性が認められることがあります。本件は、一発でアウト(違法)とされる大学教員の言動がどのようなものなのかを知るにあたり、実務上参考になります。