弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

航空会社の客室乗務員のクルーレストが労働基準法施行規則32条2項の「その他の時間」には該当しないとされた例

1.休憩規制とクルーレスト

 労働基準法34条1項は、

「使用者は、労働時間が六時間を超える場合においては少くとも四十五分、八時間を超える場合においては少くとも一時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。」

と規定しています。

 しかし、これには例外があります。

 労働基準法施行規則32条1項が、

使用者は、法別表第一第四号に掲げる事業又は郵便若しくは信書便の事業に使用される労働者のうち列車、気動車、電車、自動車、船舶又は航空機に乗務する機関手、運転手、操縦士、車掌、列車掛、荷扱手、列車手、給仕、暖冷房乗務員及び電源乗務員(以下単に「乗務員」という。)で長距離にわたり継続して乗務するもの並びに同表第十一号に掲げる事業に使用される労働者で屋内勤務者三十人未満の日本郵便株式会社の営業所(簡易郵便局法(昭和二十四年法律第二百十三号)第二条に規定する郵便窓口業務を行うものに限る。)において郵便の業務に従事するものについては、法第三十四条の規定にかかわらず、休憩時間を与えないことができる。

と規定し、労働基準法別表1第4号は、

「四 道路、鉄道、軌道、索道、船舶又は航空機による旅客又は貨物の運送の事業

と規定しています。

 この規定があるため、旅客運送事業を営む航空会社は、6時間以上継続して乗務する客室乗務員に対して休憩時間を与える必要がありません(6時間という数字は労働基準法34条1項から出て来るものです)。

 それでは、便と便の間に間隔があるなどして、6時間以上継続して乗務しているとはいえない場合には休憩を与えなければならないのかというと、そのようなわけでもありません。

 労働基準法施行規則32条2項が、

使用者は、乗務員で前項の規定に該当しないものについては、その者の従事する業務の性質上、休憩時間を与えることができないと認められる場合において、その勤務中における停車時間、折返しによる待合せ時間その他の時間の合計が法第三十四条第一項に規定する休憩時間に相当するときは、同条の規定にかかわらず、休憩時間を与えないことができる。

と規定しているからです。つまり、停車時間や折返しによる待ち合わせ時間、その他の時間の合計が45分ないし1時間以上になる場合、休憩時間を与える必要はなくなります。

 この「その他の時間」との関係で、近時公刊された判例集に興味深い判断を示した裁判例が掲載されていました。東京地判令7.4.22労働判例1332-15 ジェットスター・ジャパン事件です。何が興味深いのかというと、航空会社の客室乗務員の「クルーレスト」と呼ばれている時間帯について、「その他の時間」には該当しないと判断されたことです。クルーレストとは、

「運航乗務員・客室乗務員が休憩や仮眠をとる際に使用するスペース」

を言うとされていますが(クルーレストとは - わかりやすく解説 Weblio辞書)、

休憩や仮眠をとっている時間帯を指す言葉として使われることもあります。

2.ジェットスター・ジャパン事件

 本件で被告になったのは、定期航空運送事業等を行う株式会社です。

 原告になったのは、被告との間で労働契約を締結し、客室乗務員として勤務している方複数名です。

休憩時間が付与されない勤務を命じられ、これに従事したことにより精神的苦痛を受けたとして慰謝料を請求するとともに、

人格権に基づいて休憩時間が付与されない勤務の差止めを請求した

のが本件です。

 本件では上述の「クルーレスト」が労働基準法32条2項に規定されている「その他の時間」に該当するのか否かが争点の一つになりました。

 裁判所は、次のとおり述べて、クルーレストは「その他の時間」には該当しないと判示しました。

(裁判所の判断)

「労基規則32条2項において、休憩時間を与えないことができる場合として例示列挙されている時間の性質、内容等のほか、労基法40条1項は、公衆の不便を避けるために必要なものその他特殊の必要あるものについて、必要最小限度で厚生労働省令による別段の定めをすることを認めるにとどまり、同条2項は、上記別段の定めが、労基法で定める基準に近いものであって、労働者の健康及び福祉を害しないものでなければならない旨を規定していること、労基規則32条2項が創設された際、立法担当者は、同項の趣旨について、勤務中であっても実際に乗務しない時間で乗務時間に比して精神的肉体的に緊張度が低いと認められる時間の合計が労基法34条1項の規定による休憩時間に相当する場合には休憩時間を与えなくともよいこととした旨の説明をしていたこと・・・にも照らせば、労基規則32条2項の『その他の時間』とは、使用者の指揮監督下にあるものの、停車時間、折返しによる待合せ時間のように、実際に乗務しない時間と同程度に精神的肉体的に緊張度が低いと認められる時間をいうものと解するのが相当である。そこで、以下、便間時間及びクルーレストが『その他の時間』に該当するか否か及びその合計時間が労基法34条1項所定の休憩時間に相当するかを検討する。

(中略)

「認定事実・・・によれば、クルーレストは、航空機の運航中、客室サービスが終了した時点における付与が想定されているところ、当該付与の場面は、労基規則32条2項に例示された『停車時間』、『折返しのための待合わせ時間』と比較して、自己の乗務する機体が停止しておらず、むしろ乗客を搭乗させて目的地に向けて飛行中である点において、異なるといわざるを得ない。」

「また、認定事実・・・のとおり、原告ら客室乗務員は、クルーレストを付与された際、ギャレー内で過ごす場合が多かったところ、ギャレーがトイレに近い位置にあることや、その出入口がカーテンで仕切られているにとどまること、クルーレストの付与がされた場合、客席数が180席であるA320及び客席数が238席であるA321において、機内で接客等の業務に当たる客室乗務員が最少で2名のみとなることに加え、被告において、乗客に対し、航空機の運航中であってもクルーレストを取得している客室乗務員がおり、当該客室乗務員が原則として業務を行わないことを知らせる手段を講じていた等の事情はうかがわれず、また、被告は、客室乗務員がクルーレスト中において取るべき対応に係る一般的な業務指示が記載された規程等が存在しなかったことを自認していること・・・を併せ考慮すると、乗客が、クルーレスト中の客室乗務員に要望又は質問をし、当該客室乗務員が、事実上、これに対応する必要が生ずる場面も相応にあったというべきである。」

「さらに、認定事実・・・のとおり、客室乗務員は、機長の指揮監督下で客室の安全の確保に関する業務を行うことがその責務の一つとされており、急病人の発生等の事態が生じた場合、必要に応じて、クルーレストを中断して業務を行う必要があったほか、客室乗務員は、クルーレスト中であったとしても、インターホンが鳴れば、これに応答していたというのである。そして、客室乗務員にクルーレストが付与された事実は機長に伝達されないため、機長は各客室乗務員のクルーレストの有無、時期、時間等を把握しておらず、機長からの指揮監督の密度等について、客室乗務員がクルーレスト中か否かによって、有意的な変化があるとはいい難い。」

「以上によれば、クルーレストは、停車時間、折返しによる待合せ時間のように実際に乗務しない時間と同程度に精神的肉体的に緊張度が低いと認められる時間に該当するとはいえないため、労基規則32条2項所定の『その他の時間』には該当し得ない。」

「被告は、タービュランス(乱気流)が発生した場合においても、客室乗務員がクルーレストを継続することができることなどから、クルーレストは、客室乗務員が手待ち時間と同程度に労働から解放されているため、労基規則32条2項所定の時間に該当する旨主張し、業務手順書・・・の4.30.2.3には、タービュランス中の対応について、『休憩中のキャビンクルーメンバーは、シートベルトを締め、キャビンクルーレストを継続することが出来る』との記載が存在する。しかしながら、客室乗務員は、客室安全業務を行うことが責務の一つとされていること、被告が各機体に国土交通省航空局安全部運航安全課長作成の運航規程審査要領細則により配置が求められている人数を超える人数を配置しているといった事情はうかがわれないこと等に照らすと、上記記載は、いかなる場合もクルーレストを継続することができる旨をいうものと解することはできず、客室乗務員は、タービュランスの発生時期や程度等によっては、機長又はその指示を受けたCSMの指揮命令により、対応をする必要性が生ずる場合もあり得るというべきである。また、業務手順書には、『CSMは、キャビンクルーが着席してシートベルトを締めていることを確認するためのコールバックを開始する』旨の記載があることに照らせば、客室乗務員は、少なくとも一定の業務連絡に応答する必要があることがうかがわれる。これらの事情に加えて、前記・・・で説示した事情を考慮すると、被告の指摘する点をもって、クルーレストが、停車時間、折返しによる待合せ時間のように実際に乗務しない時間と同程度に精神的肉体的に緊張度が低いと認められる時間に該当するということはできず、他に前記・・・の認定判断を覆すに足りる的確な証拠はない。」

「前記・・・で説示したところによれば、本件において、労基規則32条2項所定の時間と認められ得るのは、便間時間のうちの業務外便間時間に限られるところ、業務外便間時間の合計が労基法34条1項所定の休憩時間の時間数に達したのは、原告7ら法定休憩時間到達勤務のみであり、〔1〕それ以外の本件各勤務パターンに該当する勤務、〔2〕原告1パターン外勤務、〔3〕原告4らパターン外勤務及び〔4〕原告35パターン外勤務については、いずれも業務外便間時間の合計が同項所定の休憩時間数に達していない。そうすると、上記〔1〕~〔4〕の勤務については、便間時間及び運航中のクルーレストによって労基規則32条2項所定の時間の合計が労基法34条1項の休憩時間に相当することにはならず、労基規則32条2項の適用によって、休憩時間を付与する必要はない旨の被告の主張は採用することができない。」

3.「その他の時間」に関する珍しい事例

 労働基準法施行規則32条は割とマイナーな条文であり、実務上、これが争点となる事案を目にすることはあまりありません。本件は「その他の時間」に関する希少な先例として参考になります。