弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

生徒のいじめ自殺に関連し、適切な対応を怠ったこと等を理由とする教師への懲戒処分(停職1か月)が取り消された例

1.学校教師の労働問題

 いじめにより児童生徒が自殺する事件は、マスコミによって大々的に報道されます。この報道は世論の怒りを喚起し、しばしば苛烈な犯人捜しが行われます。

 ここで行われる犯人捜しには、いじめの加害者の特定だけではなく、いじめを認知・阻止できなかった教員に対しても行われます。教員に対する責任追及は、公立学校の場合、議会等で取り上げられることもあります。

 事が大きくなってしまうと、行政当局にも「誰も処分しない訳には行かないのではないか」というプレッシャーがかかります。そうした背景のもと、教師に対して懲戒処分が行われることがあります。

 しかし、いじめを発見したり、自殺を阻止したりすることは、決して簡単なことではありません。確かに、事後的に振り返って見ると、徴候のような出来事を特定できなくもないのですが、その時にいじめや自殺の徴候として捉えることを期待することは酷ではないかと言えるケースは、決して少なくありません。

 近時公刊された判例集にも、生徒のいじめ自殺に関連し、適切な対応を怠ったこと等を理由とする教師への懲戒処分(停職1か月)が取り消された裁判例が掲載されていました。水戸地判令6.1.12労働判例ジャーナル147-40 茨城県・県教委事件です。

2.茨城県・県教委事件

 本件で被告になったのは、茨城県教育委員会(処分行政庁)を設置する普通地方公共団体です。

 原告になったのは、市公立学校教諭の方です。担任するクラス(本件クラス)に在籍していた生徒(本件生徒)が自殺したことに関連し、「本件生徒に対するいじめを認知し得る状況にありながら、適切な対応を怠り、本件生徒に対するいじめを認知することができなかったこと」などを理由に停職1か月の懲戒処分を受けました(本件処分)。これに対し、懲戒事由に該当する事実が存在しないとして、本件処分の取消を求めて出訴したのが本件です。

 裁判所は、次のとおり述べて、懲戒事由に欠けるとして、原告の請求を認容しました。やや長いですが、重要な判断です。

(裁判所の判断)

(1)本件生徒の交友関係の変化について

「認定事実・・・のとおり、本件生徒が第3学年に進級して以降、その交友関係に一応の変化があったことが認められる。そして、弁論の全趣旨によれば、原告は、本件生徒の交友関係の変化について格別の対応はとっていなかったことが認められ、本件調査報告書・・・中には、本件生徒が、性格の全く異なる女子生徒Aと一緒に行動していることについて違和感を抱いている教員が複数いたとの旨の記載部分がある。」

「しかし、認定事実・・・のとおり、本件中学校においては、第3学年進級時にクラス替えが実施されており、本件クラスには本件生徒が第2学年時まで親しくしていた生徒はいなかったのであるから、第3学年進級後に本件生徒の交友関係に変化があったことは、それ自体不自然なことではない。」

「また、本件生徒の交友関係の変化がいじめの兆候と評価し得る程に重大なものであれば、上記記載部分にいう違和感を抱いている教員が,本件クラスの担任である原告に対し、本件生徒の様子に注意を払うよう助言をしたり、教員間で本件生徒の様子について情報交換がなされたりしてしかるべきであったが、そのような事情はうかがわれない。以上に加えて、本件調査報告書・・・中には、本件生徒と女子生徒Aとの関係性を直ちに疑い介入することは難しいとの記載部分があることも併せ考慮すれば、上記記載部分をもって、本件生徒の交友関係の変化が、原告において本件生徒に対するいじめの存在を疑い、格別の対応をとるべきであったといえる程に重大なものであったとまでは認めるに足りない。その他、本件生徒の交友関係の変化が、上記の程に重大なものであったことを認めるに足りる的確な証拠はない。」

「したがって、被告が主張するように、原告がいじめの兆候を看過していじめの関係性を固定化させたとは認められない。」

「以上によれば、原告が本件生徒の交友関係の変化について格別の対応をとらなかったことが、信用失墜行為及び全体の奉仕者たるにふさわしくない非行に当たるとは認められない。」

(2)学校評価アンケートにおける生徒らの回答に対する対応について

「認定事実・・・のとおり、本件クラスの生徒3名が、本件アンケートの『いじめなどを心配しないで安心して生活している』との質問項目に対し、『あまりそう思わない』『そう思わない』と回答したこと、原告は上記3名の生徒に対し、本件アンケートへの回答の内容について個別に事情を聴取しなかったことが認められる。」

「しかし、上記回答をした生徒らは、本件生徒とは別の生徒であり、アンケートの自由記載欄にいじめの内容が記載されていたなどの事情はうかがわれず、上記回答をした生徒らが具体的にいかなるいじめについての不安を感じていたのかは明らかでないのであるから、被告が主張するように、上記回答に対する原告の対応が、本件生徒に対するいじめを助長、誘発し、または、本件生徒に対するいじめの関係性を固定化させたとは認められない。」

「以上によれば、本件アンケートにおける生徒らの回答に対する原告の対応が、信用失墜行為及び全体の奉仕者たるにふさわしくない非行に当たるとは認められない。」

(3)本件生徒への進路指導について

「認定事実・・・のとおり、原告は、平成27年7月、本件生徒及びその保護者と本件生徒の進路に関する三者面談をし、かかる三者面談において、本件生徒及びその保護者は、原告に対し、東京都内の私立高校を単願受験することを検討していることを申し出たところ、原告は、他の高校との併願受験の検討を提案したことが認められ、本件調査報告書・・・中には、〔1〕本件生徒及びその保護者が、原告からの併願受験の提案を受けて、私立高校と県立高校との併願受験を申し出たのに対して、原告は、私立高校を第一志望とする場合には県立高校を併願受験することはできないと伝えた、〔2〕原告は、三者面談において、本件生徒の単願受験を認めるかは今後の生活態度を見て決めるという趣旨の発言をしたとの旨の記載部分がある。」

「この点、上記〔1〕の事実について、原告の書面による事情聴取に対する回答書・・・及び本人尋問での供述中には、三者面談時には県立高校を併願受験するとの話はなく、平成27年9月頃に、本件生徒から県立高校の併願受験ができるか質問を受けたが、私立高校と県立高校の希望順位の調整について確認する必要があったから、その場では回答せずに、上記事項を確認の上、翌日、本件生徒に対して併願受験が可能であると伝えたとの旨の記載部分及び供述部分(以下『供述等』という。)がある。かかる供述等はその内容自体不自然なものではない上、P4の陳述書・・・及び証人尋問における証言中に、第3学年の担当教諭の会議において、原告から、本件生徒の進路の関係で、私立高校と県立高校の併願受験についてなにがしかの話が出て、学年で扱いを確認したことがあったとの旨の記載部分及び証言部分があることとも整合し、その信用性を否定するべき格別の事情はうかがわれない。」

「加えて、上記〔2〕の事実について、原告の書面による事情聴取に対する回答書・・・中には、原告は、平成27年6月の本件生徒の欠席日数が多いことが気になっており、その理由次第では受験当日にも体調を崩すなどして欠席することが想定されたため、三者面談においては、単願受験を申し出た本件生徒に対し、念のため併願受験を勧めたものであって、本件生徒の単願受験を認めるかは今後の生活態度を見て決めるとの発言をしたことはないとの旨の記載部分がある。上記と同様に、かかる記載部分も、その内容自体不自然なものではない上、弁論の全趣旨によれば、本件生徒は平成27年6月に学校を欠席することが複数回あったことが認められることとも整合し、その信用性を否定するべき格別の事情はうかがわれない。」

「他方で、本件調査委員会がいかなる資料を根拠に本件調査報告書の上記記載部分を認定したのかは明らかではなく、かかる記載部分を裏付ける証拠はない。」

「そうすると、原告の上記各供述部分及び記載部分に反する本件調査報告書の上記記載部分によっても、上記〔1〕、〔2〕の事実を認めるに足りない。」

「したがって、原告の進路指導において、被告が非違行為として主張する上記〔1〕、〔2〕の事実は認められない。」

(4)個別アルバムの書き込みへの対応について

「認定事実・・・のとおり、女子生徒A及びHは、本件生徒の個別アルバムに、「きらーい」などの書き込みをしたことが認められる。原告が、本件生徒の個別アルバムへの書き込みの内容を認識していなかったことは、当事者間に争いがなく、原告の本人尋問における供述中には、生徒から回収した個別アルバムについて、原告がその内容を網羅的に確認することはなかったとの旨の供述部分がある。」

「この点、認定事実(4)のとおり、個別アルバムは、学校行事の思い出を記録するために生徒同士がメッセージの書き込みをし合うなどして作成されるものであることに鑑みれば、人格非難にわたる記載がされることは通常想定し難い性格のものであると考えられ、担任教諭において、常に、個別アルバムの回収後に内容を確認し、それに基づく指導をするべきであるということはできない。そして、証拠・・・及び弁論の全趣旨によれば、〔1〕本件中学校の第3学年の担任教諭において、生徒から回収した個別アルバムの内容を全て確認することとはされていなかったこと、〔2〕平成27年当時本件中学校の生活指導主事であり、第3学年のクラス担任をしていたP4も、担任するクラスで生徒に個別アルバムの記入をさせた際、生徒全員の個別アルバムの全てを確認することまではしていなかったことが認められることに照らせば、原告が本件クラスの生徒から回収した個別アルバムの内容を網羅的に確認しなかったことは、直ちに、教諭としての職務を怠ったと評価されるものではない。」

「その上で、上記・・・のとおり、本件生徒の交友関係の変化がいじめの存在を疑うべき程に重大なものであったとは認められず、その他、原告が、本件生徒の自殺以前に、本件生徒へのいじめの存在を認識していたことを認めるに足りる的確な証拠はない。」

「したがって、原告が個別アルバムの書き込みを通じた本件生徒へのいじめの存在を疑い、回収した個別アルバムの内容を全て確認し、あるいは、本件生徒の個別アルバムの内容を特に確認するべきであったということはできない。」

「以上によれば、原告が個別アルバムの記載内容を詳細に確認して本件生徒に対するいじめの存在を認識することができなかったことが、信用失墜行為及び全体の奉仕者たるにふさわしくない非行に当たるとは認められない。」

(5)遅刻指導について

「認定事実・・・のとおり、原告は、本件生徒が女子生徒A及びFと共に授業に遅刻した際に、本件生徒のみに対してその場で遅刻指導を行ったことがあったことが認められる。」

「しかし、生徒に対していかなる指導をするかは、第一次的には教育現場の各教諭の判断に委ねられており、いかなる方法による指導が適切であるかは、問題とする行為の内容、指導場面、指導効果、生徒の性格等に応じて異なり得るものであって、同一の行為を理由に複数の生徒に対して指導をする必要性が生じた場合でも、常に当該生徒らに対して同一の方法で指導をしなければならないとはいえず、生徒ごとに指導の方法に差異が生じたとしても、直ちに、それが不適切な指導であったということはできない。」

「そして、認定事実・・・のとおり、原告は、授業に遅刻した上記3名の生徒に対して教室の前方に来るように指示したものの、女子生徒A及びFがこれに従わずに着席したことから、本件生徒にのみ教卓前において遅刻指導をする結果となったのであって、殊更に本件生徒のみを対象として教卓前に来るよう指示して指導をしたものではない。また、授業中の遅刻指導は授業の中断を伴うものであることからすれば、原告の指示に従わなかった生徒に対し重ねて指示をして授業中に遅刻指導を続行することよりも、授業の続行を優先させたことは不合理なことではない。そうすると、原告が教室で本件生徒に対してのみ遅刻指導をしたことは、その経緯に照らして、不適切な指導であったとはいえない。」

「加えて、上記のとおり、本件生徒に対するいじめの存在を認識していなかった原告に対し、被告が主張するような本件生徒と女子生徒A及びFとの間のいじめの関係性を考慮した指導をすることまで求めることはできず、原告の指導により本件生徒が不公平感を感じたとしても、これにより原告の指導が懲戒事由に該当する程に不適切なものであったと評価されるものではない。」

「以上によれば、原告の上記遅刻指導が、信用失墜行為及び全体の奉仕者たるにふさわしくない非行に当たるとは認められない。」

(6)ガラス破損事件時の指導について

「認定事実・・・のとおり、原告は、本件生徒、女子生徒A及びFに対し、ガラス破損事件後に指導をしたことが認められる。」

「そして、本件調査報告書・・・中には、上記指導において、原告がガラスの弁償の話をした際に、女子生徒Aが、『私が割ったので弁償します』と答えたが、原告はガラスの破損は上記3名の連帯責任であると考えていたため、上記3名に対し、弁償については各生徒の保護者に確認すると伝えたとの旨の記載部分がある。しかし、原告はかかる事実を否認しているところ、認定事実・・・のとおり、女子生徒Aがガラスを割ったことを認識していた原告が、女子生徒Aが弁償する旨申し出たにもかかわらず、あえて上記3名の生徒に対して、弁償についてはそれぞれの保護者に確認すると伝えるべき格別の理由はうかがわれず、上記記載部分は、その内容に照らして、必ずしも自然なものではない。また、本件調査委員会が、上記記載部分につき、いかなる資料を根拠に認定したのかは明らかでなく、上記記載部分を裏付ける証拠はない。」

「他方で、原告の本人尋問での供述中には、原告は、ガラス破損事件後の指導の中で、ガラス破損の状況によっては弁償してもらう可能性があると発言し、これに対し、女子生徒Aは、ガラスを割った自分が弁償すると発言したが、実際にお金を支払うのは保護者であることから、原告は女子生徒Aの保護者に確認する趣旨で『親に確認します』と述べたとの旨の供述部分があるところ、ガラスを割った女子生徒Aが弁償の申出をしたのに対して、その保護者の意向を確認しようとすることは、事の流れとして自然である上、原告の上記供述部分の信用性を疑わせる格別の事情はうかがわれない。そうすると、本件調査報告書の上記記載部分によっても、原告が、本件生徒を含む上記3名の生徒らに対して、連帯してガラス破損の責任があるかのような指導をした事実を認めるに足りない。その他、原告が、本件生徒を含む上記3名の生徒らに対して、連帯してガラス破損の責任があるかのような指導をしたことを認めるに足りる的確な証拠はない。」

「なお、認定事実・・・のとおり、本件生徒は、帰宅後に母親に対してガラスの破損について弁償する必要があるかもしれないとの旨伝えたことからすれば、原告の指導により、本件生徒が自らもガラス破損事件の責任を負うものと認識した可能性は否定できないが、実際の原告の指導の内容と本件生徒の認識にずれが生じることはあり得るのであるから、本件生徒が帰宅後に母親に対してガラスの破損について弁償する必要があるかもしれないとの旨伝えたことをもって、原告が本件生徒もガラス破損事件について連帯責任を負うかのような指導をしたことを推認することはできない。」

「したがって、原告が、本件生徒を含む上記3名の生徒がガラス破損事件について連帯責任を負うかのような指導をしたことは認められない。」

「以上を前提に、ガラス破損事件後の指導の懲戒事由該当性について検討するに、原告の陳述書・・・及び本人尋問での供述中には、ガラス破損事件後の指導は、帰りの会に遅刻してきたことについての指導であったとの旨の供述等があるところ、認定事実・・・のとおり、本件生徒が女子生徒A及びFと共に本件クラスの帰りの会に遅刻してきたことや、認定事実・・・に認定した指導の内容に照らせば、原告の指導は、定刻に自席に着くという行動ができていない中で発生したガラス破損事件についての振り返りにより、時間を守って行動するよう遅刻指導をする趣旨のものであったと考えられ、このような遅刻指導をしたこと自体が不適切であったということはできない。また、原告は、上記指導に際して、本件生徒から個別に事情を聴取してはいないが、既に認定したとおり、ガラスを破損した女子生徒Aは、自らがガラスを割ったことを申告しており、原告もそのことを認識していたことに照らせば、個別に事情を聴取せずにされた原告の指導が、ガラス破損についての事実確認を怠り、本件生徒に対して不当に心理的影響を与える不適切な指導であったということはできない。」

「以上によれば、ガラス破損事件後の原告の指導が、信用失墜行為及び全体の奉仕者たるにふさわしくない非行に当たるとは認められない。」

(7)小括

「以上に説示したとおり、原告の各行為は、信用失墜行為及び全体の奉仕者たるにふさわしくない行為に当たるとは認められない。」

「また、被告は、原告の非違行為は全体として本件生徒の自殺の原因になったものであり、懲戒事由に該当すると主張する。しかし、被告主張の原告の各行為が懲戒事由に該当しないことは前記のとおりであり、それらを全体として考慮しても、信用失墜行為や、全体の奉仕者たるにふさわしくない非行に当たるということはできない。」

3.自殺事件は痛ましい事件ではあるが・・・

 確かに、児童生徒の自殺は痛ましい事件です。

 しかし、それを防げなかった教員に懲戒処分を行うことができるのかは、全く別の問題です。誰かの責任を問わなければ収拾がつかないといった空気感で懲戒処分を行うことは、厳に慎まれるべきではないかと思います。

 本来、非違行為とされるべきでない行為が非違行為として理解され、それが懲戒処分に係る行政実例として積み重ねられていくと、教員の方の注意義務は結果責任を問うに等しいところまで加重されて行きます。しかし、それは、誰にとっても幸せな事態にはならないように思います。

 納得できない懲戒処分を受けた方が、その効力を争って声を上げ、本件のような判決を積み上げて行くことは、とても大事なことではないかと思います。