1.停職12か月→依願退職したケニア大使
駐ケニア大使が「セクハラの疑い」で停職12か月の懲戒処分を受け、依願退職したとの記事が掲載されていました。
http://news.livedoor.com/article/detail/16280292/
不祥事を起こした公務員が依願退職すると、退職金(退職手当)を受給するための逃げないかと言われることがあります。
しかし、これは公務員の勤務関係を正確に理解したものではありません。
少なくとも制度上は、依願退職によって懲戒解雇・退職手当の不支給を免れることはできないことになっています。
2.公務員は任命権者の承諾がなければ辞められない
民法上、期間の定めのない労働者は、退職の意思表示をしてから2週間が経過すれば退職できることになっています(民法627条1項)。
しかし、公務員の場合、「辞職の実現には任命権者の行政行為に待たなければならない。」とされています(森園幸男ほか編「逐条国家公務員法」〔学陽書房,全訂版,平27〕647頁参照)。この行政行為は、講学上、辞職発令、退職発令、辞職承認などと言われることがありますが、要するに行政が承諾しない限り辞められないという建て付けになっています。
もちろん、通常の場合、行政が職員を無理に在任させることはできません。人事院規則上、「任命権者は、職員から書面をもって辞職の申出があったときは、特に支障のない限り、これを承認するものとする。」とされています(人事院規則8-12 第52条参照)。
しかし、不祥事による場合は別で「辞職を申し出た職員について非違行為が明らかになり、公務の秩序維持上懲戒処分に付する必要がある場合には、任命権者は辞職を承認することなく懲戒手続に付することができる。」(前掲文献648頁参照)とされています。
依願退職の場合、退職手当は支給されますが、懲戒免職処分の場合、原則として支給されません(国家公務員退職手当法12条、国家公務員退職手当法の運用方針 昭和 60 年 4 月 30 日総人第 261号 最終改正 平成 28年 2月 19 日 閣人人第 67号参照)。
https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/jinjikyoku/files/s600430_261.pdf
不祥事を起こした公務員が依願退職を申し出ても、行政は懲戒免職が相当だと判断すれば、辞職承認をせず、懲戒手続を開始することになっているのです。
3.懲戒処分の量定には基準がある
人事院は「懲戒処分の指針について 平成12年3月31日 職職ー68」という懲戒処分の量定基準を定めています。
セクシャル・ハラスメントをした公務員がどのように処分されるのかも、ここに規定されています(第2 標準例 1 一般服務関係(14)参照)。
停職以下の処分にとどめる余地がある場合に、特に厳しい措置として懲戒免職にした場合、「国家公務員退職手当法の運用方針」によれば、退職手当は一部不支給を検討するものとされています。また、過去の同種事案等と比較して特に重い処分をすれば、懲戒処分や退職手当の不支給処分は取消訴訟で取り消される可能性もあります。
駐ケニア大使の方が何をやったのかは分かりませんが、依願退職によりノーチェックで退職手当を受け取るということはないと思われます。
4.不祥事を依願退職でごまかせないのは公務員も同じ
不祥事を起こした従業員が懲戒免職や退職金の不支給を免れることを防ぐため、就業規則等を整備している私企業は相当数あります。公務員の場合、ルールが法定されてる分、不祥事を依願退職でごまかすことは民間以上に困難だと思われます。