弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

隠し子を認知する方法 戸籍ロンダリング?

1.隠し子を認知する方法 戸籍ロンダリング?

 相続トラブルなぜ起きる「戸籍ロンダリング」で隠し子を認知との記事が掲載されていました。

http://news.livedoor.com/article/detail/16279330/

 記事には、隠し子を認知する方法として、

「『転籍』してから認知し、また元の場所に戸籍を移す」

という方法が紹介されています。

2.認知の記載は移記されない

 確かに、転籍によって編成される戸籍には認知した事実は移記されません。

 これは、移記される事項を規定している戸籍法施行規則39条1項の解釈の問題です。

 戸籍法施行規則39条1項2号には、

「嫡出でない子について、認知に関する事項」

と書かれています。

 字面だけを見ると、認知の記載も移記されるのでは? という疑問が生じます。

 しかし、移記されるのは、「嫡出でない子」についてです。

 言い換えると、認知されたことは、子どもの戸籍にはついて回るのですが、父親の戸籍にはついて回りません。

 認知した事実は、父親の転籍後の戸籍には記載されないのです。

3.戸籍に詳しい人がみない限り分からない?

 転籍後の戸籍について、ネット記事には、

「戸籍に詳しい人が見ない限り、転籍前の戸籍と比べても、まったく違いがわかりません。」

と記載されています。

 この点は本当にそうか? と疑問に思います。

 転籍した事実は戸籍に明記されます(戸籍法施行規則34条3号参照)。

 下記は法務省に掲載されているコンピュータ式の戸籍のひな型です。

 http://www.moj.go.jp/content/000116686.pdf

 http://www.moj.go.jp/MINJI/minji04_00031.html

 転籍の事実が上から二段目の戸籍事項のところに分かりやすく書かれています。

 こんな目立つところに「転籍」などという見慣れない記載があれば、素人目に見ても気になるのではないかと思います。

 転籍前の戸籍を手繰れば、認知した事実は記載されており、隠し子を認知したことは簡単に分かってしまうのではないかと思います。

4.知られたくないなら遺言認知すればいい

 記事では、

「故人の男性は、どうしても隠し子だった長女に、遺産を残したかったのでしょう。」

「ふつうに認知をしたら、戸籍上に表記され、妻と長男に知られてしまう。でも、認知をしないと自分の子供だとは認められない。なんとか家族に知られずに認知できないかと、専門家に相談したのでは。」

というコメントが紹介されています。

 どういう専門家が「転籍」などという分かりやすい隠し子認知の手法を回答したのかは分かりませんが、私なら、もっと端的な方法を思いつきます。

 遺言で認知をしてしまうのです。

 認知は、遺言によっても、することが可能です(民法781条1項)。

 それほど隠し子に遺産を残したかったのであれば、公正証書で認知を含んだ遺言を残しておけば良かったのではないかと思います。そうすれば、隠し子の存在が発覚するのは自分が亡くなった後になります。

 平成元年以降に作成された公正証書遺言に関しては、日本公証人連合会が遺言をコンピューター管理しているため、遺言書が作成されているかどうかは簡単に分かります。

http://www.koshonin.gr.jp/business/b01

 ですから、親族や隠し子に「公正証書で遺言を作っておいた。」と言い残しておきさえすれば良いのです。遺言で、誰にどの財産を相続させるかといった遺産分割の方法を指定しておけば、余計な揉め事が生じることもありません。

 相談の趣旨が、相続という形で遺産を承継させたいという点のみにあるのであれば、私なら公正証書遺言の作成という方法を勧めます。

4.転籍→認知→転籍のパターンは、もっと追い詰められたケースでは?

 転籍→認知→転籍といった手法をとらざるを得ないのは、母親や子どもから法的措置による強制認知を示唆されて、そんなことをされるくらいであれば、ごまかせるかどうか一か八か賭けてみるといったような、例外的な場合に限られてくるのではないかと思います。

 当該男性は、何時ばれるのかと、まさに生きた気持ちのしないまま亡くなった可能性もあると思います。