弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

提出書証が二通だけでも、LINEメッセージの送信でパワハラが認定された例-「何年店長やってんだよ」「雑魚営業以下」「日本語大丈夫?」

1.LINEでのパワハラ

 業務用の連絡にLINEを使っている会社は少なくありません。

 LINE上のメッセージというと、記録に残ってしまうことから、ハラスメントのツールとしては不向きであるようにも思われます。

 しかし、法律相談等を受けていると、LINE上に暴言が記録されているケースを少なからず目にします。メールとは異なり、深く考えることなく手軽にメッセージを送れてしまうからかも知れません。

 近時公刊された判例集にも、LINEメッセージの送信に違法性が認められた裁判例が掲載されていました。岐阜地判令6.8.8労働経済判例速報2565-27 自動車販売事業A社事件です。

2.自動車販売自動車A社事件

 本件は残業代請求とパワーハラスメントを理由とする損害賠償請求が併合された事件です。

 被告になったのは、自動車及び自動車部品販売業務等を主たる目的とする株式会社です。

 原告になったのは、被告が運営する中古車自動車販売買取店舗で正社員として勤務していた方です。店長として勤務していましたが、被告を退職した後、残業代とパワーハラスメントを理由とする損害賠償を請求する労働審判を申立てました。

 労働審判が24条終了(事案の性質に照らし、労働審判手続を行うことが紛争の迅速かつ適正な解決のために適当でないとの判断のもと、労働審判を終了させる仕組み)した後、訴訟以降したのが本件です。

 訴訟係属中、原告が死亡したことにより、本件訴訟は、相続人である父母に承継されています。

 本件ので問題とされたLINEメッセージは、次のとおりです。

(裁判所の認定事実)

「令和3年5月31日、甲8のラインで、同ラインのメンバーである愛知、岐阜、三重、静岡及び長野の各買取店の店長が、同年6月の各店舗のシフトを投稿し、f(他店舗の店長及びエリアマネージャー 括弧内筆者)等からシフトの内容や形式等について確認を受けた。この際、a(元々の原告 括弧内筆者)が、e店の従業員の1人について所定休日が本来8日以上であるところ7日しか割り当てていないシフトを上げたところ、fは、その点を指摘するとともに、

『タコが!!!!!!!!!!!!!!!』、

『指摘されてんだから確認しろよ』、

『何年店長やってんだよ』、

『いい加減にしろよ』、

『クソ赤字でやる事全て適当か!!』、

『コンバット(店長自ら買取りや販売を行うこと)も全然しないし』、

『何考えてんの?』、

『何?MQ(店舗の粗利益)12万って?』、

『成約率15%?』、

『ふざけてんじゃねーよ』、

『危機感もなんも感じないですね!』

などと矢継ぎ早に畳みかけ、

『大変申し訳ございません』

と謝罪の文言を述べるaに対し、

『限界なら今すぐ言ってください!』、

『謝るんじゃなくて、質問に答えろ』、

『謝罪なんか求めてないし、謝られたってなにも解決しません』、

『何なのマジで』

と向けると、aから

『かしこまりました。即改善致します。』

との返答があった。これに対し、fが

『は〉』、

『返答になってないけど』、

『日本語もまともに喋れないなら店長職務まりませんが』、

『何を考えてるの?』、

『どうやって改善すんの?』、

『具体的に答えろ!!!!!!!!!!!!!』

と更に畳みかけたところ、aから

『限界ではありません!全量コンバット私が店の数字を作り改善致します!』

との回答があり、同回答を受けて、fがさらに

『成約率15%でどうやって?』、

『??????????????』、

『具体的に答えろよ』

と指示すると、最終的に、aから

『営業全員、自信の査定も全て管理あさり、成約率を改善致し、MQは新規全量即決で適正買取致します。』

との回答がされた。fとaとの上記のやり取りが行われた時間は約6分間であった。

(甲8)

「令和3年6月1日、aを含む成績不振店の店長5名がメンバーとされた甲9のラインにおいて、fがaら店長に対し、同年5月の経常利益の不振の原因並びに今月(同年6月)の改善点、戦い方及び経常利益をどう出すかを具体的に報告するよう指示をし、

『納得できない返答や抽象的な内容は、まともな内容になるまで何時まででもやり直しさせます。』

と告げた。

「aが、上記事項について回答したのに対し、fは、

『当たり前の事をズラズラ書いてるだけで、今更?って感じですが、肝心の部分が抜けてる、やり直し、根本の部分を確り考えてください』、

『自分の店のことをちゃんと考えてない』

と指摘してやり直しを指示した。aが改めて販売強化のための具体的な方策等の回答を加えたところ、fが、

『販売販売いってるけど、そこじゃないから』、

『勘違いすんな』

と指摘し、

『申し訳御座いません。承知致しました。』

と返答するaに対し、

『返答してる暇あんなら即貼り付けろ』、

『収益構造とか一丁前な事ほざいてるけど、そもそも全然自AP取ってないし、査定数少な過ぎるし、異常な程買えてない現状理解してないでしょ?』、

『んで、販売販売言ってるけど販売したいなら販売店行けば?』、

『コンバットも一切結果が出てない雑魚営業以下の数字』、

『謝罪は要らないからまともに返答して』、

『今日の行動量と予約数が一切足りてないけど?何してんの?』、

『もちろん今全員で猛AP中よね?』、

『先月クソ赤字だから当然レベルですが』

などと畳みかけ、aが

『自アポ、査定母数の確保を行い、まずは査定台数買取台数を改善致します。』

などと答えたのに対し、fが

『販売が出来なければG(経常利益)出ないの?』、

『販売店行けよ』、

『考え方イカれてない?』、

『まだ気づかないの?』

等と指摘したところ、aから、

『AA適正買取ができていればG(経常利益)が出ます!サテライト(買取店)の意味を確りと理解し、まず買取台数改善し@の確保を行います。』

等と答えた。これを受けてfは、

『本来であれば既に交代してるので』、

『行動と結果変わらなければ即アウトなので、販売店行ってもらいます』、

『そこで大好きな販売をしてください』

と告げた。」

「また、その後、予約が1件しか取れなかった原因やどうすれば予約がとれるようになるかについてfから問われたのに対し、aが、

『お客様は金額を知りたくて登録をしているのに、査定を促進してしまっている事だと思います。』、

『査定のハードルを下げて誘致し、査定致します!』

等と答えたのに対し、fは、

『はい?』、

『意味わかんないけど』、

『日本語大丈夫?』、

『何査定致します!って』、

『舐めてんの?』、

『予約取る件話してんだろタコが』、

『会話すら成立しないなら店長下りろタコが』

などとaの回答が全く要領を得ないことを批判した。

「aは、令和3年6月7日、弟のpとのラインに、「もう死にたい」と記載し、前記カ及びキのやり取りの画像を一部投稿した。これらの投稿を見たpは、同月8日、aに対し、自身の勤める会社でaを受入れてもらえる旨等の返信をした。」

 こうしたLINEメッセージに対し、裁判所は、次のとおり述べて、その違法性を認め、慰謝料として50万円を認めました。

(裁判所の判断)

「原告らは、甲8のライン及び甲9のラインでaに対してされた、前記・・・のfの言動の大部分について、指導の域をはるかに超えた暴言であるか、成果が出るまで残業を強要するもので、パワーハラスメントに当たると主張する。これに対し、被告は、fの上記言動はいずれも店長としての初歩的業務の指導又は低業績の店舗の指導であり、指導としても相当な範囲内である旨主張するので、検討する。」

甲8のラインの前記・・・のやり取りに関しては、確かに、aが従業員に所定休日に満たない日数の休日を割り当てるという初歩的なミスをしたことについて指導を行うものといい得るが、そうであれば、単に、上記ミスを指摘して直ちに修正するよう指示し、今後は同様のミスをしないよう注意すれば足りるのであり、

『タコが!!!!!!!!!!!!!!!』、

『何年店長やってんだよ』、

『クソ赤字でやる事全て適当か!!』

といった発言(投稿)を加える必要性は皆無であって、このようなa自身を蔑むような発言は指導の域を超えた暴言に当たるといえる。

「また、上記のミスの指導からe店の成績が不振である点に話題が移り、

『具体的に答えろ!!!!!!!!!!!!!』

とaに対し強く回答を求めているが、そもそも、上記のミスの指導から2分程度の間にfから矢継ぎ早に投稿された文言(・・・甲8)を見ても、何を質問しているのか必ずしも明確でなく、上記のミスに関してfから暴言を投げかけられて冷静さを欠く心理状態になっていると思われるaに対し、

『何なのマジで』

などとなじるような言葉を投げかけながら、高圧的な態様で成績不振の改善方法について回答を求めるのは、指導の方法として相当性を欠くと評価せざるを得ない。

「甲9のラインは成績不振店の店長で構成されたグループであるところ、aとfとの具体的なやり取りの内容・・・に照らせば、これらのやり取りは、e店の不振の原因が中古車の買取数及び査定数の少なさにあると考えられるところaが販売を中心にした改善策を検討していたことから、原因分析及びその対策を正しい方向に導くため、fが指導をしていたものと概括的にはいえる。そして、aの当初の回答に対し、fが

『当たり前の事をズラズラ書いてるだけで、今更?って感じですが、肝心の部分が抜けてる。やり直し、根本の部分を確り考えてください』

などと指摘してやり直しを指示していることについては、表現は多少きついものの、aの回答が検討不足であると判断した上で再度の指示をするものであり、また、aの2度目の回答に対し、fが

『勘違いすんな』、

『収益構造とか一丁前の事ほざいてるけど、そもそも全然自AP取ってないし,査定数少な過ぎるし、異常な程買えてない現状理解してないでしょ?』

『販売販売販売言ってるけど販売したいなら販売店行けば?』、

『今日の行動量と予約数が一切足りてないけど?何してんの?』

等と発言していることについても、表現に穏当を欠くところは一部あるものの、e店の現状を挙げてaの現状認識が足りないことを指摘するものであり、いずれも指導の域を超えるものとまではいえない。他方で、

『コンバットも一切結果が出てない雑魚営業以下の数字』、

『もちろん今全員で猛AP中よね?』

『先月クソ赤字だから当然レベルですが』、

『販売店行けよ』、

『考え方イカれてない?』

といったfの発言は、店長であるa自らが行う買取り等の成果が出ていないことやe店の成績が不振であること、aが販売を中心にした改善策しか検討できていないことについて、

『雑魚営業以下』、

『先月クソ赤字』、

『イカれて』る

などの侮蔑的な文言を用いて強く批判等をするものであり、指導としての相当性を欠く言動といえる。

また、予約が取れない原因や対策についてのaの回答に対し、その意味がわからないとして、fが

『日本語大丈夫?』、

『舐めてんの?』、

『予約取る件話してんだろタコが』、

『会話すら成立しないなら店長下りろタコが』

などと発言しているのは、これらの発言自体、指導の一環とは評価し難く、指導の域を超える暴言に当たると評価できる。

「以上検討したところによれば、甲8のライン及び甲9のラインで、fからaに対してされた発言・・・のうち、前記・・・のとおり一部については、指導として相当性を欠き、又は指導の域を超えた暴言と評価し得るものであり、パワーハラスメントに当たるといえる。また、甲8のライン及び甲9のラインにおけるfのaに対する指導は、いずれも、fが上記のとおり暴言等の不相当な文言を交えながら厳しい指摘を畳みかけて高圧的に回答を求めるという態様で行われたものであり、aに対する指導の必要性を肯定し得るとしても、指導の態様として相当性を欠くというべきであるから、甲8のライン及び甲9のラインでのaに対する指導自体も全体としてパワーハラスメントに当たると評価するのが相当である。」

(中略)

甲8のライン及び甲9のラインにおけるfのaに対する言動の一部及びaに対する指導自体がパワーハラスメントに当たると評価することができ、その具体的な言動や当時の状況等を踏まえれば、上記パワーハラスメントによりaは相当な精神的苦痛を受けたと認められる一方、上記・・・で検討したとおり、上記パワーハラスメントによる心理的負荷の程度が強いとまでは認められず、aのうつ病発症の原因になったともaのうつ病を有意に悪化させたとも認めるに足りない。」

「そして、aが被告において店長として稼働していた間、甲8のライン及び甲9のラインにおける上記の指導以外にもパワーハラスメントに当たり得る厳しい指導等を受けたことがあった可能性は否定し切れないものの、この点について特に具体的な主張立証がないことも踏まえれば、上記の可能性を考慮しても、aが前記・・・のパワーハラスメントにより受けた精神的苦痛に対する慰謝料としては、50万を認めるのが相当である。

3.証拠(提出書証)二通でも損害賠償が認められた

 例によって慰謝料の水準が(絶対値として)低いのは気になります。

 ただ、本件でより重要なのは、暴言が記録されたLINEが二つしか提出されていないということです(甲8号証、甲9号証)。

 甲8号証、甲9号証のようなメッセージを送られている方に対する普段の言動は推して知るべしですが、書証として提出されているのは甲8号証、甲9号証の二通だけです。そのため、裁判所も、

「上記の指導以外にもパワーハラスメントに当たり得る厳しい指導等を受けたことがあった可能性は否定し切れない」

としつつ、二機会における暴言しかハラスメントとしては取り上げていません。

 暴言に違法性を認めてもらうためには、一定の継続性が求められることも少なくないのですが、本件では二機会における言動でも不法行為上の違法性が認められました。単発の言動であろうが、あまりに酷い場合には、違法性が認められるということなのだと思います。

 冒頭で述べたとおり、LINE上で酷いメッセージが送られるケースは割と多いです。こうした酷いメッセージを問題として取り上げて行くにあたり、本件は実務上参考になります。