弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

ピエール瀧に関係する離婚報道

1.ピエール瀧に関係する離婚報道
 「ピエール瀧 5億円借金で苦渋の決断『家族のために離婚を…』」という表題の記事が掲載されていました。

http://news.livedoor.com/article/detail/16292681/

 記事には、
「その他CMなどもろもろ合わせると、違約金は総額5億円を超える可能性が高いと言われています」(テレビ局関係者)
「瀧さんには奥さんと中学生の娘さんがいるのですが、事件後、彼は『これ以上家族に迷惑をかけられない』と、離婚するかどうか真剣に悩んでいるようです。」(瀧被告の知人)
と書かれています。
 また、弁護士の見解として、
「離婚時の財産分与は、基本的に夫婦で折半となりますが、言い値が通りやすい傾向があります。とくに今回の場合、離婚原因は瀧さんにありますから、単純に折半ではなく慰謝料も含めて奥さんの取り分が多くなる可能性は高い。つまり、結果として離婚したほうが夫婦の財産を守れるんです」
と書かれています。
2.財産分与で「言い値が通りやすい傾向」はあるか?
 弁護士のもとに持ち込まれない紛争まで含めた統計をとったことはありませんが、少なくとも、弁護士に持ち込まれる事件に関して言えば、財産分与で「言い値が通りやすい傾向」はないと思います。そんな傾向があったら、財産分与の請求側の家事事件の処理は、どれだけ楽になるだろうかと思います。
 東京家裁本庁の実務に関して言えば、財産分与は「婚姻関係財産一覧表」というものを作成し、折半になるように調整して行きます。
 下記の東京家裁のホームページに掲載されている書式であり、私の経験の範囲内では、割と厳密に調整している例が多いのではないかと思います。

http://www.courts.go.jp/tokyo-f/saiban/tetuzuki/zinzi_soshou/index.html

http://www.courts.go.jp/tokyo-f/vcms_lf/Z01-4.pdf

 ひな形がエクセルでダウンロードできる体裁になっていることからも分かるとおり、財産分与では表計算して金額を出します。そして、それを基準に多少金額を丸めることがあるといったところが実体に近いのではないかと思います。
 夫婦関係の破綻に対し、どちらが悪いかという問題は、基本的には慰謝料の中で考慮されます(ただし、財産分与で慰謝料的要素を考慮することもないわけではありません)。
3.財産分与にあたり5億の負債をどうみるか?
 財産分与には「基準時」という概念があります。裁判所の書式の表の上にも「基準時」の表記があります。
 これは何時の時点で存在した財産を折半するのかという問題です。
 抽象的には、夫婦が協力して財産を築き上げる関係がなくなった時です。別居→離婚と流れていく事案においては、実務上、別居日時点を基準時と定めることが多いです。
 しかし、同居中の離婚のような場合、基準時を何時にするかが争点になることがあります。
 事件を起こして5億円の負債を負った後に夫婦関係が破綻したとなると、基準日時点での夫婦共通の財産から5億円が差し引かれることになります。負債が資産を超過している場合、妻側が借金を押し付けられることはないにしても、分与対象財産は存在しないという判断になることも有り得ます。
 もちろん、事件で5億円の負債ができて婚姻関係が破綻したとしても、それが妻の与り知らないところで夫が起こした犯罪に原因があるとすれば、そういう類の負債を夫婦で築き上げた財産の清算の場面に持ち込むのは不公平だという議論は有り得ると思います。
 ただ、そうした議論を裁判所がどこまで酌んでくれるのかは、実際に手続をとってみなければ分かりません。
4.債権者の存在をどうみるか?
 また、この問題は、もう一つ、難しい要素があります。
 それは債権者の存在です。
 財産分与を折半で調整するのは、飽くまでも紛争性がある事案でのことです。

 当事者間で合意できるのであれば、極端な話、全財産を妻に分与するということも可能です。ただ、夫婦の協力関係が解消している離婚という局面において、そういう事態は生じにくいというだけです。
 しかし、稀に夫婦共有財産の大部分が妻に行っているような事案をみないわけではありません。そういう場合には、財産隠しが疑われることもあります。
 夫の借金だからといって、当然に妻が払わなければならないわけではありません。負債は個人単位で考えられるのが原則です。このことを利用し、夫が自己名義の財産の大部分を妻に移動させ、債権者からの責任追及を免れようとするのです。裁判をして判決をとり、強制執行をしようとしても、差し押さえる対象となる財産がなければどうにもならないからです。
 こうした場合に対応するため、法は債権者取消権という仕組みを設けています(民法424条)。
 これは債権者を害するような形で財産を動かす契約が結ばれている場合に、それを取り消してしまうという仕組みです。この仕組みを活用することにより、債権者は債務者のもとから流出した財産を取り戻すことができます。
 財産分与に関しても「民法七六八条三項の規定の趣旨に反して不相当に過大であり、財産分与に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情」のある場合には、債権者取消権の対象になるとされています(最二小判民集37-10-1532参照)。
 債務超過だからといって即財産分与が詐害的な行為とされるわけではないし、負債が生じた原因も考慮されるとは思います。しかし、財産分与に仮託して、あまり極端な財産移転行為をすれば、債権者からクレームをつけられる可能性があります。
5.公平な分与額を考えて行くことは難しい
 妻側から財産分与を求めて行く場合「不相当に過大」ではない金額が、一体幾らくらいなのかを考えて行くことになります。分与を求めても、債権者に取り消されてしまっては元も子もないからです。

 これは理論的な根拠を構築する作業であり、適当に言い値をつけてやりとりできるような問題ではないだろうと思われます。