1.多重請負構造と未成年労働者
建設業等の現場仕事では、しばしば多重請負構造が見られます。
発注者⇒元請⇒一次下請⇒二次下請⇒・・・といったようにです。
この多重請負構造に個人事業主が組み込まれたり、派遣労働者が組み込まれたりしている例もあり(建設業務についての労働者派遣は労働者派遣法4条1項2号で違法とされていますが)、現場仕事をめぐる法律関係は混迷を極めていることが少なくありません。法律関係の錯綜は、責任の所在を不明確にさせ、深刻な事故に繋がることがあります。
また、現場作業には、未成年者などの若年労働者が働いていることもあります。錯綜した法律関係のもと、碌に安全教育設けていない子どもが深刻な事故に巻き込まれ、命を落とす事件に触れると、何ともやりきれない気持ちになります。
死亡事案では、しばしば遺族が法的責任の追及に動き出します。
しかし、法律関係が込み入っている場合、責任の所在がはっきりとしません。関係業者に対して請求を組み立てても、大抵の場合「悪いのは自分ではない」と責任の転嫁や擦り合いが繰り広げられます。
この責任転嫁や擦り合いに対抗して行くために参考になる裁判例が、近時公刊された判例集に掲載されていました。名古屋高判令6.11.6労働判例1339-29 一光ほか事件です。
2.一光ほか事件
本件は水管橋の足場資材の搬出作業に従事していたA(死亡時17歳)が用水路内に転落して死亡したことを受け、遺族が関係各者に対して損害賠償を請求した事件です。
Aが従事していた工事(本件工事)をめぐる法律関係は、
三重県企業庁が発注者、
Y5が元請業者、
Y4が一次下請業者、
Y2が二次下請業者、兼、Aの派遣先、
Y1がAの給料支払者
Y3がY1及びAの派遣元、
という極めて錯綜した状態にありました。
原告ら遺族はY1~Y5に対して損害賠償を請求する訴えを提起しました。
一審が原告の請求を一部認容したところ、原告側が控訴し、被告Y1~Y5らが附帯控訴したのが名古屋高裁の控訴事件です。
本件では一審、二審を通じ、Y1~Y5らは安全配慮義務違反とされることを争いました。
本日、注目したいのは、元請Y5の責任です。
裁判所は、次のとおり述べて、Y5の安全配慮義務違反を認めました。
(裁判所の判断)
「前提事実及び上記・・・の認定事実によれば、被控訴人Y5は、本件工事の一部を被控訴人Y4らに下請けさせ、自らも仕事の一部を行う者のうち最先次のものとして、労安衛法15条1項の特定元方事業者に当たるということができる。これに対し、被控訴人Y5は、被控訴人Y5が本件工事の全てを他の請負人らに下請けさせ、自らは現場における作業を一切行っていなかったことを理由に、特定元方事業者に当たらない旨主張するが、このような主張は、三重県企業庁が、建設工事の分離発注における発注者として、特定元方事業者の中から、労安衛法30条1項各号の事項に関する必要な措置(統括安全衛生管理業務)を講ずべき者として被控訴人Y5を指名し、Hを統括安全衛生管理義務者に指名したことや、被控訴人Y5においても、上記指名を受けて、Hを現場に往訪させ、三重県企業庁に対しては部分下請負通知書を提出している・・・事実と矛盾するばかりか、そもそも建設工事を一括して他人に請け負わせることを禁止する建設業法22条の規定にも抵触する行為を行ったことを自認するものであり、採用することができない。」
「そして、特定元方事業者は、労安衛法29条及び30条の規定により、関係請負人の労働者を対象として、必要な指導、是正のため必要な指示等を行う義務を課されているほか、作業場所の巡視、労働者の安全衛生教育等について必要な措置を講ずるものとされている。これらの法令上の定めに加え、現にHは、本件工事の現場を巡視し、関係請負人の労働者等の実態を把握する契機を有していたことに照らせば、被控訴人Y5は、亡Aとの間で、雇用主に準ずる特別な社会的接触の関係に入っていたものと評価することができ、亡Aの生命身体の安全に配慮すべき注意義務を負うものと認められる。なお、上記判断は、労働安全衛生関係法令の規定のみを根拠に私法上の義務を肯定しているわけではないから、この点に関する被控訴人Y5の批判は当たらない。」
「そして、被控訴人Y5は、安全配慮義務の具体的履行として、特定元方事業者として、毎作業日に少なくとも一回、巡視を行い、亡Aの年齢等を確認、把握するよう努め、亡Aを派遣労働者として高所での本件解体作業に従事させることの可否を検討すべきであったほか、自ら及び下請業者をして、本件解体作業の作業場所、内容、亡Aの経験年数等に照らした安全衛生の確保に係る活動としての危険予知活動を徹底させるべき義務を負っていたものであり、それを怠ったものであるから、上記注意義務違反が認められる。」
3.現場作業を行っていないは通用しない
以上のとおり、裁判所は現場作業を行っていないという趣旨の被控訴人Y5の主張を退け、雇用主に準ずる特別な社会的接触の関係に入っていたとして、安全配慮義務の存在を認めました。
本件でも亡AとY5は直接の雇用関係にありませんでしたが、安全配慮義務の存在や義務違反の事実が認められたことになります。
裁判所の判断は、非雇用型の関与者に安全配慮義務違反を理由とする法的責任を問うて行く場面で、実務上参考になります。