1.事業場外みなし労働時間制
労働基準法38条の2第1項は、
「労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。ただし、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては、当該業務に関しては、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす。」
と規定しています。
この事業場外で働いた場合につき「労働時間を算定し難いとき」に一定時間労働したものと「みなす」仕組みを事業場外みなし労働時間制といいます。
事業場外みなし労働時間制は、しばしば残業代(割増賃金、時間外勤務手当等)を支払わないための方便として用いられています。所定労働時間よりも長く働かなければならない実体がある時に、事業場外みなし労働時間制を適用して、労働時間を「所定労働時間」と「みなす」ことができれば、残業代を払わなくても良くなるからです。そのため、事業場外みなし労働時間制の適否が争われる事件は、実務上少なくありません。
近時公刊された判例集にも、事業場外みなし労働時間制の適用が否定された裁判例が掲載されていました。昨日もご紹介した、福岡地小倉支判令5.6.21労働判例1332-86 大栄青果事件です。
2.大栄青果事件
本件で被告になったのは、農林水産物の売買を目的としていた清算中の株式会社です。
原告になったのは、被告との間で期間の定めのない雇用契約を締結していた個人複数名(原告個人ら)と原告個人らが加入する労働組合(原告組合)です。この事件の原告個人らは、未払割増賃金(いわゆる残業代)と付加金、退職金等を請求していました。
残業代請求との関係では、事業場外みなし労働時間制の適用が争点になりました。原告個人らの業務が「主として青果市場内でのセリに関連した業務とセリにより仕入れた商品の販売先への配達業務」であったからです。
こうした業務内容を前提として、被告は、次のとおり主張しました。
(被告の主張)
「被告には事業場外労働のみなし労働制が適用される。名称そのものが周知されていたわけではないが、従業員が労働時間の大半を事業場外で従事すること、定まった始業時刻、終業時刻がなく従業員の判断で業務を進められることで実質的な労働時間が算定し難い。」
しかし、裁判所は、次のとおり述べて、事業場外みなし労働時間制の適用を否定しました。
(裁判所の判断)
「被告は、従業員が労働時間の大半を事業場外で従事すること、定まった始業時刻、終業時刻がなく従業員の判断で業務を進められることから、『労働時間を算定し難いとき』(労働基準法38条の2第1項本文)に該当し、被告には事業場外労働のみなし労働制が適用される旨を主張する。」
「しかしながら、労働時間を算定し難いか否かの判断に際しては、勤務の状況を具体的に把握することが困難であったか否かが重要となるところ、本件において、原告個人らの業務は、各労働日ごとに被告の事務所を出発し、必ず被告の事務所に戻ってくるというものであり、直行直帰が常態化していた等の事情も認められないことからすれば、客観的にみて勤務の状況を具体的に把握することが困難であったとは認め難い。」
「そうすると、被告に、事業場外労働のみなし労働時間制が適用されるとする被告の前記主張は採用できない。」
3.事業所から出て事業所に戻ってくるなら適用不可
事業場外みなし労働時間制については、令和6年に最高裁判決が出現しています。最三小判令6.4.16労働判例1309-5 協同組合グローブ事件です。この事件では、外国人の技能実習に係る管理団体となっている事業協同組合に雇用されていた外国人技能実習生指導員への「事業場外みなし労働時間制」の適用について、
「業務日報の正確性の担保に関する具体的な事情を十分に検討することなく、業務日報による報告のみを重視して、本件業務につき本件規定にいう『労働時間を算定し難いとき』に当たるとはいえないとしたものであり、このような原審の判断には、本件規定の解釈適用を誤った違法があるというべきである。」
と述べ、適用を否定した原審判決を破棄し、事件を原審に差し戻す判断をしました。
大栄青果事件は事業場外での業務実体のモニタリングの在り方に踏み込んだ判断をしておらず、協同組合グローブ事件最高裁判決のもとでも同様の結論が維持されるのかは分かりません。とはいえ、事業所から出て事業所に戻ってくるなら『労働時間を算定し難いとき』に該当しないとした裁判所の判示は、事業場外みなし労働時間制の適否を争う事件に取り組むにあたり、実務上参考になります。