弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

「十分に反省しているとはにわかには考え難い」とされながらも、解雇無効とされた例

1.反省をどうみるか?

 問題行動が原因で勤務先からペナルティを受ける場合、通常、

問題行動⇒行為発覚⇒調査・ヒアリング等⇒ペナルティ

といった形で時系列が流れて行くことになります。

 この行為発覚後の対応が良くないと、「反省していない」ことが重いペナルティを正当化する事情として用いられがちです。例えば、

反省していない⇒またやる可能性が高い⇒労働契約関係を解消せざるを得ない、

といったようにです。

 しかし、前に、

自衛隊の懲戒処分-「改しゅんの情」はどのように計測されるのか? - 弁護士 師子角允彬のブログ

という記事でも言及しましたが、反省しているかどうかというのは、客観的に計測できることではありません。

 労働契約法では、解雇するにあたり、

「客観的に合理的な理由」

を求めています。元々、反省しているかどうかといった客観的に計測することができない事情は、解雇の可否を判断するにあたり、重視することが適切ではない事情だといえるかも知れません。

 近時公刊された判例集にも、解雇の可否を判断するにあたり、反省をそれほど重視していないように読める裁判例が掲載されていました。昨日もご紹介した、東京地判令6.10.4労働経済判例速報2578-19 A東京事件です。

2.A東京事件

 本件で被告になったのは、貨物自動車運送事業等を業とする株式会社です。

 原告になったのは、被告と雇用契約を締結し、大型牽引用貨物自動車(トレーラー)を運転し、荷物の集荷、運搬等を行う業務に従事していた方です。コンビニエンスストア(本件店舗)駐車場において、原告使用の被告所有車両(本件自動車)の運転席タイヤ付近で放尿したことを理由として普通解雇されたことを受け、その無効を主張し、地位確認等を求める訴えを提起したのが本件です。

 裁判所は原告について「十分に反省しているとはにわかには考え難い」としながらも、次のとおり述べて、解雇の効力を否定しました。

(裁判所の判断)

「原告は、本件行為について反省している旨を供述する・・・。」

「この点、原告は、当初被告との面談に応じ、始末書を提出したこと、本件訴訟において、本件行為自体は認め、反省の言葉を述べていることが認められ、その限度で反省の態度を示しているとはいえる。被告は、原告が上記始末書に原告が今後の対策としておむつを履き乗務すると記載したことを指摘するが、このような対策がおよそ不合理であるとまではいえず、この点をもって、原告が反省していないとは直ちにいえない。」

「しかし、原告は、やむを得ない事由もないのに本件行為に及び、その後の調査で事実に反する説明をし、本件訴訟においても不合理な供述をしている。そうすると、原告が、少なくとも自己のした行為の事実関係を認めているとは評価できず、原告のCの監査役に対する発言・・・も踏まえると、原告が本件行為を十分に反省しているとはにわかに考え難い。

「原告は、トラック運転手がいわゆる立小便をすることは珍しいことではないと主張する。」

「しかし、仮にトラック運転手がそのような行為に及ぶことがあるとしても、店舗駐車場で第三者に見える状態で会社の財産である車両に掛かる可能性が高い状態であることを認識しながら行為に及ぶことが頻繁にあるとはいえないから、本件行為が珍しい行為でないとは評価できない。」

「原告は、被告から運転マナーを身に付けるよう指導を受けていたにもかかわらず、本件行為に及んだものであり、本件行為は、その内容からして、被告の本件車両を大切にせず、故意に毀損し、かつ、職場の風紀を乱す行為といえる(その点で、品位を保たず会社の名誉を損なうような行為〔就業規則7条28号〕、会社の車輌を大切にしない行為〔同条30号〕、職場の風紀を乱す行為〔同条33号〕に違反するとして就業規則65条2号に該当し、また、風紀を乱す行為として同条4号、故意に車輌を毀損する行為として同条6号の懲戒事由〔譴責、減給、謹慎、降格の事由〕に該当し、故意に会社に損害を与える行為として就業規則66条7号の懲戒事由〔懲戒解雇事由〕に該当するといえる。他方、目撃者からの苦情があったとはいえ、本件行為により会社の信用が失墜したとか、原告が遵守事項にたびたび違反したとは認められず、また、荷物を毀損等したとは認められないから、就業規則65条5号の『会社の信用を失墜させた』、同条7号『荷物または機械器具を粗略に取扱い、荷物を毀損、滅失させた』、就業規則66条18号の『遵守事項にたびたび違反し、会社の経営上重大な支障を与えた』とまでは認められない。)。また、本件行為は、Eの物流センターの近くにある本件店舗駐車場においてされており、本件行為がEに発覚するおそれがあり、仮に本件行為が発覚した場合、被告と被告の重要取引先であるEの取引に悪影響が生じるおそれがあったといえる。加えて、原告が本件行為の経緯等に関して事実に反する説明をし、被告の面談に一部合理的な理由なしに応じず、車両の清掃に問題があったことに加え、被告には乗務員しかおらず、乗務員以外に原告が行う業務の存在もうかがわれないことも考慮すると、原告を被告で就業させることに支障がないとまではいえない。」

「そうすると、原告が、就業規則56条2号『勤務成績…が不良で就業に適しないと認めたとき』、同条7号『その他前各号に準じ、重要な事由があると認めたとき』に該当する事由が存在する余地がないとはいえない。」

「しかし、本件行為自体は1回の行為であり、同様の行為が複数回行われる中で本件行為が行われたと認めるに足りる的確な証拠はないこと、本件行為後、原告が複数回被告との面談に応じ、被告に始末書を提出し、原告訴訟代理人弁護士を通じ協議の意向を示していたこと、原告が本件車両内の片付け等について被告から指導を受けたと認めるに足りる的確な証拠がなく、本件車両内部に業務書類が存在したことをもって直ちに運転手としての就業に適しないとまでは認められないこと、原告が車外を清掃しないことにより本件車両を大きく汚損したと認めるに足りる証拠がないこと、原告の運転手としての業務について、遅刻や欠勤はなく、原告が与えられた業務を行い、他に特段の問題までは認められないことからすれば、被告が主張するその余の事情を踏まえ検討しても、原告の勤務成績が不良で就業に適さず、又は、これに準ずる重要な事由があるとして、上記各解雇事由に該当するとまでは認めるに足りない。

・解雇の相当性について

「仮に原告が上記各解雇事由に該当すると認められたとしても、上記・・・の事情に加え、本件行為が、第三者によりDに連絡される事態となったものの、本件行為当時に本件車両がEの名称が記載されたトレーラーを牽引しておらず、Eとの取引に影響を及ぼしていないこと、本件行為は故意に本件車両を汚損する行為であるが、本件車両の使用が困難になるなどしたという事情までは直ちに認められないこと、原告が本件車両の清掃等を怠ったことによって被告の業務に影響を及ぼしたとまでは認められないこと、原告が過去に懲戒処分等を受けたことがないことからすれば、被告が主張するその余の事情を踏まえ検討しても、本件解雇が社会通念上相当であるとは認められない。」

3.重要なのは主観面より客観名であろう

 裁判所が指摘する「監査役に対する発言」というのは、

「被告は、同月6日、原告に面談を指示した。原告は、同日頃、Cの監査役に電話をし、同監査役に対し、要旨、同月9日、本件行為に関して被告側と面談することになったが、面談の相手方がB常務であれば出ない、運転手は小学生以下であるから、立小便の1回や2回は皆やっている旨を述べた。」

というものです。

 適切な発言とは言えないように思われますが、裁判所は、こうした発言があるからといって、解雇は有効だという判断はしませんでした。

 何だかんだ、言いつつも、

行為の回数、

始末書の提出等の事実、

指導歴、

汚損の有無、

遅刻・欠勤の有無

取引への影響、

過去の懲戒処分の有無

などの客観的・外形的な事実をもとに解雇の可否を判断しました。

 やはり条文の文言からも、基準としての安定性という観点からも、(本件は普通解雇ですが)ペナルティの重さは基本的には客観的行為と紐づけて考えられるべきであり、主観的事情のような曖昧なものを尺度として重視するのは適切ではないのだと思います。

 行為の客観面が弱い時、使用者側はしばしば主観的な悪性を強調した議論をしてきますが、そうした議論に対抗して行くにあたり、本裁判例は、実務上参考になります。