弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

コロナ禍での会社解散に伴う整理解雇-雇用調整助成金を利用して再就職のあっせん等の時間を稼ぐ義務はあるか?

1.会社解散と整理解雇

 既に流行に慣れてきつつある感も否めませんが、新型コロナウイルスに関連する企業倒産は今も少なくありません。帝国データバンクが公開している新型コロナウイルス関連倒産の発生累計件数は、右肩上がりになっており、令和4年4月段階で3193件を示しています。

新型コロナウイルス関連倒産 | 株式会社 帝国データバンク[TDB]

 企業が倒産すると、取引先等にかなりの不利益を生じさせます。そうした事態を防ぐためか、倒産に至る前に自主的に解散する会社も少なくありません。

 法人の解散に伴う解雇に関しては、

「整理解雇の4要素により判断されるのではなく・・・、事業廃止の必要性と解雇手続の妥当性を総合考慮することになる・・・。会社が解散した場合、会社を清算する必要があり、もはやその従業員の雇用を継続する基盤が存在しなくなるから、その従業員を解雇する必要性が認められ、会社解散に伴う解雇は、客観的に合理的な理由を有するものとして原則として有効であるが、会社が従業員を解雇するにあたっての手続的配慮を著しく欠き、会社が解散したことや解散に至る経緯等を考慮してもなお手続的配慮を著しく不合理であり、社会通念上相当として是認できないときには解雇権の濫用となる

と理解されています(佐々木宗啓ほか編著『類型別 労働関係訴訟の実務Ⅱ』〔青林書院、改訂版、令3〕399頁参照)。

 それでは、この手続的配慮として、雇用調整助成金の活用を求めることはできないのでしょうか? 解散するにしても、会社には、雇用調整助成金を利用して労働者に再就職までの時間的猶予を与える義務があるとはいえないのでしょうか?

 この問題を考えるうえで参考になる裁判例が、近時公刊された判例集に掲載されていました。東京地判令3.10.28労働経済判例速報2473-3 龍生自動車事件です。

2.龍生自動車事件

 本件で被告になったのは、一般旅客自動車運送事業等を業とする株式会社です。

 原告になったのは、被告と労働契約を締結し、タクシー従業員として勤務してきた方です。

 新型コロナウイルス感染症拡大に伴う売上の激減等により事業の継続が不可能な事態に至ったとして、令和2年4月15日、被告は、原告ほか全ての従業員に対し、同年5月20日付けで解雇するとの意思表示をしました(本件解雇)。そして、令和2年6月2日、被告は臨時株主総会決議により解散し、清算手続を開始させました。

 こうした被告の動きに対し、原告は、解雇の無効を主張し、地位確認等を求める訴えを提起しました。

 原告が解雇無効を主張した根拠の一つに、雇用調整助成金の不活用がありました。具体的には、

雇用調整助成金を利用し、雇用を維持しつつ、事業譲渡先を探したり、再就職先のあっせんをしたりすることなく行われている点で、本件解雇には手続的配慮が欠けている、

ゆえに本件解雇は無効だ

という議論を展開しました。

 しかし、裁判所は、次のとおり述べて、原告の主張を排斥しました。結論としても、解雇の効力を肯定し、原告の請求を棄却しています。

(裁判所の判断)

「被告は、本件解雇に先立ち、本件解雇予告期間中に事業譲渡が実現しない限り、被告の事業を廃止し、事業譲渡の成否を問わず、事業譲渡又は事業廃止の後に解散することを決定していたと推認されるから、本件解雇は解散に伴うものと認められる。」

「そして、会社の解散は、会社が自由に決定すべき事柄であり、会社が解散されれば、労働者の雇用を継続する基盤が存在しないことになるから、解散に伴って解雇がされた場合に、当該解雇が解雇権の濫用に当たるか否かを判断する際には、いわゆる整理解雇法理により判断するのは相当でない。もっとも、①手続的配慮を著しく欠いたまま解雇が行われたものと評価される場合や、②解雇の原因となった解散が仮装されたもの、又は既存の従業員を排除するなど不当な目的でなされたものと評価される場合は、当該解雇は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であるとは認められず、解雇権を濫用したものとして無効になるというべきである(なお、仮に原告の主張するとおり、本件解雇が解散に伴うものではなく事業の廃止に伴うものと解したとしても、被告が全ての事業を廃止している以上、労働者の雇用を継続する基盤が存在しないことは会社が解散された場合と同様であり、解散に伴う解雇と同様の枠組みにより判断すべきこととなると解される。)。」

(中略)

「原告は、合意退職に応じた者を退職させた後に残った従業員に対して、雇用調整助成金を利用して雇用を継続しつつ、事業譲渡先を探したり、再就職先のあっせんをしたりすべきであったと主張する。」

「しかし、雇用調整助成金は、経済上の理由により急激に事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、労働者を休業させるなどして雇用の継続を図るものであるところ(雇用保険法施行規則102条の3)、事業の継続を断念した事業主において、従業員が再就職する(当該事業を譲渡した場合において譲渡先に雇用されることを含む。)までの雇用を確保する目的で雇用調整助成金を利用することが当然に想定されているとは解されないから、被告がかかる措置をとらなかったからといって本件解雇が手続的配慮を著しく欠いたまま行われたということはできず、原告の上記主張は採用することができない。

3.会社解散に対しては雇用調整助成金の抗弁は脆弱?

 会社が存続している場合、雇用調整助成金を利用しないままなされた整理解雇の効力は、容易には認められない傾向にあります。

雇用調整助成金を利用せずに行われた整理解雇の効力(解雇回避努力との関係) - 弁護士 師子角允彬のブログ

雇用調整助成金を利用せず有期労働者を整理解雇することは非常に難しい - 弁護士 師子角允彬のブログ

 しかし、会社解散との関係では、これを利用しなくても手続的配慮を欠いたことにはならないと判示されました。新型コロナウイルスの影響下における解雇の相談は、決して少なくありません。雇用調整助成金の不利用が万能の抗弁でないことは、実務上、留意しておく必要があるように思われます。