弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

雇用調整助成金を利用せず有期労働者を整理解雇することは非常に難しい

1.有期労働者への整理解雇の四要素の適用

 整理解雇=経営上の理由による人員削減のための解雇の効力は、①人員削減を行う経営上の必要性、②使用者による十分な解雇回避努力、③被解雇者の選定基準およびその適用の合理性、④被解雇者や労働組合との間の十分な協議等の適正な手続、という4つの観点から判断されると理解されています。

(90)【解雇】整理解雇|雇用関係紛争判例集|労働政策研究・研修機構(JILPT)

 この整理解雇の4要素の考え方は、無期で働く正社員を整理解雇する場面だけではなく、有期労働者を整理解雇する場面にも適用があります。

 ただ、同じく4要素に基づいて判断されるとはいっても、有期労働者は、無期で働く正社員よりも、ずっと解雇されにくい立場にあります。

 意外に思われる方もいるかも知れませんが、契約期間内である限りは、有期労働者の方が無期で働く正社員よりも強く保護されています。例えば、福岡地小倉支判平29.4.27労働判例1223-17 朝日建物管理事件は、

「本件労働毛役は期間の定めのある労働契約であるから、被告が原告をその期間途中において解雇するためには、『やむを得ない事由がある場合』でなければならず(労働契約法17条1項)、期間の定めの雇用保障的な意義や同条項の文言等に照らせば、その合理性や社会的相当性について、期間の定めのない労働契約の場合よりも厳格に判断するのが相当というべきである。」

と、有期労働者の解雇が無期労働者の解雇よりも困難であると明示的に述べています。

 整理解雇の4要素の考え方は、無期で働く正社員に適用される場合にも、かなり厳格な基準として機能しています。そのため、有期労働者に適用される場合には、解雇をほぼ不可能にするのと同じくらい強い力を発揮します。そのことは、昨日ご紹介した仙台地決令2.8.21労働判例1236-63 センバ流通(仮処分)事件の判示事項からも読み取ることができます。

2.センバ流通(仮処分)事件

 本件は、労働契約上の地位の保全や、賃金の仮払の可否がテーマになった労働仮処分事件です。

 本件で債務者になったのは、タクシーによる一般乗用旅客自動車運送業等を目的とする有限会社です。

 債権者になったのは、債務者との間で有期労働契約を締結し、タクシー乗務員として働いていた方です。債務者から整理解雇されたことを受け、その無効を主張し、労働契約上の地位の保全や、賃金の仮払を求める仮処分の申し立てを行いました。

 本件の事案としての特徴は、雇用調整助成金の申請を行うことなく、整理解雇に踏み切られていたことです。昨日は、これが解雇可否努力との関係で、どのように評価されるのかをご紹介しました。本日は、これが人員削減を行う経営上の必要性との関係で、どのように評価されたのかをご紹介させて頂きます。

 本件の人員削減を行う経営上の必要性について、裁判所は、次のとおり述べて、これを否定しました。

(裁判所の判断)

「債務者の売上については、令和2年3月頃から、新型コロナによるタクシー利用客の減少による売上の減少が始まり・・・、令和2年4月は利用客が著しく減少した結果、売上が激減した・・・。」

「債務者の令和2年4月の収支を見るに、上記・・・のとおり、債務者の運賃収入は約501万円にとどまるにもかかわらず、乗務員給与約762万円、退職金約531万円、法定福利費約71万円、燃料費約116万円、製造経費約138万円(主な内訳は修繕費約64万円、保険料約28万円、自賠責保険料約24万円等)、販売管理費約269万円(主な内訳は給料手当約80万円、地代家賃約45万円、宣伝広告費約50万円、雑費約49万円等)等の合計約1902万円の経費が発生し、営業外収支を含め最終的に同月は約1415万円もの支出超過となっている。」

「また、債務者の令和2年4月30日の資産全体を検討しても、上記・・・のとおり、資産は現預金約2769万円、仮払消費税約421万円等の合計約4101万円に過ぎないのに対し、負債は前会計年度の未払消費税約1110万円、仮受消費税約1408万円、Fに対する2000万円以上の実質的な借受金を含む約3665万円の未払費用、Eからの900万円の借入金を含む長期借入金約936万円等の合計約7234万円であり、総額約3133万円もの債務超過となっている。」

「このような収支及び資産状況に加え、新型コロナの影響によるタクシー利用客の減少がいつまで続くのか不明確な状況であった以上、本件解雇時において、債務者に人員削減の必要性があること及びその必要性が相応に緊急かつ高度のものであったことは疎明がある。」

「しかし、令和2年4月と同様の支出が今後も継続するのかという点については、給与は従業員を休業させることによって6割の休業手当の支出にとどめることが可能であり、しかも、雇用調整助成金の申請をすればその大半が補填されることがほぼ確実であった・・・。また、退職金は恒常的に発生するものではなく、燃料費及び製造経費の大半を占める修繕費、保険料、自賠責保険料は、臨時休車措置をとることにより免れることができた・・・。販売管理費についても、地代家賃はともかくとして、給与手当や宣伝広告費、雑費等は削減の余地がある。そうすると、債務者の単月当たりの収支は大幅に改善の余地があったといえる。」

「また、債務者の負担する債務については、E及びFに対する負債が2900万円以上を占めている。債務者とE及びFとの間には資本関係等はないものの、Eが債務者の初代代表取締役であり・・・、現代表者に代わって団体交渉に出席するなど・・・、経営に密接に関与していることからすると、E及びEが代表者を務めるFに対する債務は即時全額の支払の必要があるとは解されない。そうすると、債務者の債務超過の程度は額面ほど大きくはないものといえる。」

「そして、債務者は、令和2年5月1日及び8日に合計500万円をEから借り入れていること・・・から明らかなとおり、Eからさらに融資を受けることが可能であった。」

「また、債務者は、貸借対照表上に金融機関からのものと思われる借入金の計上がほとんどないこと・・・、債務者は平成27年以降、継続して約1億8364万円から約2億円を超える運賃収入を計上するなど・・・、相応の営業規模の企業であったことからすると、当面の資金繰りについては金融機関から融資を受ける余地も十分にあったものと考えられる。

「さらに、債務者が本件解雇に際して交付した本件解雇通知には、『借金が100万円単位で増えていき、いつまで増えるのかを解らないまま増やし続けられない』『要はコロナウイルスが終息した時従業員の給料を減額しなければ借金返済不能の様な結果は避けなければならない』との記載があるが、かかる記載からは、債務者において、さらなる借金が不可能ではないと考えていること、現状のままでも給与を減額すれば存続可能であると考えていることがうかがわれる。少なくとも、本件解雇をしなければ直ちに倒産に至るとの見通しであったとは考えられない。

「これらの事情を総合すると、債務者の人員削減の必要性については、直ちに整理解雇を行わなければ倒産が必至であるほどに緊急かつ高度の必要性であったことの疎明があるとはいえない。

4.倒産必至でなければ人員削減を行う経営上の必要性すら認められない

 人員削減を行う経営上の必要性は、整理解雇の可否を判断するにあたり、それが認められなければ論外という入口の役割を果たしています。そして、整理解雇の可否は、各要素の相関で決まるためか、近時の裁判例の傾向として、無期で働く正社員が対象になる場合、倒産必至の状態でなければ人員削減を行う経営上の必要性すら認められないといった極端な判断がなされることは、あまりありません。

 しかし、センバ流通(仮処分)事件では、

休業と雇用調整助成金を使えば収支は大幅に改善する、

資本関係がなくても経営が密接に関連する取引先への支払いは直ちにしないでもいい、

資金繰りは金融機関から借りればいい、

給与を減らせば存続できるなら給与を減らせ、

というかなり思い切ったことを指摘したうえ、

倒産必至であるような状況にはないから、人員削減の必要性は認められない、

と判示しました。

 雇用調整助成金が、かなり手厚く支給されることを考えると、これを利用することなく有期労働者を整理解雇することは、不可能に近いと評しても、過言ではなさそうに思います。

 有期労働者は、法律上、かなり強く保護されています。

 コロナ禍の中、雇用調整助成金の利用すらしてもらえず、期間途中で整理解雇されてしまった有期労働者の方は、法的措置を検討してみても良いのではないかと思います。