弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

解雇した後、解雇理由が探索されるパターンへの対応

1.解雇理由の構成

 労務管理に対する意識が不十分な会社では、それほど深く考えられることなく解雇権が行使されることがあります。

 こうした解雇は、当然、紛争を誘発します。解雇されることに納得のできない労働者は、解雇権の行使が無効であることを主張します。

 その後、深く考えることなく解雇権を行使した会社がどうするかというと、大体、

① 解雇を撤回する、

② 解雇理由を探し始める、

のいずれかの行動をとります。

 ①の方針をとられると、方便的な解雇撤回にどのように立ち向かうのかという問題を考えて行くことになります。

 それでは、②の対応がとられた場合、どのようなポイントに注目して対抗して行けば良いのでしょうか?

 昨日ご紹介した東京地判令7.1.31労働判例ジャーナル160-56 社会福祉法人浅草寺病院事件は、この問題を考えるうえでも参考になる判断を示しています。

2.社会福祉法人浅草寺病院事件

 本件で被告になったのは、病院(本件病院)を設置運営している社会福祉法人です。

 原告になったのは、眼科専門医の資格を取得している医師の方です。被告と期間の定めのない労働契約を締結していたところ、就業状況不良や勤務成績不良、業務能率不良を理由に解雇されたことを受け、その無効を主張し、地位確認等を求める訴えを提起したのが本件です。

 本件の被告は多数の解雇理由を主張しましたが、その中に、次のようなものがありました。

(被告の主張)

・職員に対する暴言等

「原告は、令和3年7月1日の診療開始当初から、連日、看護師、視能訓練士、事務補助者といったコメディカルスタッフに対し、暴言を繰り返していた。さらに、同年11月9日には、看護師の背中を叩いて叱責するという暴力行為を行った。」

・不十分な診療

「原告は、診療に際し、例えば機器の配置の検討や、研修会の予定の確認といった、診療と無関係なことを行い、患者を必要以上に待たせることが常態化していた。さらに原告は、令和3年10月12日には、診察中に突然診察室を退室し、患者を放置して診察を拒絶した。」

 しかし、裁判所は、次のとおり述べて、これらが解雇理由になることを否定しました。

(裁判所の判断)

・職員に対する暴言について

「被告の職員からは、職員に対する原告の対応について、原告の責任で診療時間が遅くなっているにもかかわらず職員の責任であるとして原因を調べるよう叱責したこと、診察中の患者がいるにもかかわらず机の配置について長々と叱責したこと、令和3年11月9日に電話対応をしていた職員に対し背中を叩いて電話なんか切ればいいと叱責したこと、その他原告の職員に対する態度が悪いことを述べる報告書が提出されている・・・。」

「しかしながら、上記報告書は、令和3年11月9日の出来事について述べるもの・・・を除き、本件解雇後に、職員が、被告から原告の問題点の報告を求められたことに応じて作成されたものである上に、いずれも報告者の尋問を経ておらず、裏付けも欠く。また、被告が、原告の職員に対する態度を問題視して、事実関係の確認や具体的な指導をしたり、原告と職員との関係改善を試みたことを認めるに足りる証拠はない。さらに、本件労働契約には3か月間の試用期間が定められているにもかかわらず・・・、被告が留保解約権の行使を検討した形跡はない。

「したがって、上記報告書をもって、原告の就業状況、勤務成績又は業務能率が著しく不良であると認めることはできない。」

・不十分な診療行為について

「被告の職員からは、原告の診療について、紹介状の作成及び患者への送付が遅れていたこと、診療が遅い上に処分物の作業をする等診療時間中に診療と無関係なことを行う等して、連日診療時間が長引いており、患者が帰宅したり患者から不満が述べられていることを記載した報告書が提出されている・・・。」

「しかしながら、前記・・・で判示したところと同様に、上記報告書は、本件解雇後に、職員が、被告から原告の問題点の報告を求められたことに応じて作成されたものである上に、いずれも報告者の尋問を経ておらず、裏付けも欠く。また、被告が、原告の診療を問題視して注意や指導をしたことを認めるに足りる証拠はない。さらに、本件労働契約には3か月間の試用期間が定められているにもかかわらず・・・、被告が留保解約権の行使を検討した形跡はない。

「したがって、上記報告書をもって、原告の就業状況、勤務成績又は業務能率が著しく不良であると認めることはできない。」

3.泥縄式に作られた解雇理由はそれほど怖れるに足りない

 解雇された後、泥縄式に作られた解雇理由は、概ね大したことがありません。

 このように作られた解雇理由は大量の個数に及ぶことから、一般の方は量に圧倒されがちです。

 しかし、解雇後に探索された解雇理由には、当時問題にされた痕跡が残りません。

 裁判所からは、問題にされた痕跡がないものは、解雇の意思決定にあたって本質的な影響を及ぼしたものではないと判断される傾向にありますし、解雇理由としてそれほどのインパクトは持ってきません。

 そして、問題にされた痕跡がないことを指摘するためのポイントが、解雇後に報告されていることや、当時注意指導された形跡がないことや、試用期間満了時に検討可能であったことだったりします。

 裁判所の判断は、泥縄式に作られた解雇理由についての主張を崩して行くにあたり、実務上参考になります。