1.勤務時間中の送別会呼びかけで処分を検討
ネット上に、
「“公用メールで送別会呼びかけ”はNG?! 大阪府が処分検討に街の声は・・・」
という記事が掲載されていました。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190730-00010013-fnnprimev-life
記事には、
「大阪府の職員が上司の送別会を開くため、勤務時間中に職場のパソコンを使い、公用のメールアドレスで同僚らに参加の呼びかけなどを行っていたという。」
「大阪府は、公用メールの私的利用を禁じていて、勤務中に送別会の準備を行ったことは、職務専念義務に違反する可能性があるとして、事実関係をくわしく調べるとともに、関係者の処分を検討している。」
と書かれています。
公務員が勤務時間中に送別会の呼びかけをするのは、法的に許されないことなのでしょうか。
2.職務専念義務
(1)職務専念義務の法的根拠
地方公務員法35条は、
「職員は、法律又は条例に特別の定がある場合を除く外、その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用い、当該地方公共団体がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならない。」
と規定しています。
(2)職務専念義務の理解-目黒電報電話局事件
この職務専念義務の理解について、最高裁(最三小判昭52.12.13労働判例287-26 目黒電報電話局事件)は、
「公社法三四条二項は『職員は、全力を挙げてその職務の遂行に専念しなければならない』旨を規定しているのであるが、これは職員がその勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないことを意味するものであり、右規定の違反が成立するためには現実に職務の遂行が阻害されるなど実害の発生を必ずしも要件とするものではないと解すべきである。本件についてこれをみれば、被上告人の勤務時間中における本件プレート着用行為は、前記のように職場の同僚に対する訴えかけという性質をもち、それ自体、公社職員としての職務の遂行に直接関係のない行動を勤務時間中に行つたものであつて、身体活動の面だけからみれば作業の遂行に特段の支障が生じなかつたとしても、精神的活動の面からみれば注意力のすべてが職務の遂行に向けられなかつたものと解されるから、職務上の注意力のすべてを職務遂行のために用い職務にのみ従事すべき義務に違反し、職務に専念すべき局所内の規律秩序を乱すものであつたといわなければならない。」
との解釈を示しています。
これは
「日本電信電話公社・・・目黒電報電話局・・・施設部試験課に勤務する公社職員」
が
「昭和四二年六月一六日から同月二二日まで継続して、目黒局において、作業衣左胸に、青地に白字で『ベトナム侵略反対、米軍立川基地拡張阻止』と書いたプラスチツク製のプレート・・・を着用して勤務した。」
ことが日本電信電話公社法34条2項所定の職務専念義務に違反するか否かが問題となった事件です。
プレートを着用したところで作業に支障が生じることはないとは思いますが、最高裁は、精神的活動の面から見て注意力のすべてが職務の遂行に向けられていないから職務専念義務に違反するとの解釈を示しました。
(3)職務専念義務の理解-大成観光(ホテルオークラ)事件 伊藤正己裁判官補足意見
ただ、その後に出されている最三小判昭57.4.13労働判例383-19 大成観光(ホテルオークラ)事件の伊藤正己裁判官補足意見は、
「当裁判所は、政治的内容をもつ文言を記載したプレートの着用行為につき、すべての注意力を職務遂行のために用い職務にのみ従事すべき義務に違反し、職務に専念すべき職場の規律秩序を乱すものであると判断している(昭和四七年(オ)第七七七号同五二年一二月一三日第三小法廷判決・民集三一巻七号九七四頁)。この判旨は、職務専念義務について、就業時間中には一切の肉体的精神的な活動力を職務にのみ用いるべきであるという厳格な立場をとつたものとみられるが、このプレート着用が組合の活動でなかつたこと、プレートに記載された文言が政治的な内容のものであつて、その着用が政治活動にあたること、それが法律によつて職務専念義務の規定されている公共部門の職場における活動であつたことにおいて、本件とは事案を異にするといつてよい。」
「労働者の職務専念義務を厳しく考えて、労働者は、肉体的であると精神的であるとを問わず、すべての活動力を職務に集中し、就業時間中職務以外のことに一切注意力を向けてはならないとすれば、労働者は、少なくとも就業時間中は使用者にいわば全人格的に従属することとなる。私は、職務専念義務といわれるものも、労働者が労働契約に基づきその職務を誠実に履行しなければならないという義務であつて、この義務と何ら支障なく両立し、使用者の業務を具体的に阻害することのない行動は、必ずしも職務専念義務に違背するものではないと解する。そして、職務専念義務に違背する行動にあたるかどうかは、使用者の業務や労働者の職務の性質・内容、当該行動の態様など諸般の事情を勘案して判断されることになる。」
との判断を示しています。
これは民間事業者の職務専念義務が問題となった事案ではありますが、使用者の業務を具体的に阻害することのない行動は、必ずしも職務専念義務に違背しないと述べています。
3.勤務時間中の送別会の呼びかけはどうなのか?
公務の遂行に実質的な支障がなかったとしても、目黒電報電話局事件で示された解釈に照らせば、注意力の全てが職務遂行に向けられたわけではないのだから、職務専念義務に違反するという解釈が導かれそうです。
しかし、一般論として、送別会は政治的な色彩を帯びるような行事ではないように思われます。
送別会への参加が政治活動とは無関係になされた儀礼的なもので、大阪府での公務を具体的に阻害するようなものではなかった場合、大成観光(ホテルオークラ)事件の伊藤正己裁判官の趣旨に照らして行き過ぎだという理解も成り立ちそうに思います。
ただ、本件の送別会に関して言えば、以下の
「勤務中の送別会準備に、大阪府が『厳しすぎる』対処をする理由」
「騒動の背景には、大阪都構想の推進派と反対派の政治抗争がありそうだが......」
という記事に示されているとおり、政治的な問題だとする見解もあるようです。
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190730-00010001-newsweek-int
本件で職務専念義務違反を理由に何等かの処分をすることが、現行法の解釈下で許容されているのか否かを予測するためには、送別会の実体にまで立ち入った検討が必要であり、報道レベルの事実から一義的な結論を出すのは難しいように思われます。