弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

フリーランス(労働組合法上の労働者に該当しない人たち)による団体交渉の可能性

1.労働組合法上の団体交渉

 労働組合には、組合員のため、使用者と交渉する権限(団体交渉権)があります(労働組合法6条)。

 団体交渉の対象は「労働協約の締結その他の事項に関して」です(労働組合法6条)。

 「労働協約」は「労働組合と使用者又はその団体との間の労働条件その他に関する協定であって、いわゆる当事者の合意の形によって成立するもの」と理解されています(厚生労働省労政担当参事官室編『労働組合法 労働関係調整法』〔労務行政、六訂新版、平27〕605頁参照)。

 「労働条件」には「報酬(月例賃金・一時金・退職金・一部の福利厚生給付)、時間(労働時間)、休息(休憩・休日・休暇)、安全性(安全衛生)、補償(災害補償)、訓練(教育訓練)など」が該当します(菅野和夫『法律学講座双書 労働法』〔弘文堂、第七版補正二版、平19〕300-301頁参照)。

 労働協約は書面で作成し、両当事者が署名又は記名押印することによって発効します(労働組合法14条)。

 労働協約に違反する労働契約は無効になります。無効になった部分や、労働契約に定めのない部分は、労働協約に定められた基準に置き換えられます(労働組合法16条)。

 団体交渉は労働条件の改善に重要な役割を果たしています。

 そのため、

「使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと。」

は違法(不当労働行為)だとされています(労働組合法7条2号)。

 正当な理由なく団体交渉を拒否された労働組合は、労働委員会に救済を申し立てることができます。

 労働組合側の言い分に理由がある場合、労働委員会は「被申立人会社は申立人組合が〇年〇月〇日に申し入れた事項に関する団体交渉要求に応じなければならない。」「営業所長には交渉権限がないとの理由で団体交渉を拒否してはならない。」といった命令を発してくれます(前掲『労働組合法 労働関係調整法』835頁参照)。

2.労働組合法上の「労働者」の定義からこぼれおちた人たちの問題

 労働組合法上の団体交渉権は労働組合が持つものです。

 労働組合は、

「労働者が主体となつて自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合団体をいう。」

と定義されています(労働組合法2条1項)。

 労働組合法上の「労働者」は、

「職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によつて生活する者をいう。」

と定義されています(労働組合法3条)。

 ここで言う労働者の範囲は労働基準法上の労働者よりも広く、

「単に雇用契約によって使用される者のみに限定されず、組合契約、請負契約、委任契約等によって労働に従事する者であっても、他人との間において使用従属の関係に立ち、その指揮監督の下に労務に服し、労働の対価として報酬を受け、これによって生活する者は、労働者である。」

と理解されています(前掲『労働組合法 労働関係調整法』320頁参照)。

 しかし、

「広い意味で他人に労働を提供する者であっても、例えば純粋な請負のように、仕事の完成そのものを目的とし、自己の独立の判断、規制の下に労働を従事する者は、本法上の労働者ではない。このようなものは、独立の企業者であって、労働組合運動の主体である労働者とはいえない」

とされています(同頁参照)。

 団体交渉ができるかどうかなどの重要な意味を持つことから、ある人が労働組合法上の「労働者」に該当するかは、しばしば争いの対象になってきました。

 近時、コンビニオーナーとの関係で、団体交渉拒否が容認されたとの報道がなされましたが、これも労働者性を巡る紛争の一つです。

https://www.sankei.com/life/news/190315/lif1903150051-n1.html

 団体交渉拒否が容認されたのは、コンビニオーナーは労働者ではないという判断が示されたからです。

 団体交渉は働く人にとって強力な権限ではあります。

 しかし、労働者性が認められないけれども、取引先との圧倒的な情報力・交渉力格差のもとで就労を余儀なくされている人たちの就労環境の改善のためには活用が難しいという限界があります。

 労働者性の問題から零れ落ちた人たちをどのように保護して行くのかは、フリーランスの労働問題を考えていく上での重要なテーマです。

3.中小企業等協同組合法に基づく団体交渉

 労働者でなければ団体交渉ができないかといえば、必ずしもそうとは言えません。

 中小企業等共同組合法という法律があります。

 これは

「中小規模の商業、工業、鉱業、運送業、サービス業その他の事業を行う者」の「経済的地位の向上を図ること」

を目的の一つとする法律です(中小企業等協同組合法1条)。

 この法律に基づいて設立された事業協同組合・事業協同商組合は、

「組合員の経済的地位のためにする団体協約の締結」

を事業として行うことができます(中小企業等協同組合法9条の2第1項第6号)。

 組合が締結した団体協約は、

「直接に組合員に対してその効力を生ずる」

とされています(中小企業等協同組合法9条の2第12項)。

 具体的には、

「組合員の締結する契約であつて、その内容が・・・団体協約に定める基準に違反するものについては、その基準に違反する契約の部分は、その基準によつて契約したものとみなす。」

とされています(中小企業等協同組合法9条の2第13項)。

 事業協同組合の組合員は「小規模の事業者」が想定されています(中小企業等協同

組合法8条1項)。「組合員たる事業者」は「個人、法人の別を問わずに含んでいる。」ものとして理解されています(全国中小企業団体中央会編『中小企業等協同組合法逐条解説』〔第一法規、第二次改訂版、平28〕18頁)。

 組合員と取引関係のある事業者は、

「その取引条件について事業協同組合又は事業協同小組合の代表者・・・が政令の定めるところにより団体協約を締結するため交渉をしたい旨を申し出たときは、誠意をもつてその交渉に応ずるものとする。」

とされています(中小企業等協同組合法9条の2第12頁)。

 団体交渉に応じない場合には、行政庁に

「あっせん又は調停」

を申請することができます(中小企業等協同組合法9条の2の2第1項)。

 「行政庁は、・・・経済取引の公正を確保するため必要があると認めるときは、すみやかにあつせん又は調停を行うものとする」(中小企業等協同組合法9条の2の2第2項)

とされており、必要に応じて、

「調停案を作成してこれを関係当事者に示しその受諾を勧告するとともに、その調停案を理由を付して公表すること」(中小企業等協同組合法9条の2の2第3項)

もできます。

 労働委員会のように「命令」を発することまではできないにしても、斡旋案や調停案を示してもらうことは可能です。

 一部のフリーランスなど労働組合法上の労働者の定義から零れ落ちた方に関していえば、事業協同組合・事業協同小組合を設立することで、大規模事業者との間で団体交渉を行うことが考えられるのではないかと思います。

 実務的にも、協同組合日本俳優連合などが、この仕組みを利用して、団体協約を締結し、俳優の出演環境や出演条件の整備に努めているようです。

https://www.nippairen.com/about/organization.html

https://www.nippairen.com/about/active.html

 中小企業等協同組合法は、弁護士にとっても馴染みの薄い法令で、参照する機会も殆どないのではないかと思います。

 しかし、フリーランスの方が増加する中、こうした法制度にも、もう少し目が向けられて良いように思われます。