弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

アルバイト職員でも賞与の支給を要求できる場合

1.アルバイト職員への賞与の不支給が違法とされた例
 近時公刊された判例集に、アルバイト職員への賞与の不支給が違法とされた判例が掲載されていました。
 大阪高判平31.2.15労働経済判例速報2374-3 学校法人大阪医科薬科大学事件です。
 労働契約法20条は、
「有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。」
と規定しています。
 一般の方は一読しても意味を捉えにくいと思いますが、要するに、有期契約の労働者と無期契約の労働者との間に、不合理な労働条件格差を設けてはならないとする条文です。
 学校法人大阪医科薬科大学事件では、有期雇用のアルバイト職員に賞与を支給しないなどの措置をとっていたことの合理性が問題になりました。
 大阪高裁は、有期雇用のアルバイト職員に賞与を支給しないことは違法だと判示し、同時期に採用された正職員の賞与支給基準にあてはめて計算した額の60%に相当する額の支払いを命じました。
2.大阪高裁の論理構成
 大阪高裁が上記の結論を導き出したのは、概ね以下のような論理構成によります。
(1)賞与には在籍していたことの対価としての性質がある
 大阪高裁は、
「賞与の支給額は、正職員全員を対象とし、基本給のみに連動するものであって、当該従業員の年齢や成績に連動するものではなく、被控訴人の業績にも一切連動していない。このような支給額の決定を踏まえると、被控訴人における賞与は、正職員として被控訴人に在籍していたということ、すなわち、賞与算定期間に就労していたことそれ自体に対する対価としての性質を有するものというほかない。そして、そこには、賞与算定期間における一定の功労の趣旨も含まれるとみるのが相当である。」
と判示しました。
(2)正職員と同様に在籍していた以上、アルバイト職員を排除するのは不合理
 そのうえで、
「被控訴人における賞与が、正職員として賞与算定期間に在籍し、就労していたことそれ自体に対する対価としての性質を有する以上、同様に被控訴人に在籍し、就労していたアルバイト職員、とりわけフルタイムのアルバイト職員に対し、額の多寡はあるにせよ、全く支給しないとすることには、合理的な理由を見出すことが困難であり、不合理というほかない」
と判示しました。
(3)ただし、功労的が正職員より相対的に低いことは否定できない
 裁判所がアルバイト職員の請求を正職員の支給基準にあてはめて計算した額の60%に留めたのは、功労的な側面が正職員よりも低いと判断したからです。
 具体的には、
「被控訴人の賞与には、功労、付随的にせよ長期就労への誘因という趣旨が含まれ、先にみたとおり、不合理性の判断において使用者の経営判断を尊重すべき面があることも否定し難い。さらに、・・・正職員とアルバイト職員とでは、実際の職務も採用に際し求められる能力にも相当の相違があったというべきであるから、アルバイト職員の賞与算定期間における功労も相対的に低いことは否めない。これらのことからすれば、フルタイムのアルバイト職員とはいえ、その職員に対する賞与の額を正職員に対すると同額としなければ不合理であるとまではいうことができない。
「上記の観点及び被控訴人が契約職員に対し正職員の約80%の賞与を支払っていることからすれば、控訴人に対し、賃金同様、正職員全体のうち平成25年4月1日付けで採用された者と比較対照し、その者の賞与の支給基準の60%を下回る支給しかしない場合は不合理な相違に至るものというべきである。」
と判示しています。
3.基本給連動型の賞与である場合、有期非正規、有期アルバイトでも相応の賞与を請求できる可能性がある
 大阪高裁の論理構成からすると、賞与が純粋に基本給に連動する形で制度設計されている場合、労働契約上賞与不支給となっている有期非正規・有期アルバイトの方であったとしても、正職員に支給されている賞与の何割かを請求できる可能性があります。
 自分も該当するのではとお考えの方がおられましたら、ぜひ、一度相談ください。