弁護士 師子角允彬のブログ

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不正行為を行った労働者の責任-損害額を盛った弁済同意書の効力に異を唱えたこと等を理由とする懲戒解雇が違法とされた例

1.損害額を盛った弁済同意書に異議を唱えると・・・

 昨日、従業員が不正行為をして会社に損害を与えた場合、会社と従業員との間では損害額の盛られた弁済同意書(債務弁済契約書)が取り交わされやすいという話をしました。

不正行為を行った労働者の責任-損害額を盛った弁済同意書の効力が否定された例 - 弁護士 師子角允彬のブログ

 こうした弁済同意書が取り交わされやすいのは、従業員の側に、

刑事告訴されたらどうなるのか、

懲戒解雇されると経歴に傷がついてしまうのではないか、

という不安があるからです。

 しかし、だからといって法外な弁償を約束させられると、それはそれで釈然としない思いを抱えることになります。

 このように不正行為をした労働者は「揺れる」ことになります。

 それでは、損害額を盛った弁済同意書に異議を唱え、懲戒解雇されてしまった場合、当該懲戒解雇の効力は、どのように理解されるのでしょうか?

 不正行為を行ったには違いないということで適法となるのでしょうか? それとも、損害額が盛られている以上懲戒事由の認定には問題があり違法ということになるのでしょうか?

 昨日ご紹介した、秋田地判令2.6.25労働判例1325-65 ユーアイ警備保障事件は、この問題を考えるにあたっても参考になる判断を示しています。

2.ユーアイ警備保障事件

 本件で原告になったのは、警備保障等を主な業務とする株式会社です。

 被告になったのは、平成20年7月19日から平成30年2月21日付けで懲戒解雇されるまでの間、原告の営業職として勤務していた方です。在職中に給油カードの私的不正使用が発覚し、解雇された際「私が会社に与えた被害金額105万1255円について弁済する事に同意します」等と記載された「被害弁済に対する同意書」を提出しました。この「被害弁済に対する同意書」に基づいて、原告は被告に対して弁済金の支払を求める訴えを提起しました。これに対し、被告は「被害弁済に対する同意書」の効力を争うとともに、在職中の残業代(未払時間外勤務手当)や退職金の支払を求める反訴を提起しました。

 本日、焦点を当てたいのは、退職金の支払を求める反訴請求の扱いです。

 裁判所は、損害額が盛られていること等を理由に弁済同意書の効力を否定したうえ、次のとおり述べて、被告労働者による退職金請求を認めました。

(裁判所の判断)

「C専務は,平成30年1月29日,書式が改定された平成29年4月10日分以降の営業日報の内容を確認していた際に,被告のジムニーの休日の走行距離が80kmから427kmにも及ぶ場合があることに気づいた。その報告を受けたB本部長とA支店長が,翌30日,被告に対し,給油カードの私的不正使用の有無につき質したところ,被告は,私用分のガソリンも給油カードを用いて給油していたことを認めた。」

「C専務は,同年2月17日までに,平成21年7月1日に遡って被告の給油記録を調査し,その中から,週末と週明け(主に月曜日と金曜日),土日祝日その他被告の休日及びその前後の日にされた給油を拾い出し,B本部長やA支店長とも協議の上,それらの給油を私用分のガソリンの給油とみなしてそのガソリン代を算出し,その総額105万1255円をもって被告が給油カードの私的不正使用により原告に与えた損害金額と算定する内容の資料(・・・総括表・・・)を作成した。」

「平成30年2月21日,C専務,B本部長,D主幹が被告を会議室に呼び出し,被告に総括表を示して1時間余りの間その内容を確認させ,給油カードの私的不正使用は横領であり刑事告発もあり得るが,総括表の算定を受け容れて105万1255円を弁償するのであれば自己都合退職とすることができるという趣旨のことを告げて,その場で,被告に弁済同意書を作成させ,退職願いとともに提出させた。また,同月8日に提出させていた給油カードの私的不正使用を認める旨を記載した被告の始末書についても,文言を整えたものを改めて同年1月31日付けの始末書・・・として提出させた。」

「同年2月23日,B本部長と被告との間で弁償金の支払計画について話し合われたが,その際に,被告が弁償金額について異議を述べたことから,B本部長は被告に対し,業務使用に係る給油量を証明する資料を提出するよう求めた。被告は,業務の資料を持ち帰るなどして証明を試みたが,結局,同月26日,C専務とA支店長に対し,証明を断念する旨を伝え,同年3月支給分の給与を弁償に充てることを申し出る内容の『支払い計画書』・・・を提出した。他方で,被告が,先に提出した退職願いは一方的に書かされたなどと主張したことから,原告は,同月21日付けで被告を懲戒解雇処分とした。」

「その後,同年3月初め頃,被告の父親から原告代表者に懲戒解雇処分を撤回して依願退職としてほしいという内容の書簡が届いたことから,原告は,被告の懲戒解雇処分を撤回する方針を決め,被告に対し,原告が被告の懲戒解雇処分を取り消し,被告が個人的な事情により退職したことに合意する旨を記載して原告の記名押印をした合意書案を送付して,被告に署名押印して返送するよう求めたが,被告は,これには応じなかった。」

(中略)

「原告の退職金規程によれば,懲戒解雇事由がない場合には,被告に13万0560円の退職金が支給されることになる・・・ところ,原告は,被告に懲戒解雇事由があるから退職金は支給されないと主張する。」

前記認定のとおり,原告が被告を懲戒解雇処分とした理由は,被告が,平成30年2月21日の時点では,原告が算定した弁償金を支払うことを約束して退職届を提出していたのに,同月26日の時点でこれを翻し,原告の算定に異議を唱え,退職届の効力を争う姿勢に転じたことにある・・・。

しかしながら,原告による弁償金の算定には合理性が無く,同月21日に作成された弁済同意書に基づき,その強制履行を被告に求めることが公序良俗に反して許されないことは前記のとおりであるから,同月26日に上記のような理由で原告が被告を懲戒解雇処分としたことは,解雇権の濫用であり,違法である。

そうすると,結局,被告に対する適法な解雇はされていないことになる。確かに,被告には,給油カードの私的不正使用という重大な服務規律違反行為があったことは否定できないが,適法な解雇がされていないにもかかわらず,被告が労働契約の終了の効果を争っていないからといって,懲戒解雇事由のある退職であるから退職金を支給しないと主張することは,雇用契約関係における信義則に反し,許されないというべきである。

したがって,原告の上記主張は,採用することができない。以上によれば,被告の退職金請求は,理由がある。

3.懲戒事由が盛られたものであれば、争ってもいいかも知れない

 やはり、幾ら不正行為をしたからといって過大な責任を押し付けて良いということにはならないのだと思います。

 あれもこれもと責任を盛られた挙句、異議を述べたら懲戒解雇されたといったようなケースでは、その効力を争って退職金等を請求することも一考に値します。