1.改善の余地(改善可能性)
規律違反行為を理由とする解雇の可否を判断するにあたり、改善の余地は重要な考慮要素になります。佐々木宗啓ほか編著『類型別 労働関係訴訟の実務』〔青林書院、改訂版、令3〕396頁も、規律違反行為とする普通解雇の有効性について、
「その態様、程度や回数、改善の余地の有無等から、労働契約の継続が困難な受胎となっているかにより、解雇の有効性を判断することになる」
と記述しています。
この改善の余地(改善可能性)との関係で、規律違反行為に関するヒアリングに、どのように臨むのかという問題あります。反省しているというと使用者側から嵩かかってこられかねません。しかし、反省しないという態度を貫くと、今度は改善可能性がないとして、解雇が有効になりやすくなることが懸念されます。
そのため、規律違反行為でヒアリングを受けるにあたっては、
何を、どのように言うのか
を事前に十分に検討しておくことが重要です。近時公刊された判例集にも、そのことが分かる裁判例が掲載されていました。横浜地判令3.10.28労働経済判例速報2475-26 医療法人社団A事件です。
1.医療法人社団A事件
本件は日常的なセクシュアルハラスメントを理由とする普通解雇の可否が問題となった事件です。
本件で被告になったのは、複数の診療所を経営する医療法人社団です。
原告になったのは、診療所の開設及び運営に関わる付帯業務一般に従事し、「次長」の肩書を用いて勤務していた方です。診療所の職員らに対して常態的にセクシュアルハラスメントを行ったことなどを理由に被告から解雇されたことを受け、その効力を争い、労働契約上の地位の確認等を請求したのが本件です。
この事件の裁判所は、セクシュアルハラスメントの事実を認定したうえ、次のとおり述べて解雇の効力を維持しました。
(裁判所の判断)
「原告は、被告の管理職として、率先して職場環境を改善すべき立場にありながら、平成23年に自らセクハラと受け止められる言動をし、Q6診療所の常勤職員からの信頼を失ってその全員が退職するという事態を招いたもので、その後、被告代表者及び事務長から注意、指導を受け、自己の言動の問題点を認識し、改善する機会はあったにもかかわらず、改善するということなく、酒宴の場のみならず、業務の指導という名目で診療所内においても、女性職員らが不快、苦痛に感じるセクハラ行為を繰り返したのであるから、原告の行為は、その職責、態様等に照らして著しく不適切なものである。」
「また、原告は、平成30年に実施した本件ヒアリングの際、平成23年当時と同様に、セクハラの意図はなかったなどという弁明を繰り返し、自己の言動がセクハラに該当して不適切なことであることについての自覚を書く姿勢を示していたことからすれば、原告の言動について改善を期待することは困難というべきである。」
「さらに、原告は理事長及び事務長に次ぐ管理職の立場にあり、その他の職員は医師、看護師、管理管理士であることからすると、配置転換により原告の解雇を回避する措置を講ずることも困難であると認められる。」
「そうすると、平成23年の被告代表者による注意、指導が口頭によるものにとどまっていたことや、原告が被告において長年に渡り相応の貢献をしてきたと認められることなどを考慮しても、被告が、職員への影響を考えて、原告に対し厳正な愛度で臨んだことはやむを得ないものがあると認められる。」
「以上によれば、本件解雇は、客観的に合類的な理由があり、社会通念上相当であると認められるから、解雇権を濫用したものとはいえず、本件解雇は有効である。」
3.不合理な弁明が普通解雇を有効とする方向で考慮された
以上のとおり、本件の裁判所は、原告が不合理な弁明を行ったことを、改善可能性を否定する根拠として用い、普通解雇を有効だと判示しました。
この事案からも分かるとおり、ヒアリング対応や弁明は、思いつくまま、取り敢えずしておきさえすれば良いというものではありません。
規律違反行為で調査対象になった場合には、その時から弁護士を関与させ、訴訟を見据えたうえで、どのタイミングで何を言うのかを検討しておく必要があります。