弁護士 師子角允彬のブログ

一般の方に向けて、法律や判例に関する情報を提供して行きます。

老人ホーム入居中の親と会うことができない

1.老人ホーム入居中の親との面会が妨害された事件

 認知症で老人ホームに入居中の両親の長女(X)が、長男(Y)によって両親との面会を妨害されているとして、老人ホームと長男を相手方に面会交流を妨害しないことを求めた事件がありました。

 長女(X)は面会妨害禁止の仮処分決定を申立ました。これを認めた裁判所の決定に対し、長男(Y)は異議申立をしました。この長男(Y)の異議申立に対する決定が公刊物に掲載されていました(横浜地決平30.7.20判例時報2396-30)。

2.子どもに認知症の両親との面会を求める権利はあるのか?

 裁判所は、

「両親はいずれも高齢で要介護状態にあり、アルツハイマー型認知症を患っていることからすると、子が両親の状況を確認し、必要な扶養をするために、面会交流を希望することは当然であって、それが両親の意思に明確に反し両親の平穏な生活を侵害するなど、両親の権利を不当に侵害するものでない限り、債権者は両親に面会をする権利を有する

と権利性を認めました。

 親と未成年の子どもとの間での面会交流に権利性があることは実務的に定着していると言っても良いのではないかと思います。

 しかし、老齢の親と既に成人している子どもとの間での面会交流に権利性があるのかに関しては、それほどはっきりとはしていませんでした。

 成人している大人同士の間では、一方が会いたくないと言っているのに他方が会いたいからといって無理矢理会わせるということはできません。それは面会の強要であって、場合によっては法に触れる可能性もあると思われます。

 双方とも会いたいと言っているのに第三者が面会を妨害するというのも、双方の精神的・身体的機能に問題がないことを前提にすれば、現実的ではありません。人と会うのに第三者の許可が必要であるはずもなく、自由に会えば良いだけです。

 そのため、子どもの成人後に、親と子との間の面会交流に権利性があるかどうかといったことは、従来、議論の対象になりくかったように思います(どちらかというと、従来は兄弟間で老親の介護を押し付けあって、一部親族が面会にも来ないという類型の悩みが多かったように思います)。

 しかし、上記判例時報の解説にあるとおり、

「近時、財産のある高齢者を囲い込み、他の親族との面会を拒否するというトラブルが増えて」

います。

 私自身も類似の法律相談は何度も受けた経験があります。

 成人した子どもがアルツハイマー型認知症を患っている高齢の両親と面会する権利を承認した裁判例は珍しいです。

 上記判例時報でも、

「子の両親に面会する権利を認めた初めての画期的な事例」

として紹介されています。

 この事例は、「一部親族が両親を囲い込んで会わせてくれない」という同種お悩みをお抱えの方にとって、解決の糸口となる画期的な判断だと思います。

3.両親の意向を尊重しているだけだという反論が通用するか?

 この種の事案で、しばしば囲い込み側から出されるのが、両親の意向を尊重しているだけだという主張です。

 確かに、判断能力が十分な両親が、それ相応の理由に基づいて「会いたくない。」と言っているのに無理に面会を実現することは許されないと思われます。

 しかし、ご両親が認知症で十分な判断能力を失っているという場合には、言葉を字面通りに捉えて良いのかという問題が生じます。

 今回掲載されていた事案でも、長男(Y)側からは、

「両親の意向を尊重しているだけ」

との反論は出されていました。

 しかし、裁判所は、

「両親が現在入居している施設に入居するに当たり債務者(Y 括弧内筆者)が関与していること」

「債務者が債権者(X 括弧内筆者)に両親に入居している施設名を明らかにしないための措置をとったこと」

「債権者が両親との面会に関連して、家庭裁判所に親族間の紛争調整調停を申し立てる寳保うをとってもなお、債務者は家庭裁判所の調査官に対しても両親の所在を明らかにせず、調停への出頭を拒否したこと」

「審尋期日においても、債務者は債権者と両親が面会することについて協力しない旨の意思を示したこと」

などの事実を指摘したうえ、

「債務者の行為が、債権者が両親と面会できない状況の作出に影響していることは否定できない。」

として、これを排斥しました。

 本当に会いたくないという意向を示している場合はともかく、囲い込みたい側が影響力を行使して面会できない状況を作出しても、それは許容しないという裁判所の姿勢が看取されます。

4.囲い込み事案でお悩みの方へ

 文中でも引用したとおり、

相続の前哨戦として一部親族が「高齢者を囲い込み、他の親族との面会を拒否する」

という事件類型は増えています。

 本件裁判例が公開されたことにより、今後、同種事案の解決が進んでいくことが想定されます。

 似たようなお悩みの方がおられましたら、ぜひ、一度ご相談ください。