1.ハラスメント調査委員会によるハラスメント認定と懲戒手続
ハラスメントの成否が問題になる時に、ハラスメント調査手続と懲戒手続が分かれていることは少なくありません。先ず、ハラスメント調査委員会が調査を行ったうえ、次に、懲戒委員会が懲戒手続を行うといったようにです。
このような制度設計は目的の相違から導かれます。ハラスメント調査委員会は、ハラスメント状態を防止・除去するといったように被害者保護に力点が置かれています。他方、懲戒委員会は非違行為をした労働者への制裁を通じて企業秩序を回復することに力点が置かれています。
しかし、概念的に区別されるとはいっても、同一の法人が行う手続であることから、実際の運用は渾然一体としていることが少なくありません。ハラスメント調査委員会の認定が、当然のように懲戒委員会に引き継がれるといったようにです。
これには三つの問題があります。
一つ目は、ハラスメント調査手続に適正手続の保障が及ぶという理解に立っていない法人の存在です。手続の適正さは懲戒処分の有効/無効を判断する上での考慮要素になります。そのため、懲戒処分を行うにあたっては、一定の告知、聴聞などの手続が行われるのが普通です。しかし、ハラスメント調査手続は制裁とは異なるとして、加害者とされた方に対する手続的な保障が等閑になっていることがあります。
二つ目は、心証・認定の引継ぎの問題です。二つの手続は性質が異なりますし、制裁を行うにあたっては、独立した観点からのダブルチェックがなされていて然るべきです。しかし、ハラスメント調査委員会の認定を当然のように受入れ、「クロ」心証から懲戒手続をスタートさせる法人もあります。
三つ目は、ハラスメント調査手続の瑕疵と懲戒処分の効力との関係です。ハラスメント調査手続に瑕疵があったとして、それが懲戒処分の効力にどのような影響が及ぶのかは、あまり良く分かっていません。
このような状況のもと、近時公刊された判例集に、ハラスメント調査委員会で、加害者とされる者から事情聴取を行うことなくハラスメントの事実を認定することが原則として不相当な手続であると判示された裁判例が掲載されていました。昨日もご紹介した、大阪地判令7.12.2労働判例ジャーナル170-42 学校法人四条畷学園事件です。
2.学校法人四条畷学園事件
本件で被告になったのは、四条畷学園大学等の酷になtったのは、私立学校を設置する学校法人です。
原告になったのは、四条畷学園大学のa学部准教授の地位にあった方です。E教授に対するパワーハラスメントを理由に出勤停止14日の懲戒処分(本件懲戒処分)とされたことを受け、その無効を主張し、出勤停止期間に相当する賃金の支払等を求める訴えを提起したのが本件です。
本件では懲戒処分の効力との関係で、手続的な違法性の有無も争点になりました。
この事件でもハラスメント調査委員会と懲戒委員会(懲罰委員会)とが連続的に関与していたところ、原告の方は、次のような主張を展開しました。
(原告の主張)
「被告のハラスメント調査委員会は、原告から事情聴取を行うことなく、令和5年4月28日に答申書を提出して、原告がE教授に対してハラスメントを行った旨認定した。しかしながら、加害者とされる者から事情聴取を行うことなく、上記認定をすることは許されない。」
「被告のハラスメント調査委員会は、令和5年6月20日、原告からヒアリングを行った。しかしながら、原告に対し、事前に、ハラスメントの調査を行う旨や、その対象行為も説明されておらず、防御を十分に行うことができない状態であった。したがって、懲戒処分前に適正な手続きが取られたとはいえない。」
「被告の懲罰委員会は、原告に対し、謝罪や始末書を求めるなど、懲戒事由があることを所与の前提としており、原告に弁明の機会を与えたとはいえない。」
裁判所は実体的な観点から懲戒処分が違法無効であることを認めましたが、手続については、次のとおり述べて、原告の主張を排斥しました。
(裁判所の判断)
「当裁判所は、上記・・・のとおり、本件懲戒処分は重きに失し、譴責にとどめるべきであった旨判断するものであるが、原告は、その手続の違法に照らし、懲戒処分一切が許されないという趣旨の主張をしているとみる余地があるから、手続違法の点についてさらに判断を加えることとする。」
「原告は、加害者とされる者(原告)から事情聴取を行うことなく、原告がE教授に対してハラスメントを行ったと認定することは許されない旨主張する。確かに、ハラスメントの事実を認定するに当たって、被害を申告した者やその他の関係者からのヒアリングのみでハラスメントの事実認定を行うのは、被害者側に偏った事実認定がされるおそれがあり、原則として不相当な手続であることは原告の指摘のとおりである。しかしながら、原告以外のE教授の申告に係るヒアリング調査が終了した令和5年4月時点では、原告の退院や職場復帰の見通しも立っていなかったから、原告が職場復帰をした場合に再調査し、その結果を踏まえて結論を見直すこともあり得ることを付記して、行ったハラスメント調査委員会の当初報告は手続的に違法であるとまではいえない。」
「原告は、令和5年6月20日のヒアリングに先立ち、事前にハラスメントの調査を行う旨や、その対象行為も説明されておらず、防御を十分に行うことができない状態であった旨を主張する。しかしながら、同ヒアリングの結果の録音反訳書面(乙36)によれば、原告は、指摘されたハラスメント行為を十分に認識し、必要な反論を述べているから、上記主張は理由がない。」
「原告は、被告の懲罰委員会は、原告に対し、謝罪や始末書を求めるなど、懲戒事由があることを所与の前提としており、原告に弁明の機会を与えていない旨を主張する。しかしながら、ハラスメント調査委員会でパワハラとの認定を受けたことを前提に、謝罪や始末書の提出を求めることは、原告がハラスメント行為に対する反省の有無やその程度を確認することによって、懲戒処分の当否及びその量定を検討するのに必要であると認められる。そして、原告は、懲罰委員会の場で、書面を持参した上で、ハラスメント委員会の中で言えなかったことについて補足説明をするなど弁明をしている・・・。したがって、弁明の機会が与えられなかったとはいえない。」
「したがって、手続上の違法により、被告の懲戒処分の一切が許されないとはいえない。」
3.結論として手続的な違法性は否定されているが・・・
結論として手続的な違法性は否定されています。
しかし、
「原告は、加害者とされる者(原告)から事情聴取を行うことなく、原告がE教授に対してハラスメントを行ったと認定することは許されない旨主張する。確かに、ハラスメントの事実を認定するに当たって、被害を申告した者やその他の関係者からのヒアリングのみでハラスメントの事実認定を行うのは、被害者側に偏った事実認定がされるおそれがあり、原則として不相当な手続であることは原告の指摘のとおりである。」
とあるのは、ハラスメント調査手続においても、弁明の機会が付与されるべきであることを示した判示として重要な意味があります。
また、ハラスメント調査手続上の瑕疵について判断をしているというところも重要なポイントです。ハラスメント調査手続と懲戒手続とがそれぞれ独立したもので、前者の瑕疵が後者に影響を及ぼさないとすれば、判断を行う必要がないからです。
この二点において、裁判所の判断は、実務上参考になります。