弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

違法解雇-地位確認・未払賃金請求構成より損害賠償請求構成に利点があるかもしれない場合

1.違法解雇の争い方-地位確認と損害賠償請求

 労働契約法16条は、

「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」

と規定しています。

 労働契約法16条との関係で解雇が違法・無効であることを問題にする場合、二つの法律構成が考えられます。

 一つは地位確認・未払賃金支払請求の構成です。解雇が違法無効である、ゆえに労働契約上の権利を有する地位は未だ存続している、賃金を請求する権利も失われていないという主張です。

 もう一つは、損害賠償請求構成です。違法無効な解雇によって、賃金額に相当する利益を逸失した、ゆえに当該金額の賠償を求めるという主張です。

 一般論として言うと、地位確認請求・未払賃金請求の構成が有利です。損害賠償請求構成だと、違法・無効な解雇をしたことについて使用者の故意・過失の立証まで必要となるうえ(民法709条)、逸失利益の範囲も再就職までに必要な合理的期間分に限定されてしまうからです。違法解雇を理由とする慰謝料請求が認められる場面が極めて限定的であることからも、通常は敢えて損害賠償請求構成をとる利点はありません。

 しかし、損害賠償請求構成をとることが地位確認・未払賃金請求構成より有利な場面も、ないわけではないかも知れません。それは、更新が予定されていない有期労働契約が期間途中で解雇され、かつ、残契約期間が再就職までに必要な合理的期間を下回っている場面です。

2.アルゴグラフィック事件

 以上のような問題意識を持ったのは、一昨日、昨日とご紹介させて頂いた、東京地判令2.3.25アルゴグラフィックス事件の判決文を読んでいた時です。

 本件はいわゆる労災民訴です。

 くも膜下出血を発症して死亡した労働者(亡A)の遺族(妻及び子)が、労災認定を受けた後、亡Aの勤務先に対して安全配慮義務違反等を理由に損害賠償を請求した事件です。

 亡Aの逸失利益を計算するにあたり、裁判所は、次のとおり判示し、一定の限度ではあるものの、基礎収入の計算にあたり時間外割増賃金を考慮しました。

(裁判所の判断)

亡Aの発症前の稼働状況に照らすと、亡Aは、将来においても時間外労働をした蓋然性が高いものと認められ、亡Aの逸失利益を算定する際の基礎収入については、通常の労働時間の賃金のみならず時間外割増賃金も考慮するのが相当である。

「もっとも、亡Aの労働契約上の債務不履行又は不法行為に基づく逸失利益は、安全配慮義務違反という債務不履行又は不法行為がなければ得られたであろう利益であり、向後、安全配慮義務が果たされるであろうことを前提に、将来にわたる蓋然性に基づいて想定されるものであるから、その算定に当たっては、亡Aが生前の労働状況をそのまま継続することを前提とすべきものではない。そして、亡Aの将来の時間外労働については、認定基準において、1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合には、業務と脳・心臓疾患の発症との関連性が弱いものとされていること、被告において、1か月当たり合計40時間を超える時間外労働には、所属長ではなく本部長の承認を得ることとされていたこと、その他本件に現れた事情に照らせば、1か月合計40時間を下回り、1か月合計30時間、年間合計360時間を超えるものではないと認めるとともに、法定休日や午後10時から午前5時までの間における労働もないものと認め、これを前提とする時間外割増賃金を基礎収入に含めてその逸失利益を算定するのが相当である。」

3.地位確認・未払賃金請求構成の場合、基本的に残業代は考慮されない

 以前、

不就労期間中の未払賃金請求-時間外手当(残業代)を考慮した請求が認められた事案 - 弁護士 師子角允彬のブログ

という記事を書きました。

 記事の中で言及したとおり、解雇無効を前提として未払賃金を請求するにあたり、残業代を上乗せした金額を請求しても、それが認められることは基本的にありません。未払賃金額の基準になるのは、残業代を除外した額になるのが原則です。

 しかし、アルゴグラフィックス事件の判示事項から類推すると、損害賠償請求構成で逸失利益を請求する場合、時間外労働が発生していた蓋然性の高さを立証することにより、残業代を上乗せした金額を1か月あたりの逸失利益として認定してもらえる可能性があるのではないかと思います。そう考えると、有期労働契約の期間途中の解雇が問題になる局面で、残契約期間が再就職に必要とされる合理的期間を下回っている場合、月単価に残業代を上乗せできる可能性のある分、不法行為構成の方が地位確認・未払賃金請求構成の場合よりも多額の金銭を請求できる可能性があるように思われます。

 アルゴグラフィックス事件は、逸失利益の基礎収入の認定方法という点でも、興味深い判断をしている事案だと思います。