弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

違法解雇を理由とする損害賠償請求-逸失利益として賃金6か月分の損害賠償が認められた事例

1.違法解雇の争い方

 違法解雇には二通りの争い方があります。

 一つは、地位確認請求と未払賃金請求を併合する方法です。解雇が違法無効である場合、労働契約上の地位は依然として存続していることになります。契約が存続しているにも関わらず労務の提供ができないのは、使用者の責任なのだから、その間の賃金は全額が支払われなければならないという理屈です。

 もう一つは、不法行為に基づいて損害賠償を請求する方法です。違法な解雇により、精神的苦痛を受けた、あるいは、得られるはずだった利益を逸失したとして、その賠償を求めるという構成です。

 一般論として言うと、金額が伸びやすいのは前者です。解雇の効力をめぐる議論に決着がつくまでには、審理期間が1年以上に及ぶことも珍しくありません。地位確認請求・未払賃金請求の組み合わせによった場合、勝訴すれば解雇時に遡及して未払賃金の支払を受けることができます。

 他方、後者の構成の場合、慰謝料の請求が認められにくい・低額化する傾向があることはもとより、逸失利益も再就職までに必要な合理的期間内に限定されてしまいます。この再就職までに必要な合理的期間はそれほど長くなく、3か月~6か月の範囲内で調整される例が多いように思われます(第二東京弁護士会 労働問題検討委員会『労働事件ハンドブック』〔労働開発研究会、2023年改訂版、令5〕467-468頁参照)。

 近時公刊された判例集に、損害賠償請求構成で解雇の適法性を争い、逸失利益として相場レンジの上限付近である賃金6か月の請求が認められた裁判例が掲載されていました。昨日もご紹介した、水戸地判令3.9.8労働判例ジャーナル140-1 ビッグモーター事件です。

2.ビッグモーター事件

 本件で被告になったのは、自働車及び自動車部品販売業並びに自動車修理、解体業及びレッカー作業等を目的とする株式会社です。

 原告になったのは、被告との間で労働契約を締結し、C店(本件店舗)の整備部門にで車両整備士として勤務してきた方です。被告から違法に解雇されたと主張し、逸失利益等の損害の賠償を求める訴えを提起しました。

 原告の逸失利益に関する主張は、次のとおりです。

(原告の主張)

「本件解雇がなければ、原告は、被告において継続して雇用されていたものであり、その後も継続して雇用されていれば、少なくとも、令和2年10月分から令和3年3月分の6か月分の賃金合計377万8009円と同額の賃金を得ることができた。」

 原告のこうした主張に対し、被告は「解雇していない」という争い方をしました。

 裁判所は、本件解雇に違法性・不法行為該当性を認めたうえ、次のとおり述べて、逸失利益に関する原告の請求を認めました。

(裁判所の判断)

「前記・・・に認定説示したとおり、原告は、本件解雇の意思表示を受け、退社するように指示され、本件基幹システムへのアクセスも遮断され、被告での就労意思を喪失し、賃金請求権が発生しない状態となった。したがって、原告には、本件解雇後再就職するまでに通常要する期間の賃金相当額の経済的損害が生じたものと認められる。」

「認定事実・・・によれば、被告は、原告から、令和3年5月6日付けの本件請求書〔2〕により、離職票の交付を明示的に求められていたにもかかわらず、1か月も経過した後(なお、雇用保険法7条及び同施行規則7条により、事業主は、その雇用する労働者が被保険者でなくなったことについて、被保険者でなくなった日の翌日から起算して10日以内に管轄する公共職業安定所の長に届け出なければならないとされている。)、原告の個人メールアドレス宛のメールに添付して送付し、令和3年7月7日付の連絡文書で送付済みであることを伝えたことが認められ、原告は、同日頃、本件離職票の交付を認識したものと認められる。」

「以上によれば、原告について、再就職するまでに少なくとも6か月は要したものと認められ、前提事実・・・のとおり,原告の令和2年10月分から令和3年3月分までの賃金が合計377万8009円であったことから、原告には、6か月の賃金相当額である377万8009円の経済的損害が生じたものと認められる。

3.使用者側の実質的反論がない場合、6か月分の請求が認められる可能性がある

 本件の被告は解雇していないと主張する方針をとりました。そのため、解雇したことを前提としたうえで「再就職するまでに必要な期間はもっと短いはずだ」という部分では力を入れて争っていなかったように思われます。

 このような事案では、被告側の反論、反証が甘くなることもあり、結果として認容額が高額になる可能性があります。本件も、被告側が原告を排除することについて明確な答えを出せないことが、逸失利益の高額化を生じさせたのではないかと思います。

 欠席判決が見込まれる場合や、相手方による争点設定の仕方に疑義がある場合に、逸失利益をどの程度まで乗せることができるのかを考えるにあたり参考になります。