弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

職場のタバコの臭いに悩まされている人へ

1.職場での喫煙に関する問題

 ネット上に、

「“強烈なニオイ”でアルバイトが定着しない。職場のスメハラ被害者の嘆き」

との記事が掲載されていました。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190519-00157279-bizspa-bus_all

 記事で話を聞かれている深瀬亮さん(仮名・28歳)によると、

「編集長が無類の愛煙家なので、ほぼ全員のデスクに灰皿が置かれています。なまじ実績がある分、融通が利くんでしょうね。飲食店ですら全面的に禁煙になりそうなご時世に逆行する昭和な職場です」

とのことです。

 また、記事には、

「深瀬さんの編集部だけ他の部署とフロアが異なり、喫煙可能なスペースになっているそうです。そのため他部署の社員がタバコを吸いに集まってくる休憩時間には、まさに喫煙所の中で働いているように感じるとか。」

と書かれています。

2.健康増進法による受動喫煙対策

 あまり馴染みのない方が多いのではないかと思いますが、「健康増進法」という名前の法律があります。

 昨年7月に「望まない受動喫煙をなくす」というコンセプトのもとで、健康増進法の一部改正が行われました。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000189195.html

 健康増進法25条の5は、

「学校、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、事務所、官公庁施設、飲食店その他の多数の者が利用する施設を管理する者は、これらを利用する者について、望まない受動喫煙を防止するために必要な措置を講ずるように努めなければならない。

と規定しています。

 また、健康増進法25条の3は、

何人も、喫煙をする際、望まない受動喫煙を生じさせることがないよう周囲の状況に配慮しなければならない。
多数の者が利用する施設を管理する者は、喫煙をすることができる場所を定めようとするときは、望まない受動喫煙を生じさせることがない場所とするよう配慮しなければならない。

と喫煙をする際の配慮義務を定めています。

 更に言えば、厚生労働省は、これまでも「職場における喫煙対策のためのガイドライン」で職場に対し、

「たばこの煙が職場の空気環境に及ぼしている影響を把握するため、事務所衛生基準規則(昭和47年労働省令第43号)に準じて、職場の空気環境の測定を行い、浮遊粉じんの濃度を0.15mg/m3以下及び一酸化炭素の濃度を10ppm以下とするように必要な措置を講じること。また、喫煙室等から非喫煙場所へのたばこの煙やにおいの漏れを防止するため、非喫煙場所と喫煙室等との境界において喫煙室等へ向かう気流の風速を0.2m/s以上とするように必要な措置を講じること。」

などを求めていました。

https://www.mhlw.go.jp/houdou/2003/05/h0509-2a.html

3.受動喫煙が問題となった裁判例

 受動喫煙が問題になった裁判例は過去にもあります。

 東京地判平16.7.12労働判例878-5江戸川区(損害賠償)事件は、受動喫煙の被害を受けた江戸川区職員の方が、安全配慮義務違反を理由に慰謝料等の損害賠償を請求した事案です。

 この事件で裁判所は、

被告は、原告が再開発一係及び業務係に配属されていた当時において、公務の遂行のために設置した施設等の管理又は原告が被告若しくは上司の指示の下に遂行する公務の管理に当たり、当該施設等の状況に応じ,一定の範囲において受動喫煙の危険性から原告の生命及び健康を保護するよう配慮すべき義務を負っていたものというべきである。

と勤務先である区に職員を受動喫煙の危険性から保護すべき義務があることを認めています。

 この事件では、結論として、区に5万円の慰謝料の支払いが命じられました。

 また、横浜地裁平27.11.19LLI/DB判例秘書搭載も、結論として安全配慮義務違反を否定してはいるものの、

「平成15年10月ないし平成21年4月の時点において、被告は、受動喫煙の危険から、被告従業員の生命及び身体の安全を保護するよう配慮すべき安全配慮義務を負っていたというべきであり

と勤務先に従業員を受動喫煙の危険から保護する義務があること自体は認めています。

4.タバコの臭いに関する問題は、受動喫煙と絡めて法的に是正できる可能性がある

 タバコの臭いに関する問題は、受動喫煙に関する規制を媒介にして、是正を求めることができる場合があると思います。

 法が喫煙に対して厳しい姿勢をとるように改正されていることから、裁判所としても受忍限度を引き下げることはあっても、引き上げることはないのではないかと予想されます。

 高額な慰謝料が望める紛争類型ではないとは思いますが、それでも職場環境が改善されるのであればとお考えの方は、弁護士への事件依頼を検討してみても良いかも知れません。