弁護士 師子角允彬のブログ

一般の方に向けて、法律や判例に関する情報を提供して行きます。

「個人事業主」としてクリニックに参画した医師の労働者性

1.「個人事業主」としてクリニックに参画した医師の労働者性

 「個人事業主」としてクリニックに参画した医師の労働者性が問題になった事案が判例集に掲載されていました(東京地判平30.9.20労働経済判例速報2374-29 メディカルプロジェクト事件)。

 原告となった医師と被告となったクリニックとの間では、次のような内容の契約が交わされていました。

 

 原告が被告の運営するクリニックに関し「個人事業主」として参画するものとする。

 (勤務地)

 被告が運営する本件各院

 (報酬) 

 基本報酬月額150万円

 インセンティブとして、原告の勤務日において売上金額が日額80万円(税別)以上の場合、売上額の2%を支給

 毎月末締め、翌月25日払い、インセンティブは毎月1日から末日までんを積算して、翌月の25日の報酬支払日に含めて支給

 (勤務条件)

 月間22日

 X1(本件各院の一つ)の勤務時間 

 午前10時30分から午後7時30分

 X2(本件各院の一つ)の勤務時間

 午前10時30分から午後7時30分

 ただし、患者の予約状況により、被告の指示で勤務時間が変動する場合がある。

 (勤務開始日)

 平成25年10月1日

 (契約期間)

 5年を基本とする。

 

2.原被告間の契約に対する裁判所の評価(労働契約であることを認める)

 以上のような原告・被告間の契約について、裁判所は次のように判示し、原告の労働者性を認めました。

 「原告は、自らの危険と計算において業務を行うものというよりは、被告の危険と計算において、被告から時間的・場所的拘束を受けつつ、被告の指揮命令下において、自らの労働力を提供していたものであり、原告の受ける報酬は、かかる労務の提供に対する対価としての性格を有するということができる。したがって、本件契約は原告が被告に使用されて労働し、被告がこれに対して賃金を支払うことを内容とする雇用契約(労働契約)に当たり、原告は、労働基準法9条の『労働者』に該当すると認めるのが相当である。」

3.脱法スキームは通用しない

 クリニックを運営する被告が医師に「『個人事業主』として参画する」ことを求めたのは、労働基準法を始めとする労働者を保護するための各種法律の適用を受けないようにしようと思ったからではないかと推測されます。

 しかし、ある契約が労働契約に該当するか、ある人が労働基準法上の労働者に該当するかは、実質によって判断されるのであり、契約の表題によって判断されるわけではありません。

 厚生労働省が昭和60年12月19日付けで公表している「労働基準法研究会報告」(「労働者」の判断基準について)にも、

「『労働者性』の判断に当たっては、雇用契約、請負契約といった形式的な契約形式のいかんにかかわらず、実質的な使用従属性を、労務提供の形態や報酬の労務対償性及びこれらに関連する諸要素をも勘案して総合的に判断する必要がある場合がある」

と書かれています。

https://jsite.mhlw.go.jp/osaka-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/roudoukijun_keiyaku.html

https://jsite.mhlw.go.jp/osaka-roudoukyoku/library/osaka-roudoukyoku/H23/23kantoku/roudousyasei.pdf

4.フリーランスの医師への法的保護(労働者性を争うパターン)

 フリーランスの働き方を法的にどのように保護するかを考えるにあたっては、

① 労働者であることを主張して労働基準法等の適用を主張するパターン

② 独占禁止法や下請法などの競争法の適用を主張するパターン 

の二つの手法があります。

 本件は①の手法がとられた事案です。

 医師というと、報酬が高いことや、仕事の内容の専門性から具体的な指揮命令に服して働いているというイメージが湧きにくいかも知れません。

 裁判所も

「原告の行う業務は、医師の行うべき美容整形術の施術等の医療行為であり、その内容の専門性から、被告が個々の具体的な医療行為の内容について指示をするということはなかった」

と認定しています。

 しかし、報酬の高さや、仕事の内容の専門性から、直ちに労働者であることが否定されるわけではありません。具体的な働き方によっては、「個人事業主」として契約を結んでしまっていたとしても、労働基準法などの適用を主張できる可能性は十分にあります。

 業務委託などの形式で契約を結んでしまったものの、「法律で保護されないのは、おかしいのではないか?」という疑問が出てきたら、一度弁護士に相談してみることをお勧めします。労働基準法の適用を主張できるのとできないのとでは、働き方に大きな差があるからです。