1.私立学校教員の労働時間管理
ネット上に、
「『勤務時間管理せず』6割 私立校、働き方改革遅れ」
との記事が掲載されていました。
http://news.livedoor.com/article/detail/16454488/
記事によると、
「私立学校教員の働き方改革を巡り、公益社団法人『私学経営研究会』(大阪市)が昨年12月~今年1月、アンケートを実施した結果、回答した181校のうち6割超の115校が『勤務時間管理をしていない』と答えたことが14日、分かった。うち13校は『(時間管理を)する予定はない』としている。」
とのことです。
2.労働時間管理に関する法規制
(1)現在、労働時間を管理しないことは法的に許容されていない
労働安全衛生法66条の8の3は、
「事業者は、第六十六条の八第一項又は前条第一項の規定による面接指導を実施するため、厚生労働省令で定める方法により、労働者(次条第一項に規定する者を除く。)の労働時間の状況を把握しなければならない。」
と規定しています。
労働安全法施行規則52条7の3第1項は、
「法第六十六条の八の三の厚生労働省令で定める方法は、タイムカードによる記録、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録等の客観的な方法その他の適切な方法とする。」
と規定しています。
内容としては、要するに、高度プロフェッショナル制度の対象となる労働者を除き、使用者は労働者の労働時間をタイムカード等の客観的方法によって把握しなければならないということです。
これは近時の法改正(平三〇・七・六 法律第七一号)で規定された条文であり、今年の4月1日から施行されています(同法律附則1条)。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000148322.html
https://www.mhlw.go.jp/content/000307766.pdf
(2)従来も使用者には労働時間管理義務があるとされていた
近時の法改正で明確にされましたが、従来も使用者には労働時間管理義務はあると理解されてきました。
例えば、厚生労働省は、
「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置 に関するガイドライン」
を作成、公表しています。
その中で、
「労働基準法においては、労働時間、休日、深夜業等について規定を設けているこ
とから、使用者は、労働時間を適正に把握するなど労働時間を適切に管理する責
務を有している。」
と使用者に労働時間を管理する責務があることを明記しています。
裁量労働制が適用される労働者などはガイドラインの対象外とはされていますが、だからといって労働時間管理が疎かにならないよう、ガイドラインには、
「本ガイドラインが適用されない労働者についても、健康確保を図る必要があることから、使用者において適正な労働時間管理を行う責務があること。」
と書かれています。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/roudouzikan/070614-2.html
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000149439.pdf
3.私立学校業界の特異性
問題のアンケートは、私学経営研究会のホームページ上に掲載されているものだと思います。
http://sikeiken.or.jp/report/report.html
http://sikeiken.or.jp/report/201901_kaikaku.pdf
これを見ると確かに、
「時間管理はしておらず、今のところする予定はない」
の教員の区分が、
大・短4 中・高5 他4
となっており、合計13校の私立学校が法違反を宣言していることになります。
問題のアンケートには、
「時間外手当を支給していますか」
との質問項目もあります。
これに対しては、
大・短39 中・高2 他9
の合計50校が教員に対し、
「支給しておらず、今後も支給する予定はない」
と回答しています。
私立学校の教員の中には、労働時間を把握されることもなければ、時間外勤務手当も支払われないという過酷な労働環境で働いている方が相当数いるのではないかと思います。
しかも、181校のうち13校、約7%の学校は改正法成立後も労働時間管理を行わないことを宣言しているという状態にあります。
違法行為を宣言して平気でいられる感覚は、私には分かりません。こうしたアンケートを見ると、学校というのは随分と特殊な業界なのだなという印象を受けます。
4.残業代を払ってもらえない私立学校教職員の方へ
客観的な資料がなかったとしても、時間外労働をしていれば、残業代は発生します。
発生した残業代が幾らなのかを計算するための資料は、タイムカードに限られるわけではありません。
パソコンのログや、毎日つけている業務日報などを労働時間の認定のための資料として使える事案もあります。
また、残業代の未払に対しては、付加金といって、最大で未払額と同額の金銭の支払いを命じてもらえる仕組みもあります(労働基準法114条)。
付加金は裁判所の判断で支払いを命じることが「できる」だけであり、訴訟を提起すれば必ず支払いを命じてもらえるわけではありません。
しかし、
「被告による原告の労働時間の管理が不十分であったこと」
を
「付加金の支払を命じるのが相当である」
とする根拠として用いた裁判例もあります(東京地裁平29.9.26LLM/DB判例秘書搭載)。
法律を無視した職場で働いている方は、残業代を倍額請求できる可能性もあります。
公立学校の教職員には時間外勤務手当が支給されません(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法3条2項)。
公立学校で醸造された文化が、私立学校に悪い意味で影響しているのかも知れません。
しかし、昨今では、部活動問題から公立学校に関する特別措置法の合理性にも疑義が示されています。
残業代に関しては集団訴訟をすれば、学校側の姿勢を変えることも可能だと思います。私立学校側で労働時間に応じて適正に給与を支払うという慣行が定着すれば、それが公立学校、ひいては業界全体にいい影響を与えることに繋がってくるかも知れません。
お困りの方がおられましたら、お気軽にご相談ください。