1.就活面接での不適切な質問・男女差別
ネット上に、
「就職採用試験の面接で、恋愛観や外見などについて不適切な質問を受けたと答えた人の割合が14・5%にのぼったとする調査結果を15日、労働組合の中央組織・連合がまとめた。」
との記事が掲載されていました。
http://news.livedoor.com/article/detail/16463476/
具体的な内容としては、
「女性だから出産や育児で抜けるのだろう」(20歳女性)、
「恋人はいる?どれくらい恋人がいない?」(29歳男性)
「身長低いな」(23歳男性)
「太っているね」(21歳女性)
といったものがあるとのことです。
また、記事によると、
「『就活で男女差別を感じたことがある』と回答した割合は28・3%」で、
具体的には、
「採用予定人数が男女で異なっていた」(43・8%)、
「男女で採用職種が異なっていた」(42・4%)、
「男性のみ、または女性のみの募集だった」(39・9%)
という内容が寄せられたとのことです。
しかし、記事にはなぜこれらの問題が不適切なのか、法的根拠が全く記載されていません。本記事では所掲の問題が、どの法律のどの条文の理解との関係で問題なのかを考えて行ければと思います。
2.所掲の質問の法的問題
(1)「女性だから出産や育児で抜けるのだろう」
男女雇用機会均等法5条は、
「事業主は、労働者の募集及び採用について、その性別にかかわりなく均等な機会を与えなければならない。」
と規定しています。
これに適切に対処できるよう、厚生労働省は、
「労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針」(平成18年厚生労働省告示第614号 最終改正 平成27年厚生労働省告示458号)
という文書を作成しています。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000133471.html
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000209450.pdf
この文書の中に、
「募集又は採用に当たって、女性についてのみ、未婚者であること、子を有していないこと、自宅から通勤すること等を条件とし、又はこれらの条件を満たす者を優先すること。」
が差別の具体例として掲げられています。
「採用面接に際して、結婚の予定の有無、子供が生まれた場合の継続就労の希望の有無等一定の事項について女性に対してのみ質問すること。」
も男女雇用機会均等法5条との関係で問題があるとされています。
「女性だから出産や育児で抜けるのだろう」という質問は、男女雇用機会均等法5条との関係で違法性が認められる可能性が高いのではないかと思います。
(2)「恋人はいる? どれくらい恋人がいない?」
女性に対してのみ聞くことは、上記のとおり、男女雇用機会均等法5条との関係で問題があると思います。
また、職業安定法5条の4第1項本文は、
「労働者の募集を行う者・・・は、それぞれ、その業務に関し、求職者、募集に応じて労働者になろうとする者又は供給される労働者の個人情報・・・を収集し、保管し、又は使用するに当たつては、その業務の目的の達成に必要な範囲内で求職者等の個人情報を収集し、並びに当該収集の目的の範囲内でこれを保管し、及び使用しなければならない。」
と定めています。
この趣旨を実現するため、厚生労働省は、
「職業紹介事業者、求人者、労働者の募集を行う者、募集受託者、募集情報等提供事業を行う者、労働者供給事業者、労働者供給を受けようとする者等が均等待遇、労働条件等の明示、求職者等の個人情報の取扱い、職業紹介事業者の責務、募集内容の的確な表示、労働者の募集を行う者等の責務、労働者供給事業者の責務等に関して適切に対処するための指針(平成11年労働省告示第141号)(最終改正平成29年厚生労働省告示第232号)」
という文書を作成しています。
ここでは、
「人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項」
に係る個人情報の収集が原則として禁止されています。
https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/topics/saiyo/dl/160802-01.pdf
厚生労働省は、ホームページ上で
「公正な採用選考の基本」
という考え方を示しています。
https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/topics/saiyo/saiyo1.htm
ここで、
「生活環境・家庭環境などに関すること」
「人生観、生活信条に関すること」
のような適性と能力に関係がない事項を面接で尋ねて把握することは、就職差別につながるおそれがあると警鐘を鳴らしています。
恋人がいるのかいないのかは、生活環境や人生観・生活信条に関連しますし、応募者の適性や能力とも基本的には関係のないことかと思います。
熊本労働局も、
「彼氏(彼女)はいますか?」という質問を、
「本来自由であるプライバシーに関すること、本人の適性と能力以外のことに関する不適切な質問」
として位置づけています。
https://jsite.mhlw.go.jp/kumamoto-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/shokugyou_shoukai/jigyou07.html
何等かの特殊な事情でもない限り、面接で尋ねることには、職業安定法5条の4第1項本文との関係でも問題ありだと思います。
(3)「身長低いな」「太ってるね。」
容姿に関する情報も、
「人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項」
であり、職業安定法との関係で収集が原則禁止されている個人情報にあたります。
このことは、熊本労働局がHP上で、
「容姿、スリーサイズ等差別的評価につながる情報」
を上記事項の具体例として挙示していることからも分かります。
したがって、面接で身長や体形に触れるのも、基本的には職業安定法5条の4第1項本文との関係で問題があるのではないかと思います。
3.就職における男女差別の問題
先に指摘した
「労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針」
は、
「男女別の採用予定人数を設定し、これを明示して、募集すること。又は、設定した人数に従って採用すること。」(①)
「一定の職種(いわゆる『総合職』、『一般職』等を含む。)や一定の雇用形態(いわゆる『正社員』、『パートタイム労働者』等を含む。)について、募集又は採用の対象を男女のいずれかのみとすること。」(②)
「募集又は採用に当たって、男女のいずれかを表す職種の名称を用い(対象を男女のいずれかのみとしないことが明らかである場合を除く。)、又『男性歓迎』、『女性向きの職種』等の表示を行うこと。」(③)
なども原則として男女雇用機会均等法5条によって禁止されているとしています。
記事で指摘されている
「採用予定人数が男女で異なっていた」は①に、
「男女で採用職種が異なっていた」は②に、
「男性のみ、または女性のみの募集だった」は②ないし③に、
該当してくる可能性があります。
4.問題となる具体的な根拠条文を示すことの重要性
マスコミでの報道に限ったことではなく、ネット上の記事には、「違法」「不適切」などの表現のみで、それが具体的にどのような法律のどのような条文との関係で問題となるのかが厳密に詰められていないものが多くみられます。
しかし、どの法律のどの条文との関係で問題なのかを厳密に検討しておかなければ、問題に直面した方が、実際に声を挙げていくことは困難です。
交渉しようにも、相手方から、
「違法だとか不適切だとか言うけれども、何の根拠があるの?」
と反論された時に言葉に窮するようでは話になりません。
法的な情報は、実際に役に立つものとして提供しようとした場合、法的根拠とセットで提供でなければ、あまり意味がないのではないかと思います。
本記事が就活面接で不適切な質問を受けた人が声を挙げていくための一助になれば幸甚です。