1.服務規律違反を理由とする懲戒処分
大抵の就業規則には、服務規律が規定されています。
例えば、厚生労働省が作成、公表しているモデル就業規則には、
「労働者は、職務上の責任を自覚し、誠実に職務を遂行するとともに、会社の指示命令に従い、職務能率の向上及び職場秩序の維持に努めなければならない。」
という規定が設けられています。
この服務規律は懲戒事由と結び付けられているのが通例です。
モデル就業規則だと、懲戒事由として、
「正当な理由なく、しばしば業務上の指示・命令に従わなかったとき。」
という条項が定められています。
この「指示命令」「業務上の指示・命令」を通じて、会社はかなり広範かつ自由に懲戒事由を作り出すことができます。就業規則の懲戒事由を定めた規定に明示されていない行為でも、業務命令ないし業務上の指示として「〇〇をしてはならない」と言えば、服務規律違反/業務命令違反を理由に懲戒処分を行えるようになります。
それでは、この「〇〇をしてはならない」との業務命令ないし業務上の指示を、拡大解釈したり類推解釈したりすることにより、ある行為を非違行為として捕捉することは許容されるのでしょうか?
一般に「懲戒規程を類推解釈して適用すること」は「許されない」(水町勇一郎『詳解 労働法』〔東京大学出版会、第3版、令5〕598頁参照)と理解されていますが、業務上の指示や命令も類推、拡張することが許されないのかという問題です。
近時公刊された判例集に、この問題を考えるにあたり参考になる裁判例が掲載されていました。東京高判令7.10.8労働判例ジャーナル167-32 ジェイエムエス事件です。
2.ジェイエムエス事件
本件で被告になったのは、クレジットカード事業等に係る加盟店募集業務の代行事業を目的とする株式会社です。
原告になったのは、被告との間で期間の定めのない雇用契約を締結し、被告が提供する決済代行サービスを利用する加盟店への営業を担当していた方です。上司の言動を理由として損害賠償を請求したり、懲戒処分(減給処分、譴責処分)の無効確認を求めたり、減給分の賃金の支払等を求めたりして被告を提訴しました。
一審の裁判所は原告の請求を一部認めたのに対し、原告、被告の双方が控訴したのが本件です。
被告が減給処分の根拠としたのは、原告の「帯同営業」です。上司から「帯同営業」を禁止されていたにもかかわらず、これを行ったことが、
「従業員は会社の指示命令に従い誠実にその任務に服するとともに職場秩序の維持に努めなければならない。」
などと定める服務規律に違反しており、これへの違反が懲戒事由(義務違反)に該当するというのが被告側の理屈です。
これに対し、本件控訴審裁判所は、次のとおり述べて、減給処分の効力を否定しました。
(裁判所の判断)
「一審被告は、一審原告が令和2年5月25日から同年11月18日までの間に、店舗1から店舗13までの13件の店舗(前記第2の2(7)イ)に対して、QRコード決済事業者である夫のAを同行して営業を行ったことや、同人の扱うQRコード決済の案内や勧誘をしたことが、就業規則6条に定める服務規律に違反する『帯同営業』に当たり、これを懲戒事由とする本件減額処分は、社会通念上相当であって有効である旨主張する。」
「しかしながら、一審被告が本件減給処分の対象行為として減給処分通知書・・・に明記する『帯同営業』は,『帯同』という文言に照らせば、単に他業者のサービス内容等の情報を提供して他社の営業活動又はその支援等をすることをいうのではなく、現に他業者を同行して行う営業を意味するものと解される。このことは、一審被告が帯同営業を禁止する趣旨の一つとして挙げる営業情報の同業他社への漏洩の防止という観点からみて、他業者を同行して営業を行う場合と、営業に際して他業者のサービス等を紹介するにとどまる場合とでは、他業者との接触の有無や程度が異なり、営業情報の漏洩のおそれの程度を必ずしも同視することはできないことからも裏付けられる。また、一審被告の内部資料等・・・において帯同営業と他業者のサービスの紹介等をする行為が区別して記載されていることからすれば、一審被告も、上記両行為を異なる行為と取り扱っていたことがうかがわれる。」
「以上を踏まえて本件減給処分の対象事実についてみるに、前提事実・・・に加え、証拠・・・及び弁論の全趣旨によれば、一審被告は、本件減給処分の対象事実の一つとして、一審原告が帯同営業ないしこれと同様の行為を13件繰り返したことを前提として本件減給処分を行ったものと認められる。しかるに、一審被告が各店舗から聴取した結果を踏まえて一審原告の帯同営業について検討した資料・・・によれば、一審被告が、本件減給処分の対象とした13件の店舗に対する一審原告の営業活動のうち、他業者を同行して営業を行ったものは2件であり、上記の2件を除く11件については、おおむね一審原告が店舗への営業に際し、QR決済事業者であるA(一審原告の夫)の事業であるQRコード決済を紹介したにとどまり、一審原告が営業活動に際してAを現に同行して営業したとは認められず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。そうすると、上記13件の行為のうち、帯同営業に当たるものは2件であり、その余の11件の行為は、他業者のサービスの紹介等にとどまるものであり、勤務時間中に業務外の行為に及んだ点において服務規律に反する側面を有するとしても、営業情報の同業他社への漏洩の防止という観点から、帯同営業又はこれに準ずるものと評価すべき事情があるということはできない。そして、懲戒処分が軽い方から『譴責、減給、出勤停止、降格、諭旨退職、懲戒解雇』の6種類であり・・・、減給は、このうち軽い方から2番目ではあるものの、給与の減額という現実の経済的不利益を与えるものであり、最も軽い譴責との間に相応の差異があることを考慮し、帯同営業が13件中2件にとどまることなどの上記事情を総合すると、上記行為の一部が上司の指導後に行われたことなどの事情を踏まえても、減給によって現実の経済的不利益を課するに値する程度の悪質性を有するというべき事情があるとまでは認められない。」
「以上によれば、本件減給処分は、処分の対象事実についての認定ないし評価を誤ったものであり、一審原告のした行為に対するものとしては重きに失するものとして、懲戒権の濫用に当たり、無効というべきである。」
3.業務上の禁止命令も文言から遊離した解釈は許容されない
以上のとおり、裁判所は「帯同営業」の解釈について文言に忠実に理解しました。
懲戒事由についての類推解釈が禁止されていても、業務命令の類推解釈・拡張解釈が許容されてしまっては、あまり意味がなくなってしまいます。
裁判所の判断は、服務規律違反、業務命令違反を理由とする懲戒処分の効力を争うにあたり、実務上参考になります。