弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

研究室の明渡し-弁護士に相談した後、自力救済行為を行い、弁護士共々不法行為責任を負うとされた例

1.自力救済の禁止

 権利の存否・範囲に争いがあるにもかかわらず、法的手続の外で実力を行使して一方的に権利を実現してしまうことを「自力救済」といいます。

 自力救済は原則的には禁止されています。一定の厳格な要件のもとで例外的に許容される場合があるにすぎません。

 そのことは、最三小判昭40.12.7民集19-9-2101が、

「私力の行使は、原則として法の禁止するところであるが、法律に定める手続によつたのでは、権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情が存する場合においてのみ、その必要の限度を超えない範囲内で、例外的に許されるものと解することを妨げない。」

と判示しているとおりです。

 しかし、上述のような「特別の事情」が認められる場合は極めて限定的であり、実務的な感覚でいうと、自力救済は一切許容されないと思っておいた方が無難です。近時公刊された判例集にも、自力救済に不法行為の成立が認められた裁判例が掲載されていました。昨日もご紹介した、大阪高判令5.1.26労働経済判例速報2510-9学校法人乙ほか(損害賠償請求等)事件です。

 この裁判例は大学研究室の占有は誰のものかについて興味深い判断を示したものですが、それ以外にも、弁護士に相談したうえで自力救済行為が行われ、弁護士共々不法行為責任を負うとされている点でも特徴的な事案といえます。

 自力救済行為に弁護士が関与している場合、

弁護士の適法意見のもとで自力救済行為を行ったような場合にも、自力救済の主体に「過失」が認められるといえるのか、

適法意見を出した弁護士自身に何等かの責任が生じないのか、

が問題になります。

 学校法人乙ほか(損害賠償請求等)事件でも、この二つの論点について裁判所の考え方が示されています。

2.学校法人乙ほか(損害賠償請求等)事件

 本件で被告(被控訴人)になったのは、私立学校法に基づいて設置された中学、高校、大学を運営する学校法人、学長、事務局長、代理人弁護士の4名です。

 原告になったのは、被告大学の専任講師であった方です。平成31年3月31日付けで雇止めを通知されたことを受け、その効力を争い、被告大学に地位確認等を求める訴えを提起していました。そうした状況のもと、被告法人は、裁判外で研究室内に残置されていた原告所有の動産類を撤去し、鍵を取り替えるという措置に及びました。これに対し、研究室の占有の回復、動産類の引渡し、慰謝料を請求する訴えを提起しました。

 原審は動産類の引渡し請求と慰謝料5万円の限度で請求を認めました。これに対し、原告側が控訴したのが本件です(被告側も附帯控訴しています)。

 裁判所は、自力救済行為の違法性を認め、慰謝料額を20万円に引き上げましたが、過失論、代理人弁護士の責任について、次のような判断を示しました。

(裁判所の判断)

被控訴人Y1及び同Y2は、本件動産の撤去行為等を行うに先立ち、別件訴訟の訴訟代理人弁護士であった被控訴人Y3にその可否について相談し、適法である旨の見解が得られていたことが認められる・・・が、前記のとおり、控訴人が施錠された本件研究室内に相当量の動産を保管して同室を占有していることは容易に想定されていたのであるから、その占有が労働契約に伴い開始されたものであり、仮にその契約が控訴人の主張にかかわらず期間満了により終了したというべきであったとしても、物の所持者が明確に拒否しているにもかかわらず、その占有を奪うことが違法となり得ることは見やすい道理であり(例えば窃盗罪の保護法益は占有である。)、控訴人が加入していた本件組合や控訴人代理人弁護士らからも事前に同様の警告等を受けていたことを考えれば、被控訴人Y1及び同Y2において、弁護士である被控訴人Y3と相談の上適法であるとの見解が得られたというのみでは、過失がなかったということはできない。

「また、被控訴人Y3は、上記のとおり被控訴人Y2らから相談を受け、被控訴人法人をして本件動産の撤去行為等が適法である旨の見解を採ることに根拠付けを与え、さらに自らも被控訴人法人の代理人として自力救済の実行を予告する回答書・・・を控訴人代理人弁護士らに送信するなどして、被控訴人Y2らによる自力救済である本件動産の撤去行為等の実行を容易にして幇助したと認められる。

「そして、被控訴人Y3が、法律専門家である弁護士として被控訴人法人による違法な自力救済の実行を容易にした点につき過失があったことは、前記・・・の認定説示に照らし明らかというべきである。なお、被控訴人Y3が、被控訴人法人において本件研究室使用の必要性が高い状況にあり、自力救済も許されるとの誤った判断に至ったものであるとしても、対立する控訴人代理人弁護士らから既に自力救済の違法性を強く警告されていた状況に照らせば、少なくとも、法的手段として、いわゆる明渡断行の仮処分命令の申立て(民事保全法23条2項)が検討対象となるべきであったと考えられるが、被控訴人Y3が、被控訴人法人に対して、そのような提案をしたことがないことはもとより、検討を行ったことを窺わせる事情すらない。」

「したがって、被控訴人Y3が、弁護士として代理人の立場で関わったにとどまるとしても、同被控訴人もまた、本件動産の撤去行為等を幇助したものとして、民法719条2項に基づき、共同不法行為者とみなされ、他の被控訴人ら3名と連帯して控訴人に対する損害賠償責任を負うというべきである。

3.弁護士に相談したは免罪符にならない/自力救済を適法と回答することは危険

 自力救済に限ったことではありませんが、個人的観測の範囲において、裁判所は弁護士に相談していたとしても容易には過失を否定しない傾向にあるように思われます。

 弁護士として法律相談業務に携わっていると、適法性に疑義のあることを行うにあたり、弁護士の言質を得ようとしてくる方を目にすることがあります。しかし、責任を免れるにあたり、あまり役に立たないうえ、弁護士側を警戒させるだけなので、こうした弁護士の使い方は止めた方がいいように思います。

 また、弁護士サイドとしては、やはり自力救済にゴーサインを出すのは危険だなと思います。原告が占有補助者なのか占有者なのかは割と微妙な問題であるようにも思いますが、裁判所はかなりあっさりと弁護士の過失を認め、自力救済を幇助したものとして共同不法行為責任を認めています。

 自力救済は、原則違法・例外的に適法、といった説明のされ方が多く見られます。しかし、現実には例外的場合、つまり適法とされる場合は殆どありません。弁護士を使う側にしても、弁護士にしても、自力救済は凡そ認められないといった感覚でいた方が安全であるように思われます。