弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

公務員の飲酒運転-懲戒免職処分も退職手当全部不支給処分も適法とされた例

1.公務員の飲酒運転

 公務員の飲酒運転に対し、行政はかなり厳しい姿勢をとっています。例えば、国家公務員の場合、酒酔い運転をしたら、人を死傷させなくても免職か停職になるのが通例です。

懲戒処分の指針について

 懲戒免職処分を受けた場合、基本的に退職金(退職手当)は支払われません(国家公務員退職手当法12条1項、国家公務員退職手当法の運用方針 昭和60年4月30日 総人第 261号最終改正 令和元年9月5日閣人人第256号。地方公務員においても、大抵の地方自治体は条例等で同様の扱いを規定しています)。

 この「飲酒運転⇒懲戒免職・退職手当全部不支給」という流れが、あまりに苛烈であるためか、近時、比較的軽微な態様での飲酒運転を中心に、少なくとも退職手当の全部不支給処分まで行うのは行き過ぎではないかと考える裁判例が出現しています。

 そうした裁判例の一つとして、以前、このブログで、仙台地判令3.7.5労働判例ジャーナル115-24 宮城県・宮城県教委事件を紹介しました。

公務員の飲酒運転-懲戒免職処分は適法とされたものの、退職手当全部不支給処分は違法とされた例 - 弁護士 師子角允彬のブログ

 しかし、この事件の退職手当全部不支給処分を違法とした判示部分は、控訴審で取り消されたようです。控訴審判決が近時公刊された判例集に掲載されていました。仙台高判令3.12.14労働判例ジャーナル122-36 宮城県・県教委事件です。

2.宮城県・県教委事件

 本件で原告になったのは、宮城県立学校教員として採用され、教頭として勤務していた方です。同僚の送別会に参加して飲酒し、その後、有料駐車場に駐車していた自動車を運転したところ、入口方向に逆走してしまい、入口付近に設けられた柵に乗り上げ、遮断ポール、その他附属の機械設備及び柵を損壊しました(本件事故)。

 本件事故を理由に、懲戒免職処分、退職手当全部不支給処分を受けた原告は、行き過ぎではないかと主張し、各処分の取消を求める訴えを提起しました。

 一審裁判所は、懲戒免職処分は適法だとしましたが、退職手当全部不支給は過酷に過ぎるとして違法だと判示しました。これに対し、被告宮城県が控訴したのが本件です。

 控訴審では退職手当全部不支給処分の適否が問題になりました。裁判所は、次のとおり述べて、一審判断を破棄し、対象手当全部不支給処分は適法だと判示しました。

(裁判所のの判断)

「被控訴人は、本件運用方針を前提としても、本件事故時の被控訴人の運転は形式的にも実質的にも道路交通法上の飲酒運転に該当せず、「教職員に対する懲戒処分原案の基準」によれば、本件非違行為は停職、減給又は戒告に該当するにすぎないから、本件不支給処分は重きに失する旨主張する。」

「しかし、確かに『教職員に対する懲戒処分原案の基準』は、被控訴人が主張するとおり規定する・・・が、その周知に関する『教第871号平成24年3月30日教育長通知』が、この基準は、違法行為や全体の奉仕者としてふさわしくない非行等・・・(中略)・・・の代表的な事例を選び」とあるとおり、そこに掲げられた非違行為は例示列挙であって、これと実質的に同等といい得る非違行為につき、同等の懲戒処分を原案とすることを当然に予定していると解される。しかるところ、上記・・・のとおり、本件事故時の被控訴人の運転が道路交通法上の飲酒運転に該当しないのは、本件自動車が公道に至る前に本件事故を惹起して走行不能になった結果にすぎないし、本件駐車場内はその利用者の歩行及び自動車の走行が予定された場所であって、本件自動車の本件駐車場内での走行も公道における走行と同種の危険性を有するものであり、現に物損事故が発生したことからすると、本件事故時の被控訴人の運転を道路交通法上の飲酒運転と同等とみた県教委の判断は合理的なものとして是認することができる。

したがって、被控訴人が指摘するところは、裁量権逸脱の有無に関する上記判断を左右するものではなく、このほか、被控訴人が種々主張するところも同様である。

3.退職手当全部不支給処分を回避するのは、やはり難しい?

 上述のとおり、二審裁判所は、一審とは異なり、退職手当全部不支給処分を問題ないと判示しました。事実関係に有意な食い違いがないため、結論に差が出たのは、単純に裁判官による物事の見方の差ということができるかも知れません。

 飲酒運転に関しては、厳罰化への反動が散見されていたところですが、原則通り厳しく責任を問う裁判例も少なくないため、注意が必要です。