弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

管理監督者性と職制上の管理職概念の区別について

1.管理監督者性と職制上の管理職

 管理監督者には、労働基準法上の労働時間、休憩及び休日に関する規定の適用がありません(労働基準法41条2号)。

 昨日の記事でも述べたとおり、管理監督者に該当するといえるためには、

「①事業主の経営に関する決定に参画し、労務管理に関する指揮監督権限を認められていること、②自己の出退勤をはじめとする労働時間について裁量権を有していること、および③一般の従業員に比しその地位と権限にふさわしい賃金(基本給、手当、賞与)上の処遇を与えられていること」

が必要です(菅野和夫『労働法』〔弘文堂、第12版、令元〕491頁)。

 上述の理解からも明らかなとおり、労働基準法上の管理監督者の概念は、会社の職制上の管理職とは全く異なる概念です。例えば、職制上の管理職には該当しても、経営に関する決定に参画していない方や、出退勤に裁量を持っていない方は、少なくありません。こうした方は管理監督者に該当しない可能性が高いといえます。

 しかし、これを混同している会社は決して少なくありませんし、訴訟においても労働基準法上の管理監督者性と職制上の管理職とを混同した主張がされることがあります。昨日ご紹介した東京地判令元.12.4労働判例ジャーナル99-40 白井グループ事件も、そうした主張がなされた事案の一つです。

2.白井グループ事件

 本件は、クモ膜下出血で死亡した従業員(亡e)の遺族が原告となって、亡eの勤務先会社に対し、亡eが有していた時間外勤務手当等の支払を請求した事件です。

 被告は亡eの管理監督者性を主張するとともに、仮に管理監督者ではないとすれば、変形労働時間性が適用されるため、それを前提に時間外勤務手当が計算されるべきだと主張しました。

 その根拠になったのが、被告会社における1年単位の変形労働時間性です。被告会社は、

管理職以外の従業員を対象として、毎年8月1日を起算日とする1年単位の変形労働時間制を採用し、毎年労使協定を締結して同協定を労働基準監督署に届け出て」

いました。

 被告が用いたのは、管理監督者性が否定されるのであれば、管理職ではないのだから、変形労働時間性の対象になるというロジックです。

 しかし、裁判所は、次のとおり述べて、被告の主張を認めませんでした。

(裁判所の判断)

「被告は、亡eの管理監督者性が否定される場合には、一年単位の変形労働時間制の適用があると主張する。」
「しかし、被告が労働者代表との協定により定めた適用対象者は、被告における管理職を除く一般職であって、亡eが含まれていたとはいえないことに加え、労基法上の管理監督者と被告の職制上の管理職は別であるから、労使協定において、労基法上の管理監督者性を否定された被告の管理職を、変形労働時間制の適用対象者に含む合意をしたものとは認められない。また、明確な合意が認められないにもかかわらず、変形労働時間制の適用対象者に管理監督者性を否定された管理職を含むものと解することは、労働者に不利益な解釈を後付けで行うこととなって、変形労働時間制の適用に当たり労使協定等の締結を要件とした労基法の趣旨を没却するものであるから、不相当である。」
「したがって、亡eには1年単位の変形労働時間制は適用されない。」

3.当たり前のように思われるが・・・

 労働基準法上の管理監督者と職制上の管理職概念が別物だというのは、当たり前すぎることのようにしか聞こえないと思います。

 しかし、現実には、これを混同しているとしか思えない主張が、法律家からもなされることがあります。きちんと法概念を調べながら主張を組み立てていれば、こうしたエラーは生じるわけがないため、どうしてエラーが起きるのかは本当に不思議なのですが、個人的な実務経験の範囲内でも、こうした主張を受けたことは少なくありません。

 白井グループ事件の判示からも分かるとおり「管理職だから・・・」などといった法概念を離れた大味な議論には、乗せられないことが大切です。