弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

グループチャットにおいて、特定の部下の悪口で盛り上がることのハラスメント該当性

1.部下の悪口を言う上司

 特定の部下の悪口を、同僚に吹聴して回るタイプの上司がいます。

 比較的力のある上司だと、周囲が迎合するため、悪口を言われた人は、いじめに遭うなどの辛い思いをしがちです。

 それでは、こうした行為はパワーハラスメントに該当しないのでしょうか?

 以前、医療法人の代表者が、歯科衛生士らと特定の歯科医師の陰口をしていたことに不法行為該当性が認められた裁判例を紹介しました。

職場で行われる陰口が、労働者に対するハラスメント(不法行為)にあたるとされた例 - 弁護士 師子角允彬のブログ

 この種のハラスメントの相談を受けることは少なくないのですが、近時公刊された判例集に、これに類似する行為のハラスメントの成否が問題となった裁判例が掲載されていました。熊本地判令4.5.17労働判例1309-30、福岡高判令4.11.10労働判例1309-23 協同組合グローブ事件です。これは、昨日ご紹介した最高裁判例の原審、原々審にあたります。

2.協同組合グローブ事件

 本件で被告となったのは、

外国人の技能実習に係る管理団体となっている事業協同組合(被告Y1)、

原告の元上司(被告Y2、被告Y3)

です。

 原告になったのは、被告Y1に職員として雇用され、熊本支所に所属して外国人技能実習生の指導員として勤務していた方です。事業場外みなし労働時間制の適用を受けることを争い時間外勤務手当等を請求したり、ハラスメントを理由とする損害賠償を請求したりしたのが本件です。

 原告が問題にしたハラスメントは多岐に渡るのですが、その中の一つに、被告Y2がグループチャット上で原告の悪口を言った件がありました。

 その内容は、次のおとりです。

メッセージ一覧表1(いずれも平成30年1月26日)

①AM0:42 被告Y2「マジ日本人に付いて行くのが上手だよね」

②AM0:48 被告Y2「マジ嫌い あの人」

③AM2:57 Q1「Y3さんが言ってたけど、X1さんはY2さんには絶対にかなわないって」

④AM2:57 被告Y2「うらが一杯ありすぎる」

⑤AM7:19 被告Y2「あなたたちが、あの偉そうな人がなんで嫌いなのかなんとなく分かったよ」

⑥AM7:25 被告Y2「何でも知っているふりして自分一番みたいで本当ムカつく」

⑦AM7:31 被告Y2「なまいき」

⑧AM7:41 被告Y2「マジ頭にきたから昨日殴ってやろうかなと思ったよ」

⑨AM7:47 Q1「若い社長たちを狙ってるね」

⑩AM7:48 Q1「私たちもその人(原告の事)と一緒って思われると困るんだけど」

⑪AM7:51 被告Y2「何でK2(元Y1の人)が(X1の事)持ち帰り出来る女って言われたのが今分かった。」

⑫AM8:06 被告Y2「なんかもう見たくないんだけど この偉そうな人」

⑬AM8:08 被告Y2「喋ってるのを見てるだけでイライラする」

メッセージ一覧表2(いずれも平成30年1月26日)

①AM0:42 被告Y2「日本人に対してゴマするのが本当にうまい」

②AM0:48 被告Y2「原告に対して本当に腹が立つよ」

③AM2:57 Q1「Y2さんには絶対にかなわないってY3さんが言っていたよ」

④AM2:57 被告Y2「いっぱい謎が多すぎる」

⑤AM7:19 被告Y2「(Q1とR1に対し)なんで主役様に対して頭にきているのかやっとわかった」

⑥AM7:25 被告Y2「主役になりたくて、知ったかぶりしやがって」

⑦AM7:31 被告Y2「偉そうに」

⑧AM7:41 被告Y2「昨日本当に腹が立ったからぶん殴りたかった」

⑨AM7:47 Q1「若い社長を全員狙っている」

⑩AM7:48 Q1「みんながあの人と同じだと思われるかも」

⑪AM7:51 被告Y2「あの人をお持ち帰りできるってなぜK2が言ったのかわかった」

⑫AM8:06 被告Y2「この主人公様は見たくない感じね」

⑬AM8:08 被告Y2「またアピールしているのを見るとストレスになる」

 この一覧表1のY2の言動の不法行為該当性について、次のような判断を示しました。

(一審裁判所)

「被告Y2は、原告が被告Y1に勤務していた当時、原告の上司の地位にあった者であり・・・、原告に対し、パワーハラスメント、すなわち職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えて労働者の職場環境を害する行為を行ってはならない注意義務を負うものと解される。」

「しかるに、前記・・・の認定事実によれば、被告Y2は、原告の同僚であるQ1、R1及びS1が参加するLINEグループチャット上で、別紙「メッセージ一覧表」1ないし同2記載のとおりメッセージを送信したことが認められる・・・。そして、原告と被告らとの間で訳文に差異はあるものの、被告らの訳文に従ったとしても、被告Y2が上記LINEグループチャット上で、『日本人に対してゴマするのが本当にうまい』、『原告に対して本当に腹が立つよ』、『役になりたくて、知ったかぶりしやがって』、『偉そうに』、『この主人公様は見たくない感じね』、『またアピールしているのを見るとストレスになる』などと、原告に対する不満を述べて原告を誹謗ないし中傷したものと評価することができる。これに反し、原告を誹謗中傷したり、攻撃した事実はないとする被告らの主張は採用できない。」

「また、被告らは、このグループはメンバーが3、4名の小さなグループであり、不特定多数の者に対してメッセージを送信したものでもないし、公開、攻撃、他者への伝播を企図したものではないから、被告Y2に違法はない旨主張する。しかし、数名しかいない熊本支所におけるキャリア職員のうち、被告Y2を含む4名のキャリア職員の中のグループチャット上において、原告の上司の地位にある被告Y2が、特定のキャリア職員である原告に対する不満を述べて原告を誹謗ないし中傷をメッセージで送信する行為は、直ちにその内容が伝播するものではないとしても、優越的な関係に基づいて、業務の適正な範囲を超えて原告の就業環境を害し、ひいては原告の人格的利益を侵害するものであるため、上記注意義務に違反する不法行為に該当するというべきである。

(二審裁判所)

「1審原告は、1審被告Y2が、LINEグループチャット上で、1審原告に対する誹謗中傷を行った旨主張する。」

「確かに、前記・・・の認定事実によれば、1審被告Y2が、1審原告の同僚であるE、F及びGが参加するLINEグループチャット上で、原判決別紙「メッセージ一覧表」1及び2記載のとおりメッセージを送信したことが認められ・・・、1審原告と1審被告らとの間で訳文に差異はあるものの、1審原告の訳文によれば、その内容は、『日本人に付いて行くのが上手だよね』、『マジ嫌いあの人』、『何でも知っているふりして自分一番みたいで本当ムカつく』、『マジ頭にきたから昨日殴ってやろうかなと思ったよ』、『喋ってるのを見てるだけでイライラする』などと1審原告に対する誹謗中傷を含むものである。そして、当時、数名しかいない熊本支所におけるキャリア職員のうち、1審被告Y2を含む4名のキャリア職員によるグループチャット上で、1審原告の上司であった1審被告Y2が、上記のメッセージを送信したことは不適切な行為であったといわざるを得ない。

しかし、上記メッセージは、平成30年1月26日午前0時42分から同日午前8時8分までの間に、短文で、10回送信されたものにすぎないこと、その内容は、1審被告Y2が、日頃から抱いていた1審原告に対する不満や愚痴を述べたものであり、1審被告Y2の職場における優越的な地位を背景としたものであるとはいえないことなどの事情に鑑みると、上記メッセージの送信が、直ちに1審原告に対する違法なパワーハラスメントに該当するとまでは認められない。

3.一審と二審で結論が異なっているが・・・

 上記のとおり、一審は不法行為該当性を認めましたが、二審はこれを否定しました。

 この陰口型の行為のハラスメントないし不法行為該当性は、原告労働者側で認識できる行為の数が限定されるためか、違法とされたり、されなかったり、あまり判断が安定していません。

 とはいえ、少なくとも当然の如く適法といえる類の行為でないことは確かです。慰謝料の金額が伸びにくいことは否定できませんが、不当訴訟と言われることはないので、同種の問題に直面し、金銭の多寡の問題ではないとお考えの方は、法的措置をとってみてもいいかも知れません。

※ ハラスメントの成否に関しては上告審による判断の対象にはなっていません。