弁護士 師子角允彬のブログ

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部下の髪をいじって髪型を変えたことが、屈辱感を与え人格的利益を侵害するものとして違法と判断された例

1.髪をめぐる問題

 たかが髪と思われる方がいるかも知れませんが、髪をめぐる法的紛争は、意外とあります。

 従業員の帰社が遅れたことに腹を立て、原告の頭頂部及び前髪を刈り、落ち武者風の髪型にした上、洗車用スポンジで原告の頭部を洗髪し、最終的に原告を丸刈りにしたことがハラスメントとして問題になった事案に、福岡地裁平30.9.14労経速2367-10大島産業事件があります。

 使用者が服装や髪型などの労働者の身だしなみに干渉することが許されるのかが問題になった事案に、神戸地判平22.3.26労働判例1006-49 郵便事業(身だしなみ基準)事件があります。

 女性従業員の頭を撫でたことがセクシュアルハラスメントに該当するとされた事案に、東京地判令元.11.27労働判例ジャーナル97-28 幻冬舎メディアコンサルティング事件があります。

 中学校教諭が女子生徒の髪を切ったことが違法だと判断された事案に、甲府地判令3.11.30労働判例ジャーナル121-30 山梨市事件があります。

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 このように髪型をめぐる紛争は、定期的に公刊物にも登場しています。

 近時公刊された判例集にも、部下の髪型をいじったことが違法だと判断された事案が掲載されていました。水戸地判令5.4.14労働判例ジャーナル139-32 ゆうちょ銀行事件です。

2.ゆうちょ銀行事件

 本件で被告になったのは、ゆうちょ銀行です。

 原告になったのは、郵政省に採用され、被告設立後は被告の職員として就労していた方です。定年後再雇用を経て、提訴時には既に退職した後、在職中に上司や同僚から嫌がらせを受け続けていたとして、職場環境配慮義務違反を理由とする損害賠償を請求したのが本件です。

 原告が主張した嫌がらせは多岐に渡りますが、その中の一つに、上司から髪を弄られ、髪型を変えられたことがありました。

 この嫌がらせについて、裁判所は、次のとおり述べて、職場環境配慮義務違反を認めました。

(裁判所の判断)

「原告の日記・・・並びに原告の陳述書・・・及び本人尋問における供述中には、係長として原告の上司であったF(以下『F』という。)は、平成27年10月20日、同月28日、同月30日、同年11月10日、同月12日、同月19日、平成28年2月4日及び同月9日、職場において、原告の頭髪に整髪料をつけて、原告の髪をいじってその髪型を変えるなどして、そのまま就労させ、このことは、原告にとって不本意であったとの旨の記載並びに記載部分及び供述部分がある。」

「これに対し、Fの陳述書・・・及び証言中には、原告が日常的に髪がぼさぼさであったり、ふけがたまっていたりしていて、女性社員から原告について、ふけがあって近寄るのが嫌だなどと言われていたため、外部業務に行く際、身だしなみを整えるために、自身の整髪料をあげるか貸すかして、その使い方を教えたことはあるが、原告の髪を触ったり、整髪料をつけたりしたことはないとの記載部分及び証言部分がある。」

「しかし、真実、原告の髪や衣服などにふけが付着するなどして周囲に不快感を与える状況であったというのであれば、上司であるFとしては、まずは、原告にその旨指摘して、ふけを払うなどの措置を講じるよう促すのが自然というべきところ、Fがそうすることはせず、原告にふけの存在やこれを改善するよう指摘や指導をすることなく、ふけの除去に効果があるとは思われない整髪料を渡してその使い方を教えただけであったというのは、事の流れとして不自然、不合理である。」

「したがって、Fの上記記載部分及び証言部分は、採用できない。」

「以上によれば、Fは、多数回にわたり、原告の意に反して、その髪に整髪料をつけて直接いじって髪型を変えるなどして、職場において就労させることを繰り返していたことが認められる。」

「そして、Fの上記行為が原告に屈辱感を与え、その人格的利益を侵害するものであることは明らかというべきである。さらに、これが原告が精神的に安全な環境で執務できるその職場環境の整備に配慮すべき立場にあった原告の上司によって行われたものであり、加えて、原告の髪型の変化は、原告の他の上司においても、容易にこれを認識できたものと推認され、同上司らにおいても、Fの上記行為を制止する措置をとってしかるべきであったといえる。」

「したがって、Fの上記行為やこれを看過した周囲の上司らの行為は、被告において、原告に対する職場環境配慮義務を怠ったものと解されるものであって、被告には、職場環境配慮義務違反の債務不履行が認められる。」

3.他人の髪に触るべからず

 従業員や部下の身だしなみに関しては、一切干渉できないわけではありません。しかし、問題だと思う身だしなみは口頭で注意すれば足り、接触して物理的方法で是正しようとすることは、違法と判断される傾向があるように思います。

 いずれにせよ、職場では他人の身体に接触しないに越したことはありません。

 他方、触られた側の方は、十分な金額の慰謝料が得られるかは別として、法的措置をとること自体に違和感はありません。気になる場合には、弁護士にもとに相談に行ってみても良いのではないかと思います。