1.公法上の当事者訴訟
「公法上の当事者訴訟」という訴訟類型があります。
これは行政事件訴訟法4条に根拠のある訴訟類型で、
「当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするもの及び公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟」
をいいます。
この「公法上の当事者訴訟」の中にある主要な訴訟類型に「公法上の法律関係に関する確認の訴え」(確認訴訟)があります。
確認訴訟などの公法上の当事者訴訟は、処分性が認められない場面での活用が想定される訴訟類型です。行政事件訴訟は「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」(行政事件訴訟法3条2項)の取消の可否を扱う取消訴訟を中心に設計されています。ここで言う「処分」とは、
「行政庁の法令に基づく行為のすべてを意味するものではなく、公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によつて、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているものをいうものである」
とされています(最一小判昭9.10.29最高裁判所民事判例集18-8-1809頁)。定義を見れば明らかであるとおり、処分性が認められるのは、飽くまでも行政庁の法令に基づく行為の一部でしかありません。処分性の枠からは逸脱するものの、行政との法律関係について司法判断を仰ぎたいというニーズは確かに存在します。そうした場合に活用が期待されているのが、公法上の当事者訴訟(確認訴訟)です。
しかし、公法上の当事者訴訟(確認訴訟)に関しては、何が訴訟の対象になって何がならないのかが、それほど明確に判明しているわけではありません。
こうした状況の中、地方公務員が提起した特定の「給」と「号給」にあることの確認を求める当時者訴訟に、確認の利益を認めた裁判例が掲載されていました。東京地判令4.12.19労働判例ジャーナル134-26 東京都・東京都交通局長事件です。
2.東京都・東京都交通局長事件
本件で被告になったのは、東京都です。
原告の方は、平成5年4月に東京都職員となり、その後、地方公営企業法等に基づき設置された東京都交通局に所属していた方です。昇級の判定対象期間通に懲戒処分を受けた事実がなかったことなどを主張したうえ、特定の「給」と「号給」(3級96号)にあることの確認や(請求1)、管理職への昇任が認められなかったこと等を理由とする損害賠償(請求2)を求めたのが本件です。
地方公務員の給与は、業種毎に作成されている給料表にある「級」と「号給」で決まります。級とは「職務の複雑、困難及び責任の度に応じて区分するもの」をいいます。
「号給」とは「同一級をさらに細分化するもの」で「職務経験年数による職務の習熟を給与に反映させる」仕組みを言います。
本件では、このような確認請求に確認の利益が認められるのか否かが問題になりました。
被告東京都は、
「定期昇給は単年度ごとに評定されるものであり、次年度以降の定期昇給は、本件昇給とは異なる期間を評価対象として、それぞれ別個独立になされるのであるから、過去の法律関係である本件昇給の結果について争うことが、将来の昇給に関する紛争を予防する関係に立たず、その他原告がかかる確認を求める法律上の利益を有することもない」
として、訴えは却下されるべきだと主張しました。
しかし、裁判所は、次のとおり述べて、確認の利益を認め、原告が提起した訴えを適法なものとして扱いました(ただし、請求は棄却されています)。
(裁判所の判断)
「被告は、定期昇給が単年度ごとに評定され、年度ごとに別個独立になされるから、過去の法律関係である本件昇給の結果について争うことが将来の昇給に関する紛争を予防する関係にない旨主張するところ、確かに、本件昇給基準によれば、定期昇給は単年度ごとの判定期間における評定等に基づいて実施され、年度ごとに別個独立になされるものであることが認められる・・・。」
「しかし、原告の給与については、本件昇給によって決定された給与の号給数に次年度以降の定期評定等に基づき決定された号給数が加算されていくことになることから、本件昇給による原告の地位を確認することは、原告・被告間の将来の紛争を予防するために有効かつ適切なものといえる。」
「また、原告は、公益的法人等への東京都職員の派遣等に関する条例に基づいて、東京都を退職し東京トラフィック開発において勤務しているものの・・・、その退職派遣期間中の原告の給与・手当、昇給及び昇格等の取扱いに照らせば、本件昇給によって決定された給与の号給数について確認する利益も否定されない。」
「よって、請求1に係る訴えには確認の利益が認められるというべきであるから、争点〔1〕(請求1に係る訴えに確認の利益がなく、同訴えが却下されるべきか)に関する被告の主張は理由がない。」
3.確認を求めること自体は可能
実体的勝訴要件の問題は措くとして、裁判所は、公務員が特定の「級」と「号給」にあることの確認を求める訴えの適法性を認めました。
公法上の当事者訴訟(確認訴訟)の可能性を拡大するものとして注目されます。