弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

確認訴訟(公法上の当事者訴訟)の活用方法-昇給幅が不十分であることに違法性は問えるのか?

1.特定の「給」と「号給」にあることの確認請求-昇給幅の不十分さをどう争う?

 地方公務員の給与は、業種毎に作成されている給料表にある「級」と「号給」で決まります。級とは「職務の複雑、困難及び責任の度に応じて区分するもの」をいいます。

「号給」とは「同一級をさらに細分化するもの」で「職務経験年数による職務の習熟を給与に反映させる」仕組みを言います。

地方公務員の給与の体系と給与決定の仕組み

 この「級」と「号給」について、不本意な評価をされた方が、適正に評価されていれば位置付けられたであろう「級」と「号給」にあることを、裁判で主張して行くことはできないのでしょうか?

 降級・降給のような不利益を科する場合であれば、比較的問題はありません。

 しかし、昇級幅が少ないといった場合には、利益方向での扱いであるため「利益の幅が少ない」と争うことが可能なのかという疑問が生じます。

 昨日、これを確認訴訟(公法上の当事者訴訟 行政事件訴訟法4条)という手続で争うことを認めた裁判例をご紹介しました。東京地判令4.12.19労働判例ジャーナル134-26 東京都・東京都交通局長事件です。

 この裁判例は、訴えの利益を認めた後、どのような場合に行政庁の判断が違法になるのかを示している点でも参考になります。

2.東京都・東京都交通局事件

 本件で被告になったのは、東京都です。

 原告の方は、平成5年4月に東京都職員となり、その後、地方公営企業法等に基づき設置された東京都交通局に所属していた方です。昇級の判定対象期間通に懲戒処分を受けた事実がなかったことなどを主張したうえ、特定の「給」と「号給」(3級96号)にあることの確認や(請求1)、管理職への昇任が認められなかったこと等を理由とする損害賠償(請求2)を求めたのが本件です。原告の主張の論旨は、

令和2年4月1日付けで行われた3級92号から3級95号への昇級(本件昇級)は違法である、

自分は3級92号ではなく3級96号の給料の支払いを受ける地位にある、

という点に特徴があります。

 裁判所は、訴えの利益を認めたうえ、次のとおり述べて、確認請求を棄却しました。

(裁判所の判断)

本件給料等規程によれば、東京都交通局の職員の昇給は、交通局長の定める日に、交通局長の定める期間におけるその者の勤務成績に応じて、行い、又は行わないものとされており・・・、職員の昇給の有無及びその内容は交通局長の裁量に任されていると解されるから、交通局長の裁量権の行使に基づく昇給が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り、当該昇給が違法となると解すべきである。

「そこで、本件昇給についてみると、平成31年度の業績・能力総合評価において原告が属する職層(統括課長代理のうち管理職選考委員会受験対象外の区分)に属する職員は原告を含めて7名おり、交通局長は、業績・能力総合評価において、当該7名を相対評価し、評語5に1名、評語4に1名、評語3に3名、評語2に原告を含む2名と評価し、業績・能力総合評価が1又は2の者のうち1名を『下位〈1〉』に決定する必要があることから、業務内容、上長としての適格性等を比較検討し、より評価が低いと考えられた原告を『下位〈1〉』と決定し、本件昇給基準に従って、3号給の昇給に決定したものと認めることができる・・・。原告には、判定対象期間中の懲戒処分歴がなく、48日以上の欠勤がなく、これまでに表彰を受けたことがあったとしても、それらの事実をもって、本件昇給が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したものであったとは直ちに認められないし、その他に、本件昇給が裁量権を濫用したものであることを認めるに足りる証拠はない。」

「よって、本件昇給は違法とは認められないから、争点〔2〕(本件昇給が違法であり、原告が本件給料表3級96号の給料の支払を受ける地位にあるか)に関する原告の主張は理由がない。」

3.「級」や「号給」に関する昇級判断も違法にならないわけではない

 上述のとおり、裁判所は、昇級という利益方向への勤務条件の変更であったとしても、違法になる場合があることを認めました。

 昇級の判断に違法性が認められる場面は、現実には極めて限定的ではないかと思われます。しかし、違法になる余地自体が認められたことには、大きな意義があります。