弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

在宅勤務をめぐる諸問題-勤務時間終了前に野球場から業務終了報告を行ったことを理由とする解雇が無効とされた例

1.在宅勤務をめぐる諸問題

 新型コロナウイルスの流行以降、在宅勤務を推進・許容する企業が急増しました。

 これにより、従来意識されてこなかった労働問題が、多発しています。

 このような状況の中、近時公刊された判例集に、在宅勤務とされていたにもかかわらず勤務時間終了前に自宅を出て野球場から業務終了報告を行った労働者に対する解雇の可否が争われた裁判例が掲載されていました。昨日もご紹介させて頂いた、東京地判令4.11.4労働判例ジャーナル136-56 日本レジャーチャンネル事件です。

2.日本レジャーチャンネル事件

本件で被告になったのは、ボートレースの中央団体が株主となり、モーターボートレースの円滑な実施を図るための情報提供サービス業等を目的とする株式会社です。ボートレースの映像や情報を制作し、配信、放送することを主要な業務としていました。

 原告になったのは、被告との間で期間の定めのない労働契約を締結し、ボートレース業務推進部専任部長として、コールセンターで勤務していた方です。

業務と関係のないウェブサイトを長時間閲覧した件(理由1)

勤務成績・勤務態度・業務能率当が著しく不良であった件(理由2)

在宅勤務時の退出打刻を自宅以外で行った件(理由3)

を理由に令和3年3月31日付けで普通解雇されたことを受け、その無効を主張し、労働契約上の権利を有する地位の確認等を求める訴えを提起しました。

 本件の裁判所は、理由3について、次のとおり述べて、解雇事由への該当性を否定しました。なお、結論としても、原告の地位確認請求を認容しています。

(裁判所の判断)

原告は、在宅勤務をしていたにもかかわらず、勤務終了時間より前に東京都葛飾区内の自宅を出て、令和2年8月26日には神宮球場から、同年9月23日には西武ドーム球場から業務終了報告を行ったものと認めることができる・・・。そして、原告は、被告に対し、当該事実を隠蔽し、虚偽の弁解を行っていたものと認めることができる・・・。

「以上によると、原告は、勤務時間中に業務を懈怠したものとして、

就業規則40条(1)『勤務成績又は業務能率が著しく不良で必要な労務提供ができず、従業員として相応しくないと認められたとき』に該当するほか、出退勤の手続を遵守しなかったものとして、

7条(8)『業務外の理由での会社の施設、設備等の使用又は持ち出し』

及び

(10)『勤務時間中の私用外出』に違反するものであり、

59条(1)『服務又は職務に関する虚偽の手続き、その他の届出』

及び

(8)『就業規則、諸規程及び会社の通達、細則、指示の不遵守』

に当たるものということができる。」

「しかしながら、被告は、ボートレース業務推進部専任部長という上位管理職にあることから、原告の休憩時間の取得は原告の裁量に委ねていたところがあり・・・、在宅勤務中の従業員が具体的にどのような作業を行うかについて定めた規則等も存在していなかった・・・。そして、原告が在宅勤務について虚偽の業務終了報告を行ったのは上記2日間のみであり、これまでに原告が在宅勤務の在り方について注意指導を受けた経緯もなかったことに照らすと、初度目の違反といわざるを得ず、

就業規則61条(1)『第59条各号の再々度にわたる行為又は前条第2号以下の再度に及ぶ行為』に当たらず、

40条(5)『第61条に定める懲戒解雇事由に該当したとき』に該当するということはできない。」

2.虚偽の弁解まで認定されているが・・・

 本件は故意的な非違行為であるほか、虚偽の弁解を行ったことまでが認定されています。情状としてはかなり悪いはずですが、それでも、裁判所は、解雇事由には該当しないと判断しました。

 就業規則の解雇事由がかなり限定的に規定されていたほか、上位管理職としての地位、在宅勤務に関する規定の不存在、虚偽報告の回数、事前の注意指導の欠如などが影響したようです。

 公刊物に掲載されている例は未だ少ないですが、在宅勤務中に終業を切り上げたり、事実に反する勤怠を報告したりして問題になる事案は、今後、少しずつ増えて行くのではないかと思います。

 先例性の少ない問題に対する判断として、本裁判例は参考になります。