弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

業務と関係のないウェブサイトの閲覧を理由とする解雇の可否(解雇無効)

1.業務と無関係なウェブサイトの閲覧

 程度の差こそあれ、会社の備品であるパソコンや、会社から貸与されたパソコンを利用して、就業時間中に、仕事と無関係なウェブサイトを閲覧したことのある方は、少なくないのではないかと思います。関係性が良好である限り、会社の側も、短時間の閲覧にまでは一々目くじらを立てないのが普通です。

 しかし、一度関係が悪化して職場からの排除に動いた時、会社が当該従業員のパソコンの閲覧履歴をチェックし、仕事と関係ないインターネットの利用履歴を、職務怠慢や勤務態度不良の徴表として利用してくる例は、実務上しばしば目にします。

 それでは、こうしたウェブサイトの閲覧、インターネット利用の事実を理由に、従業員を解雇することは許されるのでしょうか?

 一概に言える問題ではありませんが、これを否定した例が、近時公刊された判例集に掲載されていました。東京地判令4.11.4労働判例ジャーナル136-56 日本レジャーチャンネル事件です。

2.日本レジャーチャンネル事件

 本件で被告になったのは、ボートレースの中央団体が株主となり、モーターボートレースの円滑な実施を図るための情報提供サービス業等を目的とする株式会社です。ボートレースの映像や情報を制作し、配信、放送することを主要な業務としていました。

 原告になったのは、被告との間で期間の定めのない労働契約を締結し、ボートレース業務推進部専任部長として、コールセンターで勤務していた方です。

業務と関係のないウェブサイトを長時間閲覧した件(理由1)

勤務成績・勤務態度・業務能率当が著しく不良であった件(理由2)

在宅勤務時の退出打刻を自宅以外で行った件(理由3)

を理由に令和3年3月31日付けで普通解雇されたことを受け、その無効を主張し、労働契約上の権利を有する地位の確認等を求める訴えを提起しました。

 本件の裁判所は、理由1について、次のとおり述べて、解雇事由への該当性を否定しました。なお、結論としても、原告の地位確認請求を認容しています。

(裁判所の判断)

「原告は、遅くとも平成27年以降、業務時間中、CS監視用モニターで野球中継、大リーグの野球中継、ワイドショー番組を映して視聴し、令和元年9月にも、業務用パソコンを用いて、個人的な趣味であるゴルフ、テレビドラマ等のウェブサイトを閲覧していたことがあり・・・、さらに、令和2年4月以降、長時間・高頻度で業務用パソコンを用いて、個人的な趣味であるゴルフ、将棋、野球等のウェブサイトを閲覧していたものと認めることができる・・・。このように、原告は、勤務日には、長時間・高頻度で業務と関係のない野球、将棋、ゴルフ等のウェブサイト閲覧を行い、ほとんど1日中、業務とは関係ない個人的な趣味のウェブサイト閲覧に時間を費やしたものといわざるを得ない。」

「なお、原告は、被告に対し、上記ウェブサイト閲覧について、『業務に全て必要なものと考えて利用させていただいております』、『業務の一環として実施しております』等と弁解するが・・・、原告は秋葉原コールセンターにおける電話対応業務に必要なIDも発行されていなかったのであるから・・・、原告が直接に電話対応することはなかったものといわざるを得ず、上記弁解は不合理である。」

「以上によると、原告は、

就業規則7条(8)『業務外の理由での会社の施設、設備等の使用又は持ち出し』、

10条(1)『コンピュータ及び周辺機器を業務外の目的で使用しないこと』

及び

(2)『私的に社内電子メールやインターネットを利用しないこと』

に反し、

59条(8)『就業規則、諸規程及び会社の通達、細則、指示の不遵守』に該当することは否定することができない。」

しかしながら、本件全証拠を精査しても、被告が原告に対して、CS監視用モニターで野球中継等を視聴することを禁じ、業務とは関係ない個人的な趣味のウェブサイト閲覧について注意・指導してきた経緯を認めるには足りない。

「この点、cは、平成25年8月頃にeから、平成27年頃にfから、同年11月頃、平成28年2月頃、同年5月頃、平成29年5月頃、平成31年2月頃及び令和元年5月頃にcから、それぞれ原告に対して業務と関係のない番組視聴やウェブサイト閲覧をしないように注意したと供述する・・・。しかしながら、cの供述によれば、8回にもわたり注意指導をしたにもかかわらず、社風を理由として1度も書面等をもって注意指導した経緯はなく、戒告等の人事上の措置も講じたことがないというのであって・・・、結局、被告が原告の問題行動について具体的にどのような注意指導を行ったか明らかではなく、上記注意指導の経緯を認めることはできない(なお、原告は、被告の指示に応じて令和2年4月17日付け始末書を提出しており・・・、被告において書面等による指導等を行わない社風があったとの前提事実も認めることができない。)。」

「また、被告は、原告のウェブサイト閲覧等の怠業により、コールセンターの業務の遅滞、コールセンターの統合化推進計画の策定業務の遅延を生じ、数千万円に達する損害が生じた旨を主張するが、本件全証拠を精査しても、通信料金等の費用が生じた可能性は否定できないものの、具体的に数千万円に及ぶような損害が発生したものと認めることができない。

以上によると、原告の上記ウェブサイト閲覧については、従前の指導注意に関わらず同様の行為を繰り返したとまではいい難く、また被告における秩序を乱し、重大な事故を発生させたり、著しく業務運営を妨害したりしたとまではいえないから、就業規則61条(1)『再々度にわたる行為』、『再度に及ぶ行為』に該当せず、同条(3)『会社の秩序を乱したり、又は重大な事故を起こしたりする行為』又は(4)『著しく業務運営を妨げる行為』にも該当し難く、40条(5)『第61条に定める懲戒解雇事由に該当したとき』に当たるものと解することはできない。

3.就業規則の規定が解雇のハードルを高めていたきらいはあるが・・・

 本件で被告が普通解雇を行うにあたり引用した就業規則の根拠条文は、40条(1)と40条(5)です。

 そして、被告の就業規則40条は、次のような規定でした。

第40条 従業員は、次の各号の一に該当するときは解雇されることがある。

(1)勤務成績又は業務能率が著しく不良で必要な労務提供ができず、従業員として相応しくないと認められたとき

(5)第61条に定める懲戒解雇事由に該当したとき

 理由1との関係で被告が主張したのは、40条(5)です。

 そして、被告の就業規則の61条は、次のような規定でした。

第61条 次の各号の一に該当する行為、又は事実があったときは、解雇とする。ただし、特に情状酌量の余地があるか、若しくは改悛の情が明らかに認められるときは、軽減することがある。

(1)第59条各号(戒告事由 括弧内筆者)の再々度にわたる行為又は前条(減給、停職事由 括弧内筆者)第2号以下の再度に及ぶ行為、又はその情状が悪質と認められる行為

(3)本規則及び会社の諸規程、通達、細則、指示を守らず会社の秩序を乱したり、又は重大な事故を起こしたりする行為

(4)会社の指示、命令に従わず、著しく業務運営を妨げる行為

 要するに、普通解雇であるのに、解雇事由の認定のハードルが懲戒解雇事由並に跳ね上がっており、かつ、懲戒解雇事由もかなり厳格に定義されていた(戒告事由では非違行為が再々度に渡っていなければ懲戒解雇の土俵にすら乗らない、減給・停職事由も再度に渡っていなければ懲戒解雇の土俵にすら乗らない)という事案であり、就業規則が極端に解雇しにくい建付けになっていました。

 本件で解雇が無効とされた背景には、こうした特殊な就業規則の建付けがあった可能性は否定できません。

 それでも、ウェブサイトの閲覧が問題視されて解雇事由に追加された場合の防御の仕方として、裁判所の判示は参考になります。特に、口頭で指導をしたという被告の主張を排斥している下りは汎用性が高く、他の事件でも活かせるように思います。