弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

追い出し部屋(他の社員との接触禁止・常時カメラで撮影された事実上の個室)への配転が無効とされた例

1.追い出し部屋への配転

 従業員に退職を促すことを目的として設けられたとみられる部署を称して「追い出し部屋」と言われることがあります。社会問題化すると共に、あまりにあからさまな事案は減ってきつつあるように思われますが、それでも、他の社員との接触を禁止したうえ、常時行動をカメラで監視するといった部署への配転の適否が問題になることは少なくありません。

 近時公刊された判例集にも、そうした配転の効力が問題になった裁判例が掲載されていました。昨日もご紹介させて頂いた、千葉地判令3.9.8労働判例ジャーナル118-60 シェフォーレ(森永乳業)事件です。以前、

追い出し部屋への配転の慰謝料 - 弁護士 師子角允彬のブログ

という記事の中で追い出し部屋への配転を理由とする慰謝料請求の可否・慰謝料額が問題になった裁判例(札幌地判令3.7.16医療法人社団弘恵会(配転)事件)を紹介させて頂きましたが、今回の記事では配転の可否に関する判示部分を紹介したいと思います。

2.シフォーレ(森永乳業)事件

 本件で被告になったのは、菓子の製造、加工等を主な業とする株式会社(被告シェフォーレ社)とその代表取締役(被告P3)、被告シェフォーレの親会社(被告森永乳業者)です。

 原告になったのは、被告シェフォーレ社の従業員2名です(原告P1、原告P2)。原告らは、いずれも、被告シェフォーレ社から降職(懲戒処分)、配置転換(人事異動)を受けました。

 追い出し部屋への配転の効力を考えるうえで問題になったのは、原告P1への異動です。原告P1は、被告P3が被告シフォーレの従業員に対して罵詈雑言を言ったり叱責したりしていることなどを記載した文書を、被告森永乳業が設けている内部通報制度の社外相談窓口に送付しました。

 その後、原告P1は、工場部門の副工場長から品質管理部のSMG(シニアマネージャー)に降職され、更にその約半年後には、新設された工場長付部門へのSMGへ異動となり(P1異動1)、執務場所が品質管理室から第2事務所へと変更されました。

 本件では、この異動が内部通報を行ったことに対する報復として無効になるのではないかが争われました。

 この論点について、裁判所は、次のとおり述べて、P1異動の効力を否定しました。

(裁判所の判断)

「被告シェフォーレ社は、P22異動1について、HACCP認証業務及びISO14001認証業務が重要な業務であったことから、原告P1に品質管理部での経験を生かしてこれらの業務に就いて工場長を補佐してもらう必要があったために行ったもので、不当な目的で行ったものではなく、産廃処理や草刈り等の業務は、原告P1以外のSMGも行っていたものであるなどと主張し、証拠・・・中にはこれに沿う部分がある。」

「しかし、原告P1が行っていたHACCP認証業務及びISO14001認証業務は、比較的短時間で終了する単純な作業であったため、原告P1は、勤務時間中に他の雑多な業務を行ったり、緊急性の乏しいインターネット研修を受講したりしていたこと・・・、原告P1は、第2事務所で他の従業員と離れて就労していたもので、工場長と打合せ等で連絡を取ったり、重要な会議に参加したりした様子は窺われず、かえって、他の管理職以外の従業員との接触が原則的に禁止されていたこと・・・などからすると、原告P1が実際に行っていた業務が、被告シェフォーレ社にとって重要なもので、SMGである原告P1に従事させなければならないほどの業務上の必要性があったとまでは認められない。

「他方で、本件通報1の後、原告P2を始め本件通報1の文書に名前が記載されていた主な従業員の降格や異動が相次いでおり・・・、その内、P1処分1の前に行われたP2異動は後述のとおり無効であること、4月の経営会議では本件通報1に中心的に関与した原告P1、原告P2及びP25の人事異動が一緒に検討され、その後、P1処分1のみが実施されたこと・・・、7月の経営会議では、原告P2の降格が検討される中で、『不良社員は排除したい』などの発言が取締役から出ていたこと・・・からすると、被告シェフォーレ社は、本件通報1に中心的に関与した従業員に対し、一連の不利益取扱いを行っていたことが相当程度推認される。」

「加えて、P1異動1直前の12月の経営会議では、異動後の原告P1に対する業務上の制約について検討がされており、原告P1は、P1異動1の後、常時カメラで撮影された事実上の個室での作業及び管理職以外の社員との接触の基本的な禁止等を命じられるなど、上記検討に沿う形の業務上の制約を受けたこと・・・、平成29年4月以降は、産廃処理や草刈りが原告P1の業務の相当割合を占めるようになっているところ、同様の働き方をした管理職は過去にも例がないこと・・・に照らせば、P1異動1によって原告P1が事実上被った不利益の程度は大きいものであったと認められる。

これらの事情を踏まえると、P1異動1は、業務上の必要に基づくものとはいえず、本件通報1に対する制裁あるいは原告P1を退職に追い込もうとするなどの不当な目的で行われたものと推認され、権利濫用として無効である。

「なお、被告シェフォーレ社は、原告P1に第2事務所での執務を命じたのは、第1事務所が手狭になったためであり、第2事務所にカメラを設置したのは、フードテロ、個人情報保護及び機密情報管理等の対策のためであって原告P1を監視していたわけではないなどと主張する。しかし、仮に被告シェフォーレ社が主張するような理由があったとしても、客観的状況として、原告P1を常時カメラで撮影された事実上の個室で勤務させたことは事実であり、同様の取扱いをされている従業員は他にいないのであるから、それ自体が原告P1に相応の負担を強いるものというほかない。被告シェフォーレ社の主張を踏まえても、上記判断は左右されない。」

3.慰謝料だけではなく、配転命令の効力そのものも争うことが可能

 追い出し部屋絡みの事件では、嫌気がさして退職してしまい、その後、慰謝料請求のみを行うというケースも少なくありません。しかし、在職したまま、配転の効力を争うことも可能です。

 本件のように他の社員との接触禁止・場所的離隔・カメラでの常時監視といった要素がある場合、配転は違法となりやすい傾向があるように思われます。こうした配転にお悩みの方は、一度、弁護士に相談してみるとよいかも知れません。もちろん、当事務所でもご相談をお受けすることは可能です。