弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

完全歩合制の労働者について、出勤日の減少を伴う異動が違法とされた例

1.出勤日を減らされる問題

 大学教員などの特殊な業種を除き、労働者の就労請求権を一般的に肯定することは困難であるとされています(水町勇一郎『詳解 労働法』〔東京大学出版会、初版、令元249頁参照)。

 そのため、シフト制の労働者や、完全歩合制の労働者は、出勤日を減らされても、使用者に対して不服を述べることが難しい関係にありました。

 こうした状況の中、シフトの大幅な削減に対し、シフト決定権限の濫用を認めた裁判例が現れ、実務法曹の注目を集めたことを、以前、ご紹介させて頂きました。

シフト制労働者-シフトに入れろと要求できるか? - 弁護士 師子角允彬のブログ

 本日は、完全歩合制の労働者との関係で、出勤日の減少を伴う異動が違法とされた裁判例をご紹介させて頂きます。昨日もご紹介させて頂いた、東京地判令3.8.3労働経済判例速報2468ー22 エコシステム事件です。

2.エコシステム事件

 本件で被告になったのは、一般乗客旅客自動車運送事業等を業とする株式会社です。

 原告になったのは、被告との間で雇用契約を締結し、完全歩合給制のタクシー乗務員として勤務していた方です。

 元々、原告の方は、

所定労働時間 午前7時から午後6時まで

休日     4週間に5日

の定常日勤昼勤務という勤務形態で働いていました。

 しかし、傷病による休業の後、被告から、

所定勤務日数 15日以下

とする定時制昼勤務を命じる配転命令を受けました。

 本件では、この配転命令(本件配転命令)の効力が争点の一つになりましたが、裁判所は、次のとおり述べて、本件配転命令の効力を否定しました。

(裁判所の判断)

「被告は、本件辞令(甲12)により本件配転命令を発したと主張する。」

「しかし、本件配転命令は、『□営業所定時制昼勤務(所定勤務日数:15日以下)を命ずる』というものであるところ、本件辞令上、『定時制昼勤務』がいかなる勤務形態を指すものであるかについて(所定勤務日数が15日以下であること以外に)何ら記載がなく、被告の就業規則(乙1)上も、『定時制昼勤務』又は『定時制勤務』についての規定は存在しない。被告は、被告の賃金規程に定時制乗務社員に関する規定が存在する旨を主張するが、本件配転命令当時の賃金規程(乙10)においては、『定時制の乙【編註:社員】に対しては、出番日数に応じて税抜営収を計算し、不利にならないようにする』との定め(14条6項リスト表の注3)があるのみで、当該従業員の勤務形態(所定勤務日、所定労働時間等)や給与体系は何ら明らかでない。」

「そうすると、本件配転命令は、そもそも意思表示としての特定を欠くものというほかなく、その効力を肯認することはできない。」

また、この点を措いても、本件配転命令は、原告の所定勤務日数(ひいては賃金)を大幅に削減するものと認められ、労働者が通常甘受すべき程度を著しく越える不利益を負わせるものであって、使用者の権利を濫用するものというべきである。

これに対し、被告は、定時制勤務は乗務員の勤務実績や売上金額によって不条理に支給額が減らないよう配慮されている旨を主張するが、原告と事前の協議も行うことなく一方的に労働条件を大幅に変更することを正当化する事情とはいえない。また、被告は、就業規則上、欠勤が続くと自然退職となるところを、原告の傷病が業務によるものであることを考慮して定時制へ配置転換した旨を主張するが、被告の就業規則(乙1)上、退職の原因となる休職の事由(50条2項、46条各号)として、業務に起因する欠勤を挙げていない上、そもそも業務に起因する休業中に退職扱いとすること(自動退職)は許されないと解される(労働基準法19条の類推適用)から、被告の当該主張は失当である。」

「以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、本件配転命令が効力を有するとはいえない。」

3.出勤日25~26日⇒15日以下は不利益が大きすぎ

 本件は、出勤日25~26日(休日4週間に5日)の労働者について、所定勤務日数を15日以下にしたことが、違法無効だと判示されました。

 最二小判昭61.7.14労働判例477-6 東亜ペイント事件は、

「労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき」

を配転命令権の濫用類型の一つとして位置付けています。

 これは基準として不明確なきらいがあるのですが、本件は勤務日数が具合的にどれだけ減らされれば、裁判所で、

「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる」

と判断されるのかを推知する意味でも参考になります。