弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

降格の効力をめぐる争い-課長の地位の確認請求が適法だとされた例

1.特定の職位・役職にあることの確認請求

 解雇された場合に、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めることは一般に認められています。

 しかし、降格の効力を争うにあたり、課長、主任など、特定の職位に在職していることの確認を求める訴えは、原則として不適法却下されると解されています。これは、就労請求権がないことや、過去の法律関係(降格時点に遡及して特定の職位・役職にあったこと)には確認の利益が認められないことが関係しています。

 例えば、東京地判平18.2.27労働判例914-32 住友スリーエム(職務格付)事件は、遡及して主任格の地位を有することの確認を求める訴えについて、過去の法律関係の確認を求める訴えであることや、差額賞与の支払請求が認められれば敢えて確認を求める必要がないことを理由に、不適法却下しています。

 こうした状況の中、近時公刊された判例集に、課長としての労働契約上の地位の確認請求を認めた裁判例が掲載されていました。広島地判令3.8.30労働判例ジャーナル118-38 広島精研工業事件です。

2.広島精研工業事件

 本件で被告になったのは、自動車部品のプレス加工、溶接加工、塗装、組立、射出形成等を事業内容とする株式会社です。

 原告になったのは、被告との間で期間の定めのない労働契約を締結していた方です。平成22年1月1日付けで行われた課長職(製造3課長)から平社員への降格の効力を争い、支給されなくなった役付手当(月額6万円)の支払いなどを求めて提訴したのが本件です。

 本件では、給付請求に加え、

「製造3課長としての労働契約上の地位を有すること」

の確認が請求の趣旨に掲げられました。

 この請求の適法性について、裁判所は、次のとおり述べてこれを認め、

「課長としての労働契約上の地位を有することを確認する」

との判決を言い渡しました。

(裁判所の判断)

「被告の就業規則においては、その役職又は職位により支給される役付手当の金額が定まっている・・・ほか、出張における日当等の金額に関し管理職と一般社員では異なる区分とされている(国内出張旅費規程5条、海外出張旅費規程6条・・・)など、いかなる役職又は職位にあるかにより異なる待遇が与えられることとなっている。そして、原告と被告との間では、このような役職又は職位に付随する待遇全般をめぐり争いが生じているということができるから、原告が課長としての地位を有することを判決により確認することは、当事者間の法律上の紛争を解決するために必要かつ適切であるということができ、上記訴えは、確認の利益があるものとして適法である。」

(中略)

「原告は、被告における製造3課長の地位にあることの確認を求めているが、原告が、被告に対し、製造3課という具体的な部署での就労を求める権利まで有しているということはできないから、製造3課長の地位の確認請求には理由がない。もっとも、原告の請求は、所属する部署を問わず、被告における役職又は職位として課長の地位にあることの確認を求める趣旨を含むものと解されるところ、前記2のとおり、本件降格は無効であるから、原告は、従前の役職又は職位、すなわち課長の地位にあるということができ、その確認を求める限度で、原告の請求には理由があるというべきである。」

3.地位確認請求も、必ずしも不適法とされるわけではない

 上述のとおり、裁判所は、製造3課長の地位にあることの確認は否定したものの、課長の地位にあることの確認は認めました。

 降格というと差額賃金請求と固定的に考えがちですが、本件のように地位確認請求に訴えの利益を認めた裁判例があることも意識しておく必要があります。