弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

懲戒解雇された私立学校教員は、どうやって教育職員免許状(教員免許)の取上げ処分の効力を争えば良いのか?

1.私立学校教員の懲戒解雇と教員免許の取上げ処分

 私立学校の教員の方は、雇い主である学校法人から懲戒解雇されると、自動的に教員免許を取上げられます。

 このように言うと驚く方も少なくないのですが、法律の組み方はそうなっています。

 先ず、教育職員免許法11条1項が、

「国立学校、公立学校(公立大学法人が設置するものに限る。次項第一号において同じ。)又は私立学校の教員が、前条第一項第二号に規定する者の場合における懲戒免職の事由に相当する事由により解雇されたと認められるときは、免許管理者は、その免許状を取り上げなければならない。

と規定しています。

 ここで言う「前条第一号第二号に規定する者」として、教育職員免許法10条1項2号は、

公立学校の教員であつて懲戒免職の処分を受けたとき

を掲げています。

 したがって、

私立学校の教員は、

公立学校の教員であったとしたら、懲戒免職になってしまうような事由で解雇されてしまうと、

免許管理者(都道府県教育委員会 教育職員免許法2条2項)から教育職員免許状(教員免許)を取り上げられてしまうことになります。

 教育委員会が教育職員免許状を取り上げるにあたっては、

聴聞

という手続を行う必要があります(教育職員免許法12条、行政手続法)。

 しかし、教育委員会は、

解雇理由に相当する事実が存在することは、取り上げ処分の要件ではない、

解雇さえされれば、解雇理由に相当する事実の有無を調査審査することなく、教育委員会は教育職員免許状を取り上げなければならない、

という立場を採用しています。文献等に書かれているわけではありませんが、私の実務経験上、職員免許状の取上げ処分の効力を争って取消訴訟を提起すると、行政側からは、こうした主張が返ってきます。

 それでは、私立学校の教員の方は、解雇が無効であることを、どのような手続で争えば良いのでしょうか?

 この問題を考えるうえで参考になる裁判例が、近時公刊された判例集に掲載されていました。東京地判令6.1.26学校法人成城学校事件です。

2.学校法人成城学校事件

 本件で被告になったのは、中学校・高等学校(本件学校)を設置している学校法人です。

 原告になったのは、本件学校の専任教員として勤務していた方です。生徒の保護者と性的な関係を持ったことなどを理由に懲戒解職処分(懲戒解雇処分)を受けました。

 これに対し、「本件保護者と不貞行為をし、性的関係を持ったことはない」と主張して、懲戒処分が無効であることの確認等を請求して被告を提訴しました。

 懲戒解職処分を受けた後、原告の方は、退職を受け入れ、他の学校法人と雇用契約を締結して、教員として働いていました。地位確認請求訴訟の形をとらず、懲戒処分の無効確認請求訴訟の形をとったのは、

教育職員免許状の取上げの効力を阻止・争わなければならない、

だからといって、復職するつもりはない、

という状況に迫られてのことだったと推察されます。

 しかし、裁判所は、次のとおり述べて、懲戒処分無効確認請求の訴えの利益を否定しました。

(裁判所の判断)

「本件懲戒処分の無効確認の請求は、過去の法律行為の効力の確認を求めるものであるところ、過去の法律行為の確認は、当該法律行為を基礎として複雑な法律関係が生じるなどしていることにより、これが無効であることを確定させることがこれを基礎として生じた法律上の紛争を解決するために必要かつ適切である場合に限り、確認の利益があるというべきである。」

「しかるところ、前提事実・・・及び弁論の全趣旨によれば、原告と被告の雇用契約が終了していることについて、原告と被告との間に争いはなく、本件懲戒処分が無効であることを確定しても、原告と被告の現在の複数の権利関係を確定させることにはつながらない。」

原告は、私立学校の教員であっても、懲戒解雇をされた場合には、教員免許状が取り上げられることから、本件懲戒処分の無効を確認する確認の利益がある旨主張する。

この点、教育職員免許法11条1項は、私立学校の教員が、同法10条1項2号(公立学校の教員であって懲戒免職の処分を受けたとき)に規定する者における懲戒免職の事由に相当する事由により解雇されたと認められるときは、免許管理者は、その免許状を取り上げなければならない旨規定している。しかしながら、原告と被告の間で本件懲戒処分の無効が判決をもって確認されることが、本件各取上げ処分の取消事由や無効事由となるなど、本件各取上げ処分の効力を失わせる法律上の要件となるような規定は見当たらない。また、原告と被告の間の確認判決の既判力は、原告の免許状の免許管理者である東京都教育委員会や東京都教育委員会が属する東京都には及ばないから、当該判決には、本件各取上げ処分の適法性を左右するような法律上の効力はない。

「そうすると、原告の前記主張は採用できない。」

「以上によれば、本件懲戒処分の無効確認の請求は、確認の利益を欠く。」

3.それなら免許状取上げ処分の中で争えなければおかしいのではないか?

 裁判所は判決で懲戒免職処分の無効を確認することは、取り上げ処分の効力を失わせる要件ではないから、確認の利益は及ばないと判断しました。

 しかし、そうであれば、

解雇さえされれば教育職員免許状を取り上げることができる、

解雇事由に相当する事実があるのか否か(解雇が有効かどうか)は関係ない、

という行政解釈に問題があるのではないかと思われます。行政解釈は、解雇の有効・無効は行政訴訟ではなく、雇い主との民事訴訟で片付けて来いという立場だからです。

 この判決は、教育職員免許状取上げ処分の取消訴訟を提起・追行するにあたり、行政解釈に反駁する論拠として活用できるのではないかと思われます。