弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

分限処分(分限免職処分)にあたり、合理的配慮の提供が前提となると判示された例

1.障害者雇用促進法上の合理的配慮の提供義務

 障害者雇用促進法36条の3は、

事業主は、障害者である労働者について、障害者でない労働者との均等な待遇の確保又は障害者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となつている事情を改善するため、その雇用する障害者である労働者の障害の特性に配慮した職務の円滑な遂行に必要な施設の整備、援助を行う者の配置その他の必要な措置を講じなければならない。ただし、事業主に対して過重な負担を及ぼすこととなるときは、この限りでない。」

と規定しています。いわゆる「合理的配慮の提供義務」と呼ばれている条文です。

 一見して分かるとおり、合理的配慮の提供義務の主語は「事業者」とされていますが、この条文の趣旨は、国や地方公共団体が障害者に対して分限処分を行う場合にも妥当するのでしょうか?

 この問題を考えるにあたり参考になる裁判例が、近時公刊された判例集に掲載されていました。東京地判令5.12.18労働経済判例速報2557-26 国・東京国税局長事件です。

2.国・東京国税局長事件

 本件で原告になったのは、国税調査官の方です。東京国税局長から分限免職処分されたことを受け、その取消を求めて国を提訴したのが本件です。

 原告の方は脳出血を発症し、「右被殻出血後遺症、左片麻痺、症候性てんかん」等の診断を受けており、これが分限免職処分に繋がった経緯がありました。

 このような状況のもと、裁判所は、分限免職処分(本件処分)の適法性の判断枠組みを、次のとおり判示しました。

(裁判所の判断)

「法78条所定の分限制度は、公務の能率の維持及びその適正な運用の確保の目的から、同条に定める処分権限を任命権者に認めるとともに、他方、公務員の身分保障の見地から、その処分権限を発動し得る場合を限定したものである。分限制度の上記のような趣旨・目的に照らし、かつ、同条に掲げる処分事由が被処分者の行動、態度、性格、状態等に関する一定の評価を内容として定められていることを考慮するときは、同条に基づく分限処分については、任命権者にある程度の裁量権は認められているが、もとよりその純然たる自由裁量に委ねられているものとはいえず、その判断が合理性を持つものとして許容される限度を超えた不当なものであるなど裁量権の運用というべき場合には、違法なものと評価すべきである。」

「したがって、処分事由の有無の判断について、任命権者に一定の裁量があることを前提としつつも、社会観念上著しく妥当を欠き裁量権を濫用したと認められる場合には違法であると解される。そして、公務員としての地位を喪失させる免職処分の場合には、分限事由の判断について、厳密、慎重であることが要求され、厳に任命されている官職より下位の職制上の段階に属する官職の職務を遂行することができるか否かも考慮すべきである。」

「ところで、障害者雇用促進法36条の3は、事業主に対して加重な負担を及ぼさない限りにおいて、事業主に対し、障害者である労働者について、障害者でない労働者との均等な待遇の確保又は障害者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するため、その雇用する障害者である労働者の障害の特性に配慮した職務の円滑な遂行に必要な施設の整備、援助を行う者の配置その他の必要な措置(合理的配慮)を講じなければならない旨を定めている。」

「そして、障害者雇用促進法6条に基づき、国の機関は民間企業に率先垂範して障害者雇用を進める立場にあることを踏まえると、国家公務員に関しても、国家公務員法27条所定の平等取扱原則及び同法71条所定の能率の根本基準に基づき、上記同様の合理的配慮を講ずべき義務があると解するのが相当である。」

「したがって、上記・・・の裁量権は、各省各庁の長に対して過重な負担を及ぼさない限りにおいて合理的配慮を提供することを前提に行使される必要があると解すべきである。」

3.請求こそ棄却されているが・・・

 本件は、結論として、原告の請求を棄却しています。

 とはいえ、分限免職処分の可否の判断枠組みの中に、障害者雇用促進法上の合理的配慮の提供義務を読み込んだことは注目に値します。裁判所の判断は、障害がもとで公務の能率を維持できないと判断され、分限処分を受けた方が、その適法性を争う場面において、実務上、広く活用して行くことが考えらえます。