1.試用期間前の解雇
試用期間の法的性質には幾つかの理解の仕方があり得ますが、解約留保権付雇用契約と理解される場合が多いのではないかと思います。
この留保解約権(解雇権)の行使時期について言うと、試用期間満了前に行使することが禁止されているわけではありません。ただ、労働者の適性の有無は試用期間中の全期間を見たうえで判断されるべきとの考え方のもと、より高度の合理性と相当性が求められることはあります(第二東京弁護士会労働問題検討委員会編『労働事件ハンドブック』〔労働開発研究会、2023年改訂版、令6〕69頁参照)。
近時公刊された判例集にも、この系譜に属すると思われる裁判例が掲載されていました。東京地判令5.12.1労働経済判例速報2556-23 R&L事件です。
2.R&L事件
本件で被告になったのは、太陽熱電池等の輸出入、販売、施工、修理及びコンサルティング業務等を目的とする株式会社です。
原告になったのは、ペルー共和国から来日した男性です。被告と期間1年の有期雇用契約を交わし、プロジェクトマネージャーとして勤務していた方です。
試用期間3か月で令和3年10月25日から勤務を開始したところ、試用期間満了前である令和3年11月25日に「業務を円滑に遂行するための日本語によるコミュニケーションが取れない」ことなどを理由に解雇されました。これを受けて、解雇無効を主張し、未払賃金等を請求する訴えを提起したのが本件です。
この事件で裁判所は、解雇は無効であるとして、原告の請求を大筋において認めました。目を引かれるのは、その中で、次のような判断が示されていることです。
(裁判所の判断)
「仮に原告の日本語能力に十分ではない部分があったとしても、原告が、日本語教育研究所の評価する日本語能力を有し、かつ、被告の提供する週1回の日本語教室に通うなどの意欲を示していたことからすれば、上記試用期間3か月のうち約1か月が経過した11月25日の時点で、試用期間が満了する令和4年1月24日の時点において本件雇用契約で前提とされていた上記・・・『中級』の日本語能力を有さないことが見込まれる状態にあったとは認められない。」
(中略)
「労働者の資質等を調査するための期間である試用期間3か月のうち約1か月が経過した11月25日の時点で、試用期間が満了する令和4年1月24日の時点においても本件雇用契約において想定されていた専門的知識を欠くことが見込まれる状況にあったとも認められない。」
(中略)
「労働者の資質等を調査するための期間である試用期間3か月のうち約1か月が経過した11月25日の時点で、令和4年1月24日の時点においても原告の被告の業務に関する意欲の欠如が見込まれる状況にあったとも認められない。」
3.能力は使用期間満了までにカバーされていればいい?
上述のとおり、裁判所は、試用期間の満了時において日本語能力、専門的知識、意欲の欠如が見込まれる状況にあったとは認められないとして、留保解約権(解雇権)の行使を否定しました。
試用期間の満了時を基準に解雇事由の有無を判断することが明確に示された例は、あまり目にすることがなく、画期的な判断ではないかと思います。裁判所の判旨は、未経験者可の仕事に応募して試用期間途中で能力不足を理由に留保解約権を行使された事例などにも広く応用できる可能性があり、実務上参考になります。