弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

違法な懲戒処分が行われたことに対する懲戒委員会委員の個人責任

1.学長・懲戒委員会委員の個人責任

 大学に限ったことではありませんが、懲戒処分を受けた方から、懲戒委員会を構成する個々の委員に対し、違法・無効な判断をしたことに対する責任を問うことができないかという相談を受けることがあります。

 会議体の構成員に対して個人責任を問うことは、それほど簡単な問題ではありません。会議体では、議論によって結論を出すことが予定されているからです。特定の構成員個人が誤った意見を持っていたとしても、通常、不適切な意見は議論の過程で是正されることになります。そのため、不適切な意見表明をすること自体に過失があったとしても、それと会議体の不適切な意思決定との間に相当因果関係(普通その行為からその結果が生じるという関係)が認められるとは限らないからです。

 しかし、違法・無効な懲戒処分を受けた方の、懲戒処分に賛成票を投じた構成員個人の責任まで追及したいという気持ちは、決して理解できないものではありません。

 こうした問題意識を持っていたところ、近時公刊された判例集に、懲戒委員個人の責任を認めた裁判例が掲載されていました。一昨昨日、一昨日、昨日と紹介させて頂いている東京地判令2.10.15労働判例1252-56 学校法人国士舘ほか事件です。

2.学校法人国士舘ほか事件

 本件は大学教授に対する懲戒解雇・降級処分の効力が問題になった事件です。

 被告になったのは、

7学部及び大学院10研究科を有する大学(本件大学)を設置・運営している学校法人(被告法人)、

本件大学の教授・学長(被告Y1)、

本件大学の教授・学部長(被告Y2)

の三名です。

 原告になったのは、教授職の2名です(原告X2、原告X1)。

 被告Y1が訴えられたのは、懲戒委員や被告法人の理事等の立場で、原告X2や原告X1の懲戒処分等に賛成票を投じるなどいていたからです。こうした投票行為が不法行為に該当するとして、原告X2及び原告X1は、被告Y1に対し、損害賠償(慰謝料の支払い)を求める訴えを提起しました。

 これに対し、裁判所は、次のとおり述べて、Y1の責任を認めました。

(裁判所の判断)

・原告X2と関係

「教員に対する懲戒処分は被告理事会に決定権があり、学長及び理事である被告Y1の独断によりなし得るものではない。」

「しかし、被告Y1は、学長として教員の人事につき理事会に上申する権限を有するところ・・・、解雇理由①③についての原告X2に対する最初の事情聴取を自ら行い、理事らによる聴聞会の聴取に座長代行として加わり、解雇理由①~③についての懲戒委員会の委員長代行を務め、懲戒委員会の委員の一人として、解雇理由①~③について懲戒が相当である旨の答申に賛成したほか、理事の一人として、本件解雇を行う旨の理事会決議にも賛成した・・・。」

「そして、被告Y1の前記各行為により、違法な本件解雇が行われるに至ったものであり、被告Y1が、規律違反とはいえない解雇理由③を懲戒事由とし、重大とはいえない解雇理由①②をもって懲戒解雇という過大な処分を選択する意見に賛成したことについて、被告Y1には過失がある。被告Y1が、懲戒委員会や理事会の一構成員であったとの事情は、この判断を左右するものではない。

「以上より、被告Y1の前記・・・の各行為には、原告X2に対する不法行為が成立する。」

・原告X1との関係

「被告Y1は、学長として教員の人事につき理事会に上申する権限を有するところ・・・、処分理由①③についての原告X1に対する最初の事情聴取を自ら行い、理事らによる聴聞会の聴取に座長代行として加わり、処分理由①~④についての懲戒委員会の委員長代行を務め、懲戒委員会の委員の一人として、処分理由①~④について懲戒が相当である旨の答申に賛成したほか、理事の一人として、本件降等級処分を行う旨の理事会決議にも賛成した・・・。」

「そして、被告Y1の前記各行為により、違法な本件降等級処分が行われるに至ったものであり、被告Y1が、非違行為とはいえない処分理由①~③を懲戒事由とし、均衡を欠く処分理由④の一部の事実をもって懲戒として教授の地位をはく奪するという過大な処分を選択する意見に賛成したことには過失がある。

また、本件専攻主任解任及び、本件授業担当外しは、被告Y1が学長としての権限を濫用し行ったものであるから、個人としても不法行為が成立する。被告Y1は、被告法人の原告X1に対する不法行為の全てに関与しており、被告法人の責任と同等の責任を負う。

3.被告側が学長や理事の兼任者であるという特殊性はあったが・・・

 損害賠償責任の認められた被告Y1は、学長や理事を兼任しており、単なる懲戒委員会委員とは異なった地位にありました。本判決の及ぶ射程を考えるうえで、Y1がこうした特殊な地位にあったことは踏まえられておく必要があります。

 それでも、因果関係について特に詳細な判断を行うことなく不法行為責任の成立を認めたことは画期的な意義を有しているように思われます。この論理の運び方からすると、漫然と不適切に賛成票を投じさえすれば、直ちに不法行為が認められるかにも読める可能性があるように思われます。