弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

試用期間中の解雇-初期と終期とで解雇のしやすさに違いはあるか?

1.試用期間中の解雇

 長期雇用制度の下の正規従業員の採用にあたり、一定期間を試用期間として労働者の能力、適性をみることは多くの企業において行われています(佐々木宗啓ほか編著『類型別 労働関係訴訟の実務』〔青林書院、初版、平29〕262頁参照)。

 そして、試用期間中の解雇(解除権留保付雇用契約における留保解除権の行使)は、通常の解雇より広い範囲で認められると理解されています(同文献263頁参照)。

 この試用期間中の解雇について、時期的な観点から解雇のしやすさに相違はないのでしょうか? 改善の可能性があることから、初期段階での解雇の方が、試用期間の終了間際での解雇よりも認められにくいといった議論は成り立つのでしょうか?

 この問題を考えるうえで参考になる裁判例が、近時公刊された判例集に掲載されていました。東京地判令元.12.20労働判例ジャーナル100-46 NAIN SOURCE事件です。

2.NAIN SOURCE事件

 本件で被告になったのは、キャンピングカーの製造、販売等の事業を営む株式会社です。

 原告になったのは、被告を試用期間中に解雇された労働者の方です。解雇無効を主張して、地位確認等を請求する訴訟を提起したのが本件です。

 本件の特徴は、試用期間の初期段階で原告が解雇されていることです。

 雇用開始日が平成30年5月1日で、試用期間は平成30年8月31日までの4か月間とされていました。

 しかし、被告会社は、平成30年6月1日と雇用開始から1か月しか経っていない時点において、原告に対し、平成30年7月1日付けで解雇するとの意思表示をしました。

 こうした解雇権の行使に対し、原告は、

「試用期間中における留保された解約権の行使も解雇に他ならず、解雇権濫用法理の規制に服する。したがって、本件解雇に合理性、相当性が認められ、その有効性が認められるためには、当該労働者の不適格性を示す事実が存在し、かつ、それが解約を正当化するほど重大であることが立証される必要があり、通常解雇における解約の自由の範囲と、留保解約権におけるそれとの差異は質的差異ではなく、量的差異にとどまり、留保解約権の行使については、本採用後の通常解雇に準ずる合理的理由を要するものと解される。そして本件は、試用期間満了に伴う解雇(本採用拒否)ではなく、4か月の試用期間のわずか4分の1にすぎない1か月間で解雇された事案であるところ、試用期間中の解雇は、試用期間の満了を待たずに行われる解雇であるから、試用期間の満了時に行われる本採用拒否よりさらに高度の合理性、相当性が要求される。

との主張を展開しました。

 しかし、裁判所は、次のとおり述べて、試用期間途中と、試用期間満了時とで、解雇のしやすさに違いを設けることを否定しました。

(裁判所の判断)

「被告は、原告の採用に当たり、原告が被告への入社を希望する動機について不安があったことや、原告の具体的な能力や適性等が不明であったことから、原告の適性等を見極めるために平成30年5月1日から同年8月31日までの間を試用期間としたことが認められるところ、これは、一般的に試用期間が、使用者において採用決定の当初において当該労働者の資質、能力等、適格性の有無に関する事項について十分に把握することができないことから、後日の調査や観察に基づく最終的決定を留保する趣旨で設定されることと整合するものであり、このような解約権留保としての試用期間の趣旨からすると、行使の時期にかかわらず、留保解約権に基づく解雇は通常の解雇よりも広い範囲で認められるべきであるが、その解約権の行使は、上記の試用期間の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当と認められる場合に有効となると解するのが相当である(最高裁判所昭和43年(オ)第932号同48年12月12日大法廷判決・民集27巻11号1536頁参照)。」

3.当てはめのレベルで差はあるであろうが・・・

 裁判所は以上のとおり述べた後、結論として解雇は有効だと判示しました。

 同じルールが適用されるとしても(解雇に必要な合理性・相当性の水準に差異はないとしても)、試用期間の初期段階の方が、試用期間の満了時よりも改善の可能性は指摘し易いと思います。

 そういう意味では、試用期間の初期段階での解雇の方が、試用期間満了時の解雇よりも認められにくい傾向にはあるだろうと思います。

 しかし、それは個別事案のルールへのあてはめの問題であり、合理性・相当性の水準に差異を設けることを否定した裁判例があることは、意識しておく必要があります。