弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

雇用期間の定めが試用期間であると認定された例

1.試用期間後の本採用拒否に係る規制の潜脱手段としての有期雇用

 試用期間の定めが解約留保権付労働契約と理解される場合、本採用拒否(留保解約権の行使)は解雇として理解されます。この場合、試用期間中であったとしても、客観的合理的理由・社会通念上の相当性が認められなければ、本採用拒否は違法になり、使用者は労働者の労務提供を拒否することができなくなります。

 こうした規制を潜脱するため、有期雇用契約が用いられることがあります。試用期間を有期雇用契約に置き換え、使用者にとって好ましい場合には期間満了時に無期雇用契約を締結し、好ましくない場合には期間満了とともに契約を終了させてしまうといったようにです。

 しかし、こうした法の潜脱を防ぐため、最三小判平2.6.5労働判例564-7 神戸弘陵学園事件は、

「使用者が労働者を新規に採用するに当たり、その雇用契約に期間を設けた場合において、その設けた趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものであるときは、右期間の満了により右雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き、右期間は契約の存続期間ではなく、試用期間であると解するのが相当である」

と述べ、適正評価・判断のための有期雇用契約を試用期間として理解するべきだと判示しています。

 近時公刊された判例集にも、有期雇用契約を試用期間であると認定した裁判例が掲載されていました。東京地判令5.1.27労働判例ジャーナル139-36 帝都葛飾交通ほか1社事件です。

2.帝都葛飾交通ほか1社事件

 本件で被告になったのは、自働車による旅客自動車運送事業等を営む株式会社(被告帝都葛飾交通株式会社)と、その親会社(被告京成電鉄株式会社)です。

 原告になったのは、被告帝都葛飾交通と(契約書上)期間の定めのある労働契約を締結し、タクシー乗務員として勤務を開始した方です。雇止め又は解雇されたことを受け、その無効を主張し、裁判所に訴えを提起したのが本件です。

 原告が被告葛飾交通から交付された「雇入れ通知書〔臨時〕」には、

雇用期間 令和2年2月25日~同年6月25日

と明記されていました。

 こうした記載があったため、本件では上記期間が雇用期間の定めであるのかが問題になりました。裁判所は、次のとおり述べて、これを試用期間(雇用期間の定めのない労働者)だと判示しました。

(裁判所の判断)

「本件雇用契約においては、雇用期間が令和2年2月26日から同年6月25日までの4か月間と定められていた。」

「しかし、原告は、『ハローワークの紹介により被告帝都葛飾交通に入社したもの」であるところ、「被告帝都葛飾交通がハローワークに提出していた求人票には、雇用形態が正社員であり、最長4か月の試用期間がある旨の記載があった。さらに、被告は、原告に対し、本件雇用契約の締結後、本件研修日程表を交付し、これに準拠した内容で研修を行っており、この間、法令地理試験の受験が義務付けられ、乗客を乗せて運転をしていなかったこと、被告帝都葛飾交通の就業規則にも、試用期間に係る定めがあったことからすれば、本件雇用契約における雇用期間は、その趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものであると解され、当該期間の満了により本件雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が成立しているなどの特段の事情は認められないから、本件雇用契約は無期雇用契約であり、雇用期間の定めは、試用期間を定めたものであったと解するのが相当である。」

3.神戸弘陵学園事件後の有期労働契約が試用期間とされた例

 神戸弘陵学園事件の判決に関しては、批判的な見解も有力であり、裁判例の中にも、その適用に消極的なものが少なくありません。

 しかし、本裁判例は、神戸弘陵学園事件の判示に従い、雇用期間の定めを試用期間だと判示しました。雇用期間を試用期間だと判示した近時の裁判例として、実務上参考になります。