弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

雇止め-使用者が更新年数上限を一方的に宣言しても、一度抱いた合理的期待は否定されないとされた例

1.雇止めと不更新条項

 労働契約法19条2号は、

「当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められる」

場合(いわゆる「合理的期待」が認められる場合)、

有期労働契約の更新拒絶を行うためには、客観的合理的理由、社会通念上の相当性が必要になると規定しています。

 この規定があるため、契約更新に向けて合理的期待を有している労働者は、さしたる理由もなく契約更新を拒絶されることから保護されています。

 しかし、有期労働契約を締結・更新する際、これ以上は更新しないという趣旨の条項(不更新条項)が予め組み込まれていることがあります。

 この不更新条項付きの契約にサインしてしまった場合、そのことは合理的期待の消長にどのような影響を与えるのでしょうか?

 佐々木宗啓ほか編著『類型別 労働関係訴訟の実務Ⅱ』〔青林書院、改訂版、令3〕447頁は、契約更新時に不更新条項が受諾された場合について、

「契約更新時において労働者が置かれた・・・状況を考慮すれば、不更新条項を含む契約書に署名押印する行為があることをもって、直ちに受諾の効果を認めるべきではなく、前記行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するかを検討する必要があり・・・、これが肯定されて初めて、不更新条項の合意による更新の合理的期待の放棄がされたと認めるべきことになる」

と書かれています。

 近時公刊された判例集に、こうした理解に添う規範を定立した裁判例が掲載されていました。横浜地川崎支判令3.3.30労働判例1255-76 日本通運(川崎・雇止め)事件です。

2.日本通運(川崎・雇止め)事件

 本件で被告になったのは、自動車運送等を事業内容とする株式会社です。

 原告になったのは、派遣社員としての稼働を経た後、平成25年6月28日に被告との間で有期雇用契約を締結した方です(本件雇用契約)。本件雇用契約の期間は、平成25年7月1日から平成26年6月30日までの1年間とされ、契約更新に関しては、

「更新する場合があり得る。」

「更新は契約期間満了時の業務量、勤務成績、態度、能力、支店の経営状況、従事している業務の進捗状況により判断する。」

「当社における最初の雇用契約開始日から通算して5年を超えて更新することはない。」

と定められていました。

 本件雇用契約は1年毎に更新を重ねらましたが、更新の定めに従い、原告の方は、平成30年6月30日付けで雇止めを受けました。これに対し、雇止めの無効を主張し、地位確認等を求める訴えを提起したのが本件です。

 裁判所は、結論として雇止めを有効とし、原告の請求を棄却しました。しかし、労働契約に不更新条項が付けられている場合の雇止めの可否については、次のような判断を示しました。

(裁判所の判断)

「労働契約法19条2号は、最高裁昭和61年12月4日第一小法廷判決・裁判集民事149号209頁(日立メディコ事件)の判例法理を実定法としたものであると解されており、同号の要件に該当するか否かは、当該雇用の臨時性・常用性、更新の回数、雇用の通算期間、契約期間管理の状況、雇用継続の期待をもたせる使用者の言動の有無等の客観的事実を総合考慮して判断すべきである。そして、同号の『満了時』は、最初の有期雇用契約の締結時から雇止めされた雇用契約の満了時までの間の全ての事情が総合的に勘案されることを示すものと解されるから、上記満了時までにいったん労働者が雇用継続への合理的期待を抱いたにもかかわらず、当該有期雇用契約期間満了前に使用者が更新年数の上限を一方的に宣言したとしても、そのことのみをもって直ちに同号の該当性は否定されないと解される。

3.合理的期待が形成された後は、一方的に期待を奪われることはない

 本件は契約当初から不更新条項が挿入されていたケースであり、合理的期待が奪われたとは言いにくい事案でした。

 しかし、本件を離れ、不更新条項に基づく雇止めの可否が争われる紛争全体に目を向けると、契約更新の途中から不更新条項を挿入されているケースは決して少なくありません。そうしたケースで雇止めの効力を争うにあたり、本件で裁判所が示した上記の判示は労働者側に有利に活用できる可能性があります。